難物サボテン「天平丸」

      
ひさしぶりに難物サボテンの話題です。
といっても、ペディオ・スクレロといった北米サボテンではなくて、今回は南米の難物。
ギムノカリキウムの天平丸(Gymnocalyium spegazzinii)です。
え?このサボテンが難物なの?という方もおられると思うのですが、そういう方にぜひ教えを乞いたい、
というのが本稿の趣旨です。南米高地原産のこのギムノ、私にとってはかなりハイレベルの難物で、
北米種でいえば、エキノマスタスあたりに比肩する印象。ただ、その難物としての性格は、
かなり異なっています。




resize0235.jpg
                    Gymnocalyium spegazzinii (old imprted plant from Karel Knize)



こちらは、十分大きくそだった天平丸。10年あまり昔、南米の業者から輸入の、おそらく山木です。
来た当時は扁平でしたが、いまはかなり丈高くなっています。ただ、故障らしい故障もなく、毎年開花もする。
うちにはもうひと株、古い輸入株がありますが、こちらもまずまず元気です。
天平丸の球体に沿うような曲刺には、ほかのどの種にもない美しさがあり、またそれぞれの株に個性があります。
昔はそれらをみかけ上、A型、B型、などと分けて楽しんでいましたが、近年は様々な産地で採取された種子が
入手できるので、個性あふれる様々なタイプをイメージしながら実生するのはとても楽しみです。

ところが・・・。




resize0210.jpg

resize0209_20140913141223147.jpg

resize0218.jpg
               Gymnocalyium spegazzinii 2years old seedling, 50% of them are not healthy



輸入種子の発芽はおおむね良好です。しかし実生2年目くらいには、はやくも異変が現れます。
上の写真では、半分くらいの苗が変調をきたしています。①成長点がカサブタ状になり、生育が止まる、
②球体の色が褐変、または赤変して、成長が止まる。
①は、いわゆる南米病(ホウ素など微量要素欠乏によっておこる成長障害)とみられますが、それなりに
気を使って液肥など与えていても、不調を避けられません。この段階で、実生苗の三分の二くらいは駄目に
なってしまう。同じ時期に実生して、同じ用土に植えこみ、同じハウスに並べているほかのギムノには起きない
トラブルが、天平丸では顕著に発生するのです。3枚目の写真はその一例。右側のグラウカム(G.glaucum)は
元気なのに、左側天平の様子はおかしい。もともとはいちばん左の列にも天平が並んでいたのですが、
小さいうちに全滅して空き地になっています。




resize0184.jpg
                    G.spegazzinii  STO-924  Cafayate, Salta
resize0193.jpg
                    G.spegazzinii FK621 Punta de Balasto, Catamarca
resize0196_20140913142031970.jpg
                     G.spegazzinii 'Slaba'  Quebrada del Toro, Salta         



残った株はやがて、そこそこのサイズに到達して美しい刺を見せはじめてくれます。産地ごとに刺の色や長さ、
カーヴの具合など個性があり、実に魅力的です。しかしこのサイズになっても安心することはできません。
過去に某名人が育成された古来型の天平丸など、いくつかの国内実生株を駄目にしてしまった苦い記憶があります。
もちろん、自ら実生した苗も例外ではなく、開花目前というところで、またもやバタバタと逝くのです。




resize0195_2014091314225412e.jpg

resize0200_201409131423290c4.jpg

resize0238_20140913142949b9d.jpg
                         They get worse gradually...



突然成長がとまり、成長点がカサブタ状病変に覆われたり、球体全体がミイラ化したりして、やがて枯死。
写真上から順に、違う鉢ではありますが、病変の進行を時系列に並べてみました。
植え替えがきっかけになる場合もありますが、元気に育っていた寄せ植え鉢が徐々に駄目になることも。
ただ、いわゆる根腐れのようにグシャっと腐ることはなくて、拗れたあげく水気が抜けるように枯れていく。
また、天平丸の中でも、主産地のひとつで刺の美しい個体が多い、Quebrada del Toro周辺の個体群が
もっとも駄目になりやすい印象があります。このあたりの自生地はおおむね標高3000m付近の
たいへん乾いた場所ということで、同じエリアに生えるロビビアや、ヒルホカクタス(Pyirrhocactus)も、
似たような栽培上のトラブルに見舞われることが多い。ことに旧ヒルホの寒鬼玉(Eriosyce umadeave)は、
発芽も栽培も天平丸以上に困難な種と感じます。また、同じような育てにくさを感じるサボテンには、
旧エリオシケの極光丸(Eriosyce ceratistes=aurata)があげられます。これらは植え替えを極端に嫌い、
元気に育っていた株が植え替え後にパタリと動かなくなってやがて枯死する。
一方で、天平とは兄弟種(亜種)にあたる光琳玉(ssp.cardenasianum)にも似た症状が出ることがありますが、
基本種の天平丸よりはずっと素直で育てやすい。

横道にそれてしまいましたが、では次々と駄目になる天平丸に、いったい何が起きているのか。




resize0220.jpg

resize0225_20140913143327fb5.jpg

resize0227.jpg
                       cutting section of sick plants




写真のふた株は、いずれも同じ症状で、進行の度合が違うように見えます。いずれも植え替えて1年くらいで
健康な状態が徐々にこのようになってしまったもの。左の株は、そもそも根が完全に駄目になっていて、
球体全部がすでに枯死しており、どこからどうなったのか、よくわかりません。
右の株をカットしてみると、根は健康そうに見えますが、成長点付近は醜いカサブタ状の病変が内部まで進行
していて、回復は難しそうです。これはやはりいわゆる南米病なのか。




resize0231_20140913143515249.jpg

resize0232_20140913143540168.jpg
                    Both growing point and root are lesioned




