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【速報】ワシントン条約 付属書Ⅰにサボテン追加

      
今回はサボテンや多肉、特に輸入植物を購入したり栽培する人はぜひ理解しておきたい「ワシントン条約」について。
自分の育てている植物の大切さを知る上でも、是非読んでみてください。
今年9月~10月に南アフリカ・ヨハネスブルグで第17回ワシントン条約締約国会議(CITES COP17)開催されました。
象牙の国内市場閉鎖を求める決議や、ウナギの資源保護(調査実施)を求める決定などが報じられていますが、
植物界では、私にとって大変なじみ深い植物であるスクレロカクタス(Sclerocactus)の3種が附属書Ⅱから附属書Ⅰへ
移行されました。狭義のスクレロカクタスについては、月想曲(Sclerocactus mesae-verdae)や
プビスピナス(S. pubispinus)等とともに、新たに3種が最も厳格に国際取引が規制される植物になった訳です。
また、多肉植物関連では、トックリランの仲間(Beaucarnea spp.)すべてが、付属書Ⅱに掲載されました。

ワシントン条約の「付属書」というのは、絶滅の危険性に応じた取引規制のカテゴリー(ランク)で、ⅠがⅡより厳しい。
その内容はというと、
▼「付属書Ⅰ」は、商取引で絶滅のおそれのある種で、学術研究を目的とした取引以外は禁止。
▼「付属書Ⅱ」も取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもので、取引には輸出国政府の発行する許可書等が必要。
今回のCOP17で「付属書Ⅱ」から「付属書Ⅰ」に格上げされたスクレロカクタスは、以下の3種です。
現状野生株の取引は行われていないと思われますが、たとえ数本、数十本レベルの採取でも致命的なダメージになると
想定しての規制と言えるでしょう。




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              Sclerocactus cloveriae in habitat Sanjuan co. NM
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              Sclerocactus cloveriae HK1002 (grown from seed) CITES AppendixⅡ→Ⅰ



①スクレロカクタス・クロベリアエ(Sclerocactus cloveriae)。
これまでの分類では、彩虹山(S.parviflorus)のなかに包含されたり、白虹(S.whipplei)の亜種とされたり、
見解が定まっていないところもある種ですが、いずれにせよ、上記2種とは異なる特徴をもち、コロニーも
隔絶され、なおかつ狭い範囲で個体数も少ないことから、付属書Ⅰに入れ込まれることになったと思われます。
この中にはニューメキシコ州のごく狭い範囲に分布するごく小型のタイプ、ブラッキー(S.cloveriae 'brackii')も
含まれています。メサガーデンの園主、ブラック氏の名を頂いたこのドワーフフォームは、小さいうちから
濃ピンク色の花を咲かせるとても観賞植物の高い植物です。




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              Sclerocactus sileri=S.whipplei ssp.busekii in habitat Coconino co. AZ  
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             Sclerocactus sileri=S.whipplei ssp.busekii SB 1086 (grown from seed) CITES AppendixⅡ→Ⅰ



②スクレロカクタス・シレリ(Sclerocactus sileri=S.whipplei ssp.busekii)。
この種については、栽培されている方もほとんどいない、幻のサボテンと呼んでいいものだと思います。
自生地を訪ねましたが、アリゾナ北部の赤い岩山の麓に少数のコロニーが点在するたけで、個体数はごく僅か。
そもそも数が決定的に少ないですから、デフォルトで絶滅危惧種です。アメ色の刺が密生し、ほんのりベージュがかった
白い花は漏斗状に咲き、とても気品があります。
以前は、メサガーデンが種子を販売していたため、数本の実生苗を所有していますが、まだ自家採種には至りません。
今後は入ってこないでしょうから、種の保全という意味でも栽培責任は重大に思えてきます。




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              Sclerocactus spinosior ssp.blainei in habitat Nye co. NV
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             Sclerocactus spinosior ssp.blainei SB1015 (grown from seed) CITES AppendixⅡ→Ⅰ



③スクレロカクタス・黒虹山ブライネイ(Sclerocactus spinosior ssp.blainei=S.spinosior ssp.schleseri)。
このブログでも幾度も取り上げてきた、たいへん魅力的なスクレロです。こちらも小さいなコロニーが3か所
知られているだけで、野生の個体数は極めて少ない。私が過去何度も訪ねている産地は、最後の訪問時には
1本も見当たりませんでした。おそらく採集によるものと推察され、とても残念な思いをしました。
こちらもメサガーデンなどから種子が販売されており、スクレロとしては栽培・開花も容易なことから、
繁殖個体が相当数出回っていると思われます。黒白の虹、という和名を頂いていますが、その名のとおり、
黒白のリボン状の刺が乱舞し、透明感ある桃色花を咲かせる姿には、難物マニアならずとも魅了されるでしょう。
以上、自生地の写真、栽培株の写真ともに筆者が撮影したものです。




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                  Discocactus spp. (grown from seed) CITES AppendixⅠ




ちなみに、既に付属書Ⅰに記載されているサボテンとしては、牡丹類の全種、花籠、菊水、兜、白斜子、帝冠、精巧丸、
ツルビニやディスコカクタス、ユーベルマニアの全種、エスコバリアのレーイ(スニーディ)、ミニマ(ネリー)など。
難物サボテンでは、月想曲やプビスピナ、月の童子、飛鳥・斑鳩、天狼も付属書Ⅰです。




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                 Aloe polyphylla  (grown from seed) CITES AppendixⅠ
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                 Pachypodium ambongense (grown from seed) CITES AppendixⅠ




一方、サボテンだけでなく、多肉植物も多くがワシントン条約の規制の対象になっています。
アロエ属は数多くの種が付属書Ⅰ、全種が付属書Ⅱに記載されています。パキポディウムも全種が付属書Ⅱに記載、
バロニー、アンボンゲンセなどはⅠです。ほかにも塊茎植物フォーキエリア・ファスキクラータやプルプシーは付属書Ⅰ。
ユーフォルビアも多くの種が付属書Ⅰに記載されています。ソテツ類はみなCITESの対象で、人気のエンセ(鬼ソテツ)は
すべて付属書Ⅰです。現在取引されているのはみな人工繁殖品ですが、規制以前に多くの種が過剰採取や産地破壊で
絶滅、ないし絶滅寸前に追い込まれています。
最近たくさん輸入されている、パキポディウム・グラキリスや、オペルクリカリア・パキプスなどは付属書Ⅱになります。
つまり輸入されてきている個体は原則許可書がついているわけで、原産地国政府が、これくらいなら大丈夫と認定して
採取している建前です。ただ、これまでの例でいうと、ワシントン条約の付属書Ⅰに引き上げられる頃には、既に絶滅が
不可避なほど個体数が激減してしまっている例も多くあります。




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                Sclerocactus cloveriae 'brackii' in habitat, SanJuan co.NM




私は、野生植物の採取をすべて否定するつもりはありません。そもそも、すべての園芸植物の元親は自生地で採取された
野生個体です。私自身、原産地株を輸入したこともあり、今も育てています。荒木には国内繁殖苗にはない独特の風格があり、
ゴツゴツと乾いて到着したものを工夫して発根させ、日本の環境に慣らし育てていくことで、植物をより良く知ることもできます。
また、ワシントン条約におけるCITESの記載は、必ずしも実際の生物の絶滅リスクと必ずしも照応しておらず、かえって
価格高騰による採集圧の増大を招いているとの指摘もあります。さらに取引規制の面では、人工繁殖品までも必要以上の
手続きを求めるなど、改善すべき点も多々あります。
一方で、自分の愛する植物が自生地で根絶やしになるような事態は悲しすぎますし、そうまでして採取はしてほしくない。
そうした意味で、ワシントン条約のような規制も必要なのかな、と思います。と同時に、仮にルールに則った輸入であっても、
あきらかに産地破壊的な過剰採取と思われる場合には、それを回避するためにどう行動すべきか考えたいと思っています。

ところで、今回不思議だったのは、COP17の開会直前になって、いったい何が記載されるのか?記載されたら買えないぞ、
みたいなセールストークが飛び交っていたことです。実際は、会議がはじまる前の段階で、新規記載や昇格の対象種案は
あらかた絞り込まれ、公表されていました。サボテンや多肉植物の検討対象はスクレロやトックリラン、チランジアくらいで、
パキポやオペルなどはそもそも議題になっていませんでした。
もっとも、昨今のハイペースで大量の採取・輸入が続けば、規制される頃には時すでに遅しという可能性も否定できません。
なんにせよ、いま皆さんのお手元にある植物は、是非とも大切に育てて、できれば種をとって次代に繋げて戴ければ・・・と、
お節介ながら申し上げる次第です


☆参考)ワシントン条約付属書・植物 (2016年5月現在 COP17での改定は来年初頭に反映される見通し)











テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

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No title

難しいことは良くわかりませんが、米国なんかは昔から輸入は旺盛にやるくせに、
自国の生物は国から出したくないためにすぐに保護の枠で守護したがる傾向がありますよね。

わたくしも管理人さまのおっしゃるように、やはりWCの風合いが一番だと思います。
人為的に殖やしたものは鮮やかさや環境に対する順応力は勝ることもあるかもしれませんが、どうしても時代がのるまで時間がかかりますし、年月を経てもWC個体のストーリー(生息背景や経歴が作る外見的歴史)に及ばないところがあります。

一方、
強奪、乱獲、密輸…。
法で縛らなければ、人間の欲は止まりませんね。
縛り過ぎても、希少価値から価格高騰を招き、密輸も酷くなる…。
他人が持ってるものを欲しがる浅ましさ…。
なんで自国の身近なものでなく、異国の珍しいものばかり欲しがるのか…。
その人が死んだあと、彼が必死に集めたものはどうなるのか…。

遠い地から東の最果てにやってきた植物が、見慣れぬ狭いその空間で花を咲かして
健気な表情をこちらに見せているのを見て、時々もの悲しさを覚えるのも事実。


No title

Shabomaniac!さん、こんばんは。

ついこないだまでハオブームだと思ったら、最近の若者はコーデックスに夢中なのでしょうか。
フツーの植物さえ触ったことが無い人たちが、輸入の荒木に手を出して大丈夫?って心配だけど、
何からこの世界に入るかは、人それぞれ自由といえばそれまで。

ただ、ヤマドリの株は、根っこがマトモに機能するまで数年はかかるから、
気を使って扱わないと、ある日突然バッタリ…なんてことになりかねない。
「芽が伸びてるから大丈夫」的な軽い気持ちで付き合うと痛い目に合う…かも知れないですね。

ところで、マダガスカルはそこかしこに精霊が宿る島だと聞きます。
パキポ達はその精霊の憑代だとも。

月夜のハウス、わが家にもあるパキポの実生苗の前に立つと、
「精霊ヲナメタラアカンゼヨ!!粗末ニ扱ウト祟るゼヨ!!」
な~んて声、聞こえるような気もします。

No title

上お二方とサボマニアック様

Instagramで塊根 辺りで検索してみてください
将来すべての多肉が日本への輸出入禁止になる
レベルで酷い有様がみて取れます

しかもベアルートをこの季節に売り
おまけに入れる鉢が酷いんですよ

というより元凶が鉢屋って感じですね

No title

>肉盆魚さん
アメリカやイギリスなどは、愛好家も業者もわりと意識高いです。一緒に自生地旅行したことが何度かありますが、日本人の産地破壊が酷いと論戦ふっかけられます(事実なので反論できないけど)。いまやアジアの大国も参入しているので、野生のサボテン・多肉にとっては生き残りが厳しい時代になりそうです。

>noriaさん
輸入コーデックス、高級な調度品を揃える感覚で流行っている感じですね。それはそれで、好きな人が増えるのは嬉しいと思っていますが、そこを入口に野生植物や環境まで興味を拡げてもらえたら素敵だなと。私もこれまで、山木も含め枯らしながら育て方を見出してきました。なのでその経験をちゃんと伝えていきたいですね。

>Instagramで塊根 辺りで検索してみて・・・
実は最近インスタをはじめて、高価なコーデックスがこんなに買われているんだ、とビックリしました。ファンが増えるのは嬉しいと思っていますが、大事に育ててほしいですね。鉢屋さんにも友人がいます。輸入横流しだけのブローカーは困ったものですが、ちゃんと栽培法を研究したり実生など頑張っている方も結構いるので期待したいです。


No title

管理人様 こんばんは
私はまだ多肉歴1年にも満たないど素人もいいとこなのですが
なぜサボ多肉界隈は生態の面白さに喜ぶ人があまり
いないのですか? 例えば這団扇というサボテンは
非常に面白い生態なのに台木として使うしかない
などと言われて鑑賞されないのがとても残念です

むしろサボ多肉こそ花が咲かなくても充分楽しめる
植物なのに本当に不思議でしょうがないです
元々動物から入ってしかも園芸歴皆無の素人の
戯言ですが本当に気になるんです
生態がおもしろいのに駄物とされてるものが多くて
不思議だし残念です

No title

>生態マニアさん
激しく同意します^^。サボテンや多肉の特異な姿は環境適応の結果ですからね。
なぜ、その姿なのか、知るほどに愛着も深まり、自生地を訪ねたくなります。這いウチワ、うちでは台木用ではなく育てています。実は綺麗な花が咲きます。
このおさまりの悪い生え方を逆手にとってカッコよく鉢アレンジしたいですね。
プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「シャボテン新図鑑」
「珍奇植物 ハビタットスタイル」
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(以上日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

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