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クレイジージャーニー、カリザレンシス。


 エキノマスタスクレイジーだったことがあります。
 刺、花、稀少性、そして栽培難度。色々な意味で最高峰のカクタスが揃う一群で、手に入るすべての“マスタス”を育ててみたくて片っ端から種を蒔きました。なかで、英冠とならんで、マスタスのなかのマスタスと呼ぶべき桜丸・英丸(Echinomastus intertextus)は、early bloomerと呼ばれ、春を告げる早咲き種のひとつ。私の栽培場でも、いまが花盛りです。




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   Echinomastus intertextus 'carrizalensis' SB725 Luna Co, NewMexico, USA



 産地違いでさまざまなタイプがある桜丸のなかでも、少し濃い色の花を咲かせるこの個体は“カリザレンシス” (Echinomastus intertextus 'carrizalensis')と呼ばれる型で、ずっと昔、メサガーデンのリストに掲載されていたものです。その頃蒔いた株はすぐに枯らしてしまい、そのうちリストからも消えてしまいました。そのため今世紀に入って長らく手に入りませんでしたが、2014年に再びリストアップされました。この株はそのとき入手した種を育てたものです。




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   'Carrizalillo Hills' near the Mexico–United States border




 実は、私がこの植物の実物を最初に見たのは、温室やハウスではなく自生地でした。師匠だったメサガーデンのスティーヴン・ブラック氏にあれこれの自生地を教わって、毎年アメリカ南西部の沙漠を旅行していた頃のことです。その年はメキシコ国境に沿って東に旅しながら植物を見ていました。太平丸や亀甲牡丹、様々なエキノケレウスとともに、マスタスも目当てのひとつでした。なかで、ただ一か所でしか見られない、と説明されていたのが、この“カリザレンシス”。ニューメキシコの南にあるルナ郡(Luna county)のさらにその南端、ほぼメキシコ国境にある Carrizalillo Hills と呼ばれる山(丘陵)の特産だと言うのです。
 その場所を具体的に説明しましょう。まずルナ郡の町、ハチタ(Hachita)からハイウェイ9号線を東へ向かいます。25マイルほど走ると、北から下りてくる331号線と合流する。そこからさらに東へ1マイル弱進んだところで、南に下る小さなダート道があります。このあたりでハイウェイの南側には自生地の山塊が見えているはずです。ちなみにいま、このダートの入口をグーグルストリートビューで覗いてみると、いかめしい警察官が検問をしている様子を見ることができます。 




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   Echinomastus intertextus 'carrizalensis' in habitat



 当時もメキシコからの不法入国は厳しく取り締まられていましたが、ダートには自由に入ることができました。違法なことをするわけではないし、問題ないだろうと山に入ったのです。人の頭くらいもある石がゴロゴロしているかなり酷い道で、時速5キロくらいしか出せません。それでも、山裾がすぐそこという場所まで入ることができました。車を降りて岩場を探すと、苦もなくマスタスには出会えました。赤褐色の刺を荒々しく密生させたカリザレンシス。タワシにような刺に覆われて、植物本体はまるで見えません。たしかに、他の産地の英丸・桜丸とは違う雰囲気もある。整然と籠を編んだような刺の桜丸、すこし目の粗い英丸、それよりもさらにワイルドな印象で、別名で呼びたくなる気持ちはわかります。岩の隙間に点々と生えていて、それなりに数もある。しかしここ、ほかに目立つカクタスもなく、かなり荒涼とした場所です。ところどころ、スペイン語の書かれた空き缶なんかが散らばっている。





   dangerous locality??



 ともあれ、はじめて出会った植物を夢中で撮影していると、突然頭上が騒がしくなってきました。ヘリコプターがバリバリ音を立てて近づいてきています。おまけに、スピーカーから何やら怒鳴っている声も聞こえてくる。呆然として固まっていると、こんどは地上からサイレンの音も。砂埃をあげて2台のパトカーがこっちに走ってきます。ボーダーパトロールです。まじか?いったい何と勘違いされたんだ?よくわかりませんが、とりあえず両手を上げる。警官が近づいてきて身体を触る。「ここで何をやってるんだ?」「ここにしかないレアカクタスを撮影してたんだよ」足元にあるカリザレンシスを指し示し、カメラを見せます。「どこから来た?」「日本だ」「パスポートを見せろ!」「ほら、これだよ」・・・。このあたりで、緊張が少し緩んだのを感じます。おっかない顔が、呆れた顔に変化しました。・・・まあ、こんな体験なかなか出来るもんじゃないですね。

 まさにカクタスクレイジーのクレイジージャーニーでしたが、あとで聞くと、この山を超えて密入国者が入ってくるだけでなく、実は麻薬の密貿易の場所で、両国の売人がブツと金のやりとりをするのだそうです。エキノマスタスもえらいところを選んだもんです。こんなとこに入ってくると、撃たれて死ぬぞ、みたいなことを言われて、その場所を後にしました。もう二度と、カリザレンシスには会えないんだろうなぁ、と後ろ髪をひかれつつ。じつはこの旅では、国境沿いダートを何時間か走ってエスコバリア・ロビンソルムも見に行こうと思っていたのですが、気持ちが萎えて断念しました。いまではこのあたりにはトランプさんの壁も立ちはだかって、ますます近づきがたくなっているんでしょう。




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 ところで、このカリザレンシス、色々調べてみても、正式な記載があるのか、ないのか判然としません。インターネット上にはvar.扱いで掲載されているケースもありますが、おそらくは愛称のようなものと理解すべきでしょう。園芸的にみれば、タワシのようなワイルドな刺、ピンクの花と、基本種との区別はあっても良いかと思います。育てている人がどのくらいいるのか、世界で数人?数十人?かも知れませんが。個人的には、映画の一場面のような光景とともに記憶に焼きついた思い入れ深い植物。あと5年も育てれば、野生株のような荒々しい刺姿になってくれるんじゃないかと、楽しみにしています。













テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

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記事待ってました!

こんにちは。記事更新インスタで見てお邪魔しました。
まさにマスタス狂ですね。

今年から僕もマスタスを!とリストされてるマスタスを片っ端から注文しました。その中に「Echinomastus dasyacanthys v. carrizalensis SB725 Luna Co.,NM」
があります。全く同じはで無いでしょうが栽培されてる写真を見て蒔くのがさらに楽しみになりました。

まずは蒔いて発芽するかですが汗

沙漠の旅 擬似体験

沙漠の旅、楽しめました。
Google map上で指示通りに9号線を東へ…はじめ331号線が見つからず通り過ぎてしまいエル・パソまで行ってしまいましたが、ついでにフランクリン・マウンテンに寄り道して戻ってきました^ ^;
あくまで地図上の話ですが気分だけでも楽しめました。
いつか彼らの自生する地で思いっきり深呼吸してみたいです。

なぜそこに…

定期的に楽しく拝見しております。
Instagram記事更新投稿を見てクレイジージャーニー読ませて頂きました。

カリザレンシス自生地の環境、人の関わり具合が知れて面白かったです。
Shabomaniac!さん程の深く広い知識や経験がないですが、なぜそこに?と考えてしまいます。

現地の警官が呆れる程のカクタスクレイジーぷり最高です。
次回更新も楽しみにしております。

No title

こんばんは~

今だったらもっと厳しいんでしょうね。
ひょっとしたら立ち入り自体できなくなってるかも。
スケールは全く違いますが、ネジバナの変異個体を探していて下着泥棒に間違われたという話を思い出しました。

この記事を見てちょうどネットに出てたカリザレンシスのタネを買ってしまいました。
番号もいっしょです。

No title

お返事がおそくなって大変すみません。この二週間ですっかり春らしくなり、植え替えシーズンも本番ですね。

>にっぴーさん
SB725は、ここの植物そのものだと思います。SBはメサガーデンのフィールドナンバーで、私はSB氏からこの場所を教わって見に行きましたから。楽しみですね。

>イウチさん
グーグル上でのバーチャル沙漠旅、私もよくやってます。アリゾナあたりでは弁慶柱がたくさん見られるし、チリのアタカマ砂漠では、ストリートビューでコピアポアが現れますね。

>とりさん
どういうわけか、アメリカ・メキシコ国境には面白いカクタスがたくさん生えているんですよ。むかしは見られた場所も、「塀」ができるとみられなくなるかも。

>イセゴイさん
同じような国境地帯にあるのが太平ニコリーです。これを見に行った時も、越境者のキャンプの痕を見つけました。あそこも今は行きにくくなっているのかも。
プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

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