病変の出た別の株をカットしてみました。こちらは成長点の病変だけでなく、根部にも異変があります。
ブヨブヨ根腐れしている訳ではないのですが、色が悪くなり、周辺部にはカサブタ化もみられ、成長部の病変と
類似する点もあります。この成長点、根部双方からの病変が、最終的には株全体の枯死につながっていくようです。
腐っている訳ではないので、なんらかの生育障害の結果、植物体そのものが生きる力をなくしていく過程のように
思えます。




resize0236.jpg

resize0237.jpg




一般的には、天平丸は生育速度は遅いが、栽培はとくに難しくない、という見方をされているようです。
拙文ごらんいただいているなかでも同感される方が多いかも知れません。一方で、ギムノのなかでは特異な
栽培困難種であり、アルカリ性の土を極めて嫌う、といった見解も示されています。
高pHの用土では微量要素の欠乏障害が起きやすいですし、南米サボ(とくにアンデス東側原産)全般に、
自生地同様の弱酸性の用土を好むというのは通説でもあります。
私は栽培用土の主な素材に赤玉土を使っています。この用土はpHこそ高くありませんが、リン酸の吸着性が
強いので、リン酸欠乏障害なのか、とも考えられるのですが、液肥を十分与えても改善されないことも多く、
解決策が見えません。天平丸をうまく育てられる方の栽培環境と、私のところでは何が決定的に違うのか。
ひとかけらのレシピでも、ご助言を頂ければ幸いです。






テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

非公開コメント

Shabomaniac!さん、こんにちは。
この話、我が家でもいくつかのサボで思い当たることがあります。やっぱり南米サボなんです。で、今年になって用土に腐葉土を入れるようにしました。まだ結果が出るところまで行っていないのですが「なんで腐葉土なのか」について説明します。
そもそもPHが低いということは土中に菌類と有機物が多い場合がほとんどです。有機物を菌類が分解する過程でPHが下がるんです。サボの栽培では水やりが少ないから菌類なんてあまり多くない、と思うかもしれませんが有機物があれば菌類はそれなりに繁殖するし水やりしたらキノコが生えた、なんていう経験も結構あります。植物は9割以上が根で菌類と共生しているという話なので低いPHを好むサボの場合土中に菌類が必要なのではないか、そう思って腐葉土を入れるようにし始めました。後、上手くいっている鉢の用土も混ぜるようにしています。結果はまだ来年以降にならないとわかりませんが参考まで。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

shabomaniac!さん はじめまして
いつも拝見させていただいています。

今、天平丸で全く同じような経験をしています。
実生3年半まで脱落がほとんどなく順調に育ってきたのですが、春に植え替えてから黄緑に変色し、成長点から枯れていく苗が続出し、5分の1くらいに激減してしまいました。
切断してみると写真と同じようになっていました。

植え替えがストレスだったのか、試しに黒玉土をまぜた用土が悪かったのか、成長過程で脱落するものなのか、よくわからないままです。
何かわかりましたらまた教えてください。

shabomaniac!さん はじめまして
いつもこのブログや植物雑記などを栽培の参考にさせていただいてます。
天平丸はまだ実生一年目なのでわかりませんが、3000m付近のものの方が症状がでやすいということなので、高温障害ではないでしょうか。
他の植物では、高温で生長点に障害が出たり、根が傷んだりすることがあるようです。
また、トマトの話になりますが、高温でカルシウムの吸収が阻害され、芽や根の生長が阻害されることがあるそうです。

ご無沙汰しております。

快竜丸がこのようなカサブタに覆われたことがあります。
強い光(高温)によるダメージだったと記憶しています。
ただ、3年位カサブタに覆われていていましたがそのまま枯れるということはなく、
今年新しいトゲを出し始めました。
この記事と同じ症例なのかはわかりませんが、見た目はアップされている写真と
よく似ていました。

以前もお伝えしたかもしれませんがShabomaniac!さんの影響で、私もナンバー付き天平丸を蒔きました。
結果は大失敗でしたが、何とか数本残りました。
ギムノやコピアポアは、私の栽培環境では寒い時期に蒔くと成績が良いことがわかったので
また挑戦しようと思っています。

Shabomaniac!さん、こんばんは。

天平丸、刺と姿が整っていてギムノカリキウムの中でいちばん好きです。

今年は、台風のときに長期間出かけたので、フレームのを開放を少なめにしていたら、
半数ほどの10年以上の天平丸が(といっても5、6本ですが)枯れました。
Shabomaniac!さんのところのように徐々にということでなく、日焼けです。
うちでは、最近は天平丸以外でも南米病はほとんど見かけません。
土はパミスと酸性の鹿沼土がベースですが、炭粒や卵の殻も多く入れています。

>TK-Oneさん
南米、とくにアンデスの東側は酸性土壌の地域が広範囲にひろがっています。ただ乾燥地の場合は、腐植土は乏しく、栄養塩類が流出して補てんされず痩せた酸性土になっている場合も多いようです。栽培土には腐植土など有機質を混入した方が成長がよく植物体の色もよくなりますね。私も丈夫なサボテンには牛糞堆肥などまぜこんだ土を使っています。

>おたやんさん
コメントありがