黒虹山・シュレセリーが消えた丘。

黒虹山、好きな呼び名です。こっこうざん、という響きも心地よいし、黒白のリボンが絡みあうような刺姿にも
あっています。白虹山(白紅山)と並ぶ美刺スクレロの双璧。
でも、それだけではなく、私にとっては「難物サボテン道」への導き手のような存在でもあります。


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          Sclerocactus spinosior ssp.schleseri (blainei) Lincorn.Co. NV


スクレロカクタスをはじめとする北米難物に、私が惹かれるようになったのは、子どもの頃ころ読みふけった
サボテン本に「最美にして栽培至難、幻の植物」などと記されているのを読んで、憧れを募らせていったことが
そもそもでした。

そしてその後、おとなになって実際にこれらの植物の栽培にのめりこむきっかけが、この黒虹山シュレセリ。
私の栽培場で、種蒔きからはじめて初めて開花したスクレロカクタスだったのです。
シュレセリはこの属のなかでは発芽率もましな方で(おそらく開花しやすい為、種が新しい)正木で順調に育ち、
直径3cmくらいから咲き始めます。そのうえ、難物貴品の名をはずかしめない何とも言えぬ美しさがある。
そうか、難物サボテンといっても、ちゃんと育って花も咲くんだ・・・そう思って、以降ほかの種類も含めた栽培に
本格的に取り組むようになりました。

栽培可能なスクレロカクタス…それが黒虹山シュレセリでした。


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            Sclerocactus spinosior ssp.schleseri SB1015 grown from seed
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               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri SB1015 3-4years from seed


スクレロカクタス・シュレセリ(Sclerocactus spinosior ssp.schleseri=blainei)は、
アメリカ・ネヴァダ州のたった2つの町の周辺だけで自生が確認されています。
基本種の黒虹山(S.spinosior ssp.spinosior)はユタ西部の広い範囲に分布していて、シュレセリは
州を越えてその西端に位置しています。基本種との違いは、小さいこと、刺が長く絡み合うことや幼苗の独特な姿など。
そして、これは学術的な差異ではありませんが、もっとも大きな違いは、割と栽培しやすいという点。

私が、シュレセリの自生地をネヴァダ州に訪ねたのは1998年と、翌99年のこと。
自生地が近くにあるふたつの町は、南北に70マイルくらい離れていますが、その間では今のところシュレセリは
見つかっていません。それぞれの町の周辺数マイルの範囲に小さなコロニーが散らばっているだけです。
ある調査では、全ての自生地における確認個体数がわずかに211本!という稀少種ですが、実際はダート道さえない
未踏の荒野が拡がっているエリアなので、人知れず存在するコロニーもあるものと思われます。


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               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri at type locality Lincorn.Co. NV


上の写真は、98年にネヴァダ州リンカン郡(Lincorn Co.)にある、シュレセリのタイプ産地で写したもの。
ついこないだのような気がするけど、すでに十数年むかしのことで、写真の色褪せがそれを物語ってますね^^;。
メサガーデンから「SB1015」としてデリバリーされているのがこの産地のもので、もしかしたら皆さんの栽培場にある
シュレセリと遠からぬ親戚である可能性も大です。

1枚目は、この種としてはまずまず大きい部類の株で、売り物のリボン状の刺がそろそろ目立ち始めてきたところ。
2枚目は、幼苗時の独特の姿で、これもこの種の魅力のひとつ。微毛の密生した白刺がちょうどペディオカクタスの
斑鳩(Pediocactus peeblesianus ssp. fickeisenii)を思わせます。しかもこのサイズから開花する訳です。
このコロニーで見つかる個体は、常に数本で、この時点で大きい株は既に見あたりませんでした。

同じ年、タイプ産地から数マイル離れた場所で新しいコロニーも見つけました。


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               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri  Lincorn.Co. NV


これはおそらくメサガーデンから「RP136」としてデリバリーされているものと同じか、極く近い場所のものと
思われます。こちらでも最大のサイズでこのくらい。売り物の黒白のリボン刺が乱舞するには至っていません。
でも、小さいながら完成度の高い姿で、「想定外」の場所で見つけたときは心臓が高鳴りました。
この場所では実生苗も何本も見つけましたが、果たしていま、元気にしているかどうか。

つづいては、より北側のナイ郡(Nye Co.)にあるコロニー。


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               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri  Nye Co. NV


