いつまでも、あると思うなサボの種。


最近、ちょっと気になった話。

この十数年、毎年のように種蒔きを続けてきました。
サボテンの場合、植物本体の輸入が栽培株・野生株含めてとても難しくなっているので、新しい植物を手に入れる
ほぼ唯一の方法が、輸入種子の実生だからです。



IMG_8540S.jpg

IMG_8542S.jpg

IMG_8544S.jpg
               '1year' seedlings of cacti


最近では、しきりに自生地を歩いているチェコの業者のリストに、目新しいものがないかと探すのですが、
今年はそれほど目を惹くものがない。チェコの種は大部分が産地採種らしく、誰かが沙漠旅に出かけない限り、
新しい種類が出回らない傾向があります。そういう意味では安定供給源とは言い難いのです。
結局、今年の種選びでは、今のうちに手に入れておかないとこのさき得難くなるものはなんだろう・・・と想像をめぐらし、
ナーセリーでの採種が難しいコピアポア属や、栽培の原点でもある北米難物種を中心に注文することになりました。

そう考えたのにはひとつ理由があって、私がサボテンの実生をはじめた20年ほど前には、質量ともに他を圧倒していた、
メサ・ガーデン(MesaGarden・・・アメリカのサボテン・多肉専門の種子業者)のリストに、ある変化を感じたからです。



msdlit20121S.jpg



チェコなど欧州勢を中心に産地種子の供給元が拡がりつつある今でも、スクレロ・ペディオなどの北米難物種や、
さまざまなマイナー種まで含めたメセン類などでは、メサガーデンはなお他園の追随を許しません。
というか、難物サボの開花株を栽培維持しつつ同産地の複数クローンから種をとって供給する、などという芸当は、
今後もどこの業者にも出来ないんじゃないかと思います。メサの園主SB氏は私の難物サボテンの師匠でもあり、
一緒に沙漠でキャンプをした友人ですが、年齢的には私の父親の世代にあたります。彼はものすごく几帳面で、
栽培に関しても厳密な人です。たとえば、灌水や授粉作業は自分で行い、スタッフにはやらせないと話していました。
沙漠で彼が目当ての植物を見つけた時の嬉しそうな表情は、商売人ではなくマニアック親爺そのものでしたし、
だからこそ、ほとんど売れないものも含めて、あれだけの種類の種子を供給し続けることが出来たのでしょう。
しかし、いまやその作業が大きな負担になっているであろうことも想像に難くありません。

そして、今年私が衝撃を受けたのは・・・



IMG_0195-bS.jpg
               
IMG_0196bS.jpg



気づきましたか?

まず、上のペディオカクタスのリスト。飛鳥(P.peeblesianus)と月華玉(P.simpsonii)の間から
ある種が消えました。何かわかりますか? ・・・そう、天狼(P.sileri)です。
そして下のスクレロのリスト。いくつかある白紅山(S.polyancistrus)の産地違いのなかから、
フィールドナンバー SB1773(San Bernardino,California)がなくなっています。
前者は、言わずと知れた難物サボテンの王(ですよね?)。以前はアリゾナ産、ユタ産と2、3の産地からの
種子がアップされていましたが、今年はまったく見あたりません。
白紅山のSB1773の方は、古くから供給されていた、紅白の長刺が乱舞する、カリフォルニア・モハーヴェ沙漠産の
もっとも豪壮な刺のコロニー。しかし栽培が最も難しく感じるタイプでもあります。
両者に共通するのは、難物サボテンの中でも、最も栽培困難だということ。かつて園を見学させ戴いた時にも、
親株はともに数本だけでした。



sileNWF4lS.jpg

sileNWF7lS.jpg
               Pediocactus sileri in habitat


ここで私の脳裏をよぎったのは、一昨年SB氏から聞いた、水害で北米難物の標本が相当ダメになったという話。
つまり、種をとれる親株がもはや甫場になくなってしまったのではないか・・・と想像したのです。
先述のとおり、天狼や白紅山の標本から種を採って供給出来るナーセリーが、新たに登場する展望はありませんから、
最悪の想像では、天狼や、白紅山SB1773の種子の入手は今後まったく不可能になります。
他にも、白虹(Sclerocactus whipplei)や月想曲(Sclerrocactus mesae-verdae)、
多くの月華玉(Pediocactus simpsonii)など、多くの北米高山種も、他園からの入手が期待しにくい種子なので、
将来は同じ懸念が持ち上がるでしょう。



cacsuc6978454S.jpg
               Sclerocactus polyancistrus "SB1773" from seed


ここ十数年、北米難物サボテンの園芸栽培はメサガーデンあってこそ成り立っていたと言えます。
でもこの先「難物なんだから枯れてあたりまえ、またメサから種を買ってやり直せばいいさ」が通用しなくなるかも知れません。
となると、今後これらの気難しいマイナーサボテンを栽培対象として維持していくには、決して多いとは言えない
モノ好きなアマチュアが、自ら種を得て代を継いてゆくほかない、ということになるわけです。
私や皆さんのところにある標本株もしくはその候補たる若苗は、世界遺産なみに大切~なものになっちゃうかも・・・。

