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フライレアナと平尾さんのこと。


 錆びた鉄のような色合いの刺はとても特徴がない。でも、夏の終わりに咲く花は、この属としては大輪。桜色のとがった花弁と、魔女の手のように大きく目立つ赤い雌蕊が、なかなか目を惹きます。
 マミラリア・フライレアナ(Mammillaria fraileana)。秀明丸、風蓮丸という愛称も古くからありますが、作っている人は少ないのではないでしょうか。メキシコ・バハカリフォルニアの南部が原産地。同じバハ産のカギ刺マミとしては、風流丸(M. blossfeldiana)や、蓬莱宮(M.schumannii)が有名で、こちらのほうがよく見かけます。かくいう私も、この種を自分で播種したことがありません。毎年沢山の花をつけるこの株は、私がサボテン師匠と仰ぐ数少ない大先輩、平尾博さんから戴いたものです。




 
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   Mammillaria fraileana



 平尾さんと私の最初の出会いは、多くの人と同じで、彼の刊行した出版物でした。昭和の時代の専門誌「シャボテン」は平尾さんが主宰していたもので、バックナンバーを買いそろえて読み込みました。今でも、見返すと新たな発見があります。著書である「原色サボテン写真集」は、バイブルのような存在でした。掲載された標本の質、記述の正確さと深さ、そして網羅性。この本を超えるサボテン図鑑は、以降国内では出版されていないと思います。
 もうひとつは、彼の運営していたナーセリー、「シャボテン社」の園主として。当初は通販で、他にあまりない南米種や、輸入種子などを購入した記憶があります。園を最初に訪ねたのは中学生になったばかりの頃です。逗子市の海に近い崖地に立地する温室は、たくさんの輸入球や標本が、ぎっしりと並ぶパラダイスでした。お金もない私に、ゆっくり見ていっていいよと仰り、栽培についての質問にも丁寧に答えてくれました。当時買い求めた輸入の菊水が、いまでも私の栽培場にありますが、もう40年近く育てていることになります。




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 このフライレアナを戴いたのは、それよりもだいぶ後の時代です。青年期、若者らしいあれこれに忙しくて植物を離れていた私が、再び多肉の会などに顔を出すようになった二十代後半、そうした会に講師役として来ていた平尾さんに再会しました。シャボテン社は既に閉じていたと思いますが、ご自宅で趣味家としてサボテン類の栽培を楽しんでおられました。私が、かつて園を幾度も訪ねた子どもだとわかって貰うのには少し時間がかかりましたが、とても喜んでくれて、後日ご自宅に招いて戴きました。
 良く晴れた日。平尾邸の庭には、大きなアガベやダシリリオンが植わっていました。10坪ほどの長細いガラス温室を満たすのは趣味家・平尾さんの栽培品です。サボテンが中心でしたが、当時人気だった兜や綾波といった種類よりも、柱ものや花座南米種など、マイナーなものもたくさんありました。趣味家としての平尾さんを惹きつけていたのは、いわゆる売れ線の植物たちではないことが、とてもしっくりきました。なかで目を惹いたのがカギ刺マミラリアのコレクション。こちらもあまり市場で流通しない種を中心に多数の鉢が並んでいました。かつて「シャボテン」誌に連載されていた“マミラリア全種紹介”、というシリーズを思い出しました。植物を見せてもらいながら、自分がかつて「シャボテン」誌で読んだ“栽培困難種”に今も挑戦し続けていることなどを話すと、にこにこと聞いてくれました。帰りがけ、いくつかお土産に戴いたなかにあったのが、このフライレアナです。ほかにもマミラリアやメキシコ産のソテツ・ディオーンの種子なども戴いて、これもいまでは大きな株に育っています。




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 平尾さんの訃報に接したのは、2011年、震災の年だったと記憶しています。子どもだった自分に聞かせて戴いた話の続きや、今の時代や未来についても、もっと色々お訊ねしたいことがありました。大きいもの立派なものだけでなく、小さく地味なものや、気難しいものにも光をあてて、その魅力を伝えてくれた先輩でした。あの日、一見地味なこのカギ刺マミラリアを私に託してくれたのは、平尾さんから「君ならわかるよね」と言ってもらったようにも思えて、ちょっと照れくさい気持ちになります。夏の終わりの日、花ほころぶフライレアナを前に。









テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

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shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。
著書「珍奇植物 ビザールプランツと生きる(日本文芸社)」

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