ここも世界のマニアックな刺仙人の間では有名な場所。メサでは「SB1540」の方です。
この写真を写したのは1999年ですが、石の多い、小高い丘を30分くらい歩き回って、ぜんぶで7、8個体を
見つけたでしょうか。

しかし、この産地は、丘のうえのシュレセリーたちは、おそらくその後消滅しました。
2001年に再び訪ねたとき、前に見たのと同じ場所を見て回っても、ただの一本も見つかりませんでした。
さらに数年後も同じでした。加えて、海外の趣味家や研究者で、この丘を訪ねた人も、みな見つからずじまいという
話が伝わってきます。


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               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri  Nye Co. NV


この場所は、足場の悪い丘の上で、家畜による食害などは考えにくい。となると、誰かが持ち去ったのではないか、
と暗い気持ちになりますが、一方で、この植物がかそけき命をかろうじて繋いでいる自生状況を見た人が、もしも
サボテン好きならば(好きじゃなきゃ訪ねませんよね)、とても持ち去ろうなんて気持ちにはなれないとも思います。

もうひとつの可能性は、ある種の甲虫による攻撃です。こやつは、天狼や白紅山など、ペディオ・スクレロ
共通の天敵で、開花時などに成長点付近の柔らかい部分に産卵し、幼虫は植物体の中に潜り込み、中が空洞に
なるまで食い尽くして、成虫になって出ていく。
この虫がいったん現れると、そのコロニーはほぼ全滅します。しかし、正確に言うと、虫が標的にしない小さな
実生や種は残されます。一方の虫は、親株の絶滅後は、幼虫の餌がなくなるため減少します。すると、残っていた
種や実生がコロニーを復興する・・・つまり虫の盛衰とサボテンの消長は自然のサイクルというわけです。

消えたシュレセリーも、この虫にやられたのではないか、そしていつかまた復活するのではないか、というのは、
多くの支持がある有力な説ですが、一方でそうであって欲しいという希望的観測でもあります。



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               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri fh104 grown from seed


栽培の話が最後になってしまいました。
すでに何人もの方が、このシュレセリを実生し、開花サイズに育て上げておられると思いますが、
スクレロのなかでは栽培しやすい植物です。比較的成長もよく、天狼や白紅山ほど、腐りやすいこじれやすい、
ということもありません。また、小さいうちから花が咲くというのは、ゴールが近いという意味でも、
難物サボテンの入門にはぴったりです。なので、種が手に入るうちに、ぜひ実生から育ててみてもらいたい植物です。

栽培下では、スクレロのファン層を拡げて、個体数も増加傾向にあるシュレセリですが、野生株は減少する一方の
ようです。実は、ナイ郡の産地のみならず、冒頭紹介したリンカン郡のタイプ産地でも、シュレセリが
見つからなくなったという話があります。理由はともあれ、いまこの種を野生下で見るのは、とても困難な状況に
なっていることは間違いありません。


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そんな訳で、私たちの栽培場にある個体は、なんらかの理由で生存に不適になった自生地から、からくも避難してきた
高貴なるシュレセリ王朝の末裔たちとも言えそうです(大げさに言えば、貴重な遺伝子資源^^;)。
いつか再び、たくさんのシュレセリが黒白の刺を乱舞させて荒野を彩る日が来ることを願いつつ、小さな鉢植えのひと株に
限りないリスペクトをこめて・・・。



テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

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叙事詩シュッレッセリ、楽しませていただきました。

この種類には、多分食指を伸ばすことは無かろうと思いますが、皆さんが情熱を傾けておられる理由は良く判ります。

Sclerocactus spinosior ssp.schleseriの行く末は…‥、悲しくなりました。Sclerocactusの中でもspinosiorが一番好きで様々なナンバーをメサから購入してます。生息地画像、何度観ても良いですね。うちにはSB1540もありますので大切に育てます。

地球上のさまざまな野生生物が本来の生息地から消えていく...すべてが人間のせいではないにしても、愛着のある彼ら(彼女ら)の姿が見られなくなるのはやはり寂しいものです。

この春播いた難物たちはPedio. Sclero. Echinomastusを数種類ずつ。うち発芽したのはE.lauiとP.simpsoniiの二つだけ。タネが古いせいでもあるまいし...発芽条件やっぱり難しいですね。
不思議なのはP.simpsonii。昨秋遅くに播いたものが冬中ぽつぽつ発芽して、結局一番発芽率が良く、春播きは一割(一粒)だけ。置き場の温度帯は似たような条件でしたから、この差の理由は全くわかりません。
難物道の入口からしてこれですから、その先の険しさは計り知れない...この道を究めようとする皆さんには頭が下がります。

自生地の厳しい環境で生きている難物サボたち姿とともに、Shabomaniac!さんが彼らに注ぐ並々ならぬ愛情に心打たれます。
駆け出しの私も身の程を知らずスクレロの種子を取り寄せてしまいました。
風車に立ち向かうドン・キホーテのような気持ちで近々、熱帯魚水槽で室内実生を始めようと思っています。
これから梅雨と真夏に向かう中、いささか無謀だとも思うのですが……。
それにしても、この刺姿は同じ地球上にあるものと思えないほど美しいですね。

シュレセリが消えていくのは悲しい現実ですね。
そう考えると、うちにある種はとても貴重に思えてきました。
今年はRP136を購入してるので、大事に育てたいと思います。
比較的栽培しやすいと聞いて、私もシュレセリでスクレロの初花を咲かせたいです!!

黒虹山に白虹山どちらも響きよく良い名前ですね。そして刺も形も良いですね。自生地の写真みるといつか我が家でも・・・頑張ります。

>queiitiさん
思い入れ先行の文章でお恥ずかしい限りですが、植物の魅力が多少なりとも伝われば幸いです。
滅多にとれない休みに、軽い財布の中身をはたいて、わざわざ地の果てまでこんな植物を見に行く
なんて(しかも見つからなかったり)酔狂の限りですが、なかなか行ける場所ではないので、
ウズウズしてこんな文章を書いている次第です。

>sileriさん
なくなった、といっても、人間が歩いて見に行ける範囲の話で、茫漠たる荒野のどこかには
コロニーがあるんだとは思います。コロニーごと消滅するペディオ・スクレロは結構あって、
実は天狼もそのひとつです。以前ある産地を訪ねたときに衝撃的な体験をしました。これはそのうち
書こうと思っていますが・・・。

>noriaさん
北米難物の実生はたしかにやっかいですが、今年出ない種が翌年発芽、なんてこともしばしばで、
要は揃って発芽しないことが種の保存に役立つ環境ということなのかも知れません。シンプソニーは
雪解けで地面がぬかるむ早春の頃に発芽する、と言われます。noriaさんのところと同様に、うちでも
2、3月によく芽が出ますね。

>アイハルさん
私もはじめて難物類の種を蒔いたのははじめて間もない中学生の時でしたよ。スクレロはダメでしたが
部屋の窓辺という環境で、英冠が3年くらい育ちました。当時は栽培数も少なくて、集中して向き合った
のが良かったのかも知れません。私も「衣装ケース実生」をやっていますが、水槽で種を蒔くのは良い
方法だと思います。

>yoyonさん
RP136の実生育成、楽しみですね。このコロニーもとっても小さい場所で、100m四方くらいしかありません。
シュレセリもそうですが、崖っぷちサボテンの代表格はコピアポアとよく言われます。産地は乾燥が激しく
なり、このままなら十数年で滅びる、という人もいるくらい。こちらは、元気な株があるうちに是非ひとめ
拝んでおきたいと思っていますが。

>guritogureさん
白虹山に黒虹山、私はとってもいい響きだと思うんですが、妻にはお相撲さんのしこ名みたい、と笑われます。
よくある○×丸、なんて名前のサボテンは、釣り船の名前みたい、と言われたり。実際、和名検索すると釣り船
がヒットして笑っちゃうことがありますが^^。ともあれ、種が手に入るうちに、ぜひ蒔いてみて下さい。
メサガーデンも園主が高齢でいつまで続くかわからないし・・・。

こんばんは!いつも勉強にとってもなりま~す!
詳しいことは全く解かりませんが、日本の栽培家の皆様が実生した「高貴なるシュレセリ王朝の末裔たち」を現地に戻しに行くことはできないのでしょうか?shabomaniac!さんがポケットに自分ちでできた種をいれて・・・ズボンのポケットの穴?から現地で種をばら撒いていうる姿が・・・夢に出そう・・・わわわ~ww上手くいきそうなそんな~気がします!

>takoyashikiさん
そんなことが出来たら素敵ですね。この種類じゃないですが、ペディオで自生地を復興させる計画が試みられたことがあります。しかし元の自生地のすぐ近くに人工的に植えた数百の苗は、微気象レベルの相違が決定的ということなのか、いずれも数年の後に死滅したそうです。壊れた自然を人間がリペアするのはとっても難しいことなんでしょうね。
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