たとえば天狼、私のところには3つの産地の天狼が数本ずつありますが、正木の苗はむろん、接ぎ木苗でも
気まぐれに数年に一度咲くくらいで、我が家では種を得られたことがない。
白紅山のSB1773は接ぎ木苗が毎年咲きますが、開花株は1クローンだけで、残るは実生の中小苗のみ。
つまりいずれも自家採種が叶う日はまだまだ遠いというのが現状です。
こうなると接ぎ木をうまく使ってでも種をちゃんと採って残すという考え方が必要かも知れませんね。



IMG_5903S_20120202224001.jpg
               Sclerocactus 'busekii' SB1086 seedling


需要あるところに供給あり、という経済原則も、マニアック植物の極小な市場では通用しそうもありません。
むしろ経済の理屈は、僅かしか売れないマイナーな植物を、業者の棚から淘汰する方向に向かっているようです。
我が道楽は、プロ栽培家のなかの商売を超えた愛好家精神に支えられてきたんだなぁ、と痛感するこの頃です。






テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

非公開コメント

私はいわゆる難物を注文することは無いのですが、種では手に入りにくい団扇サボテンを苗で注文します。実際、Opuntiaは種子のカタログと苗のカタログでは顔ぶれが全然違いますね。昨年もいくつかの種類の苗を注文しましたが、園主いわく、書類仕事が大変だけれど団扇は書類がいらないから、とのこと。それでも、到着したのは注文した数の3分の1くらいでした。
次回からは、お年のことも考えて、一度に沢山注文しないで、こまめに発注しようかとも思っています。
メサ・ガーデン園から特定の種が消えてゆくのも困りますが、園そのものが消えてしまわないことを願うばかりです。

今回の天狼や白虹山SB1773のリスト落ちが一過性のものであることを祈るばかりです。
かく言う私も先月、難物を含む何種かをメサにオーダーしました。
届いたら微力ながらしっかりと育てなきゃと思います。

こんばんは,
そんな状況だったのですかーー.
フィールドナンバーという情報を整備したタネが供給されるのは,サボテン界にとって今後ともぜひ必要なことだと思います.
本当は現地で活動する会社組織があるといいのですがね.
それにしても,メキシコに行ってみたいなーと思います.

No seed on list

Shabomaniac!さん、こんばんは。
Mesa Garden Seed list について私も驚きました、これから先
U.S.A.西部産のいくつかの種類も同じ事になるかもしれないという
不安があるのですね。
Echinocactus polycephalus var.xeranthemoides これもまた
今年のリストに見当たりません! 
いままで手に入っていた事のありがたさを、痛感しています。

 Steven Brack 氏の優しい情熱に感謝しながら、オーダー
リストを作っています。

こんにちは
貴重な情報を拝読させていただき、北米産の難物サボテンの親木から
の採種、実生苗を残していく必要性を感じました。

国内で流通している接ぎ木繁殖ものの中には、かき仔の繰り返しで、
買っても花が咲かなかったりして、採種が出来ない場合がままありま
す。

私の所には、P.月華玉の古い輸入親木や、S.白虹山の原産地種子
の接ぎ木苗などがあるので、増殖を図ってみようと思います。
天狼もありますが開花を見ていません。

Shabomaniac!さん、こんばんは。

調べてみると、2002年にP118、2011年にSB473、そして今年はSB1872と狼たちは消えていってますね。

去年はMESAから来た種も全然播けなかったので今年は注文しなかったのですが、
これから気を引き締めて難物たちと接していきたいと思います。

杉花粉はいただけませんが、フィールドナンバーの花粉情報を出して、開花時期がマッチしそうな花粉をShabomaniac!さんに送るということも考えたりします。
年に一回送れるかどうかという栽培レベルですが・・・。

かすかに寒さが緩んできたような・・・気がするだけか?
毎度のことですが、先週はバタバタ忙しく一度も栽培場をのぞけませんでした。
こちらも毎度のことですが、レスポンス遅くて恐縮です。

>queiitiさん
ウチワの種子もなかなか手に入りにくいですね。メサは屋外に大量の北米オプンチア種木を地植えしていたのですが、これも件の寒波で大分やられたようです。ちなみにOpuntiaはみな書類不要、というのは違うようで、去年そう思って輸入したものがすべて本国送り返しということになってしまいました。
参考URL:http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/download/cites/2010/20100705_214_ci.pdf

>アイハルさん
SB1773や天狼、リストに復活してほしいですね。メサは信頼できる愛好家からも種を集めているようですから、ご当地の栽培名人が種をとって供出してくれる可能性もあります。そう何人もいるとは思えませんが・・・。アイハルさんは栽培名人なので、そのうち開花株が育ってくることを期待してます。

>さぼちゃんだいすき
そうですね。メキシコやチリなどに業者さんがあれば良いのでしょうが、たくさん揃えても手間ばかりかかるので敬遠されるようです。しばらくはチェコの人たちの情熱に期待するほかありません。小さい国なのに、毎年100人くらい自生地に行くみたいです。日本も欧州なみに休暇がもう少し長いと旅に出やすいのですが・・・メキシコはぜひ旅したいですね。

>Yuccaさん
メサ園主は、合衆国産のものについては、いまも山で種集めをするようです。竜女冠などは、ナバホブリッジのあたりにいけば、ゴロゴロ生えていて種もたっぷりついていますから、復活の可能性はあるのではないかと・・・。大竜冠に比べると育てやすいし、刺色もいろいろ出て実に魅力的なサボテンですね。といっても、実生開花は果てしなく遠いですが。

>Doremifaさん
月華玉など、ながく輸入がないですから、現地株はとっても貴重だと思います。実生しても長細く育ちなかなか作りにくいサボテンなので、長年維持されているのは素晴らしいですね。白紅山ともども、増殖できると良いですね。天狼は、いわゆる北米難物でもっとも開花しにくいように思えます。たまにポコっと咲きますが、なにが理由かもよくわかないのです。

>masutusさん
おそらく、Mesa
でも天かける狼の復活は難しいのでは、と思っていますが、国内で、彼ら北米難物が子孫を残せるとしたら、masutusさん圃場が一番可能性が高いのでは・・・と思います。花粉交換もありですね。万一天狼などが咲いたら、カプセルにでも詰めて冷蔵保存してみます。たしか2週間くらい保つと読んだ記憶があるものの、実は試したことがないのですが・・・。

大変判りにくい書類ですが、結局Opuntia ficus indicaとOpuntia streptacantha意外は規制対象ということですか。一体、その根拠は何なんでしょうか。

>結局Opuntia ficus indicaとOpuntia streptacantha意外は規制対象ということですか。

たぶん、そういうことのようです。おそらくですが、この2種は、食用(葉、果実)などで多量に栽培利用されているので、農作物に準ずる扱いということなんじゃないでしょうか。

お早うございます。
難しいことは良く分かりませんが、なにより一番大事なことはその自生地を守るということに尽きると思います。
種子からの栽培が難しいものほど自生地での保存が必要なのはもうわかりきったことだと思います。
種子もそれぞれに手に入らない年を設けたり。自然繁殖にはならないのでやってはいけないことなのかもしれませんが、人が自生地で繁殖に手を貸すくらいでもいいのかな?とも思ったりしました。

覚悟してます。

sileriやSclerocactus polyancistrus "SB1773"が無かったのには(´д`)がっかりしました。毎年Mesaに種を注文してますが、今年も注文とは全く違う種が入ってました。この現象は年を追うごとに酷くなっている気がします。Mesaに問い合わせたところ、今日メールが届き”間違いを聞かせてください”との事でした。世界一のサボ種業者さんですが、8年前と比べマンパワーは激減したように思います。寄る年波には勝てないですね。本物のped&sclの種が手に入らなくなる日を覚悟してます。

>saeさん
たしかに、どんなサボテンも野生の姿がいちばん気高いですね。多くの種類が開発や愛好家向けの乱獲で、絶えたり減少しているのは残念です。むやみな山採りを減らすためにも、自園で採れた種を供給するナーセリーの存在は大事です。繁殖植物を山に植物を返す、というのも将来はありですよね。そのためにも野生の遺伝情報がちゃんと残っている産地データ個体は大事です。日本の兜は魅力的ですが野生には返せないですから。
>sileriさん
そうですか・・・やっぱり間違いが多いですか。最近は中国などの顧客が殖えて仕事が倍増しているらしく、そのへんも関係あるのかも知れません。ただ、中国の人の注文は特定の種(有星類など日本と似た傾向)に集中するとも言ってました。ちなみに、スクレロやペディオを頼む人は数十人ほど(世界で!)と聞いたこともあります。それではたしかに、商売とはしては大変ですね。

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物、栽培、探究。

最新記事
全記事表示を読む

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
リンク
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
Excite自動翻訳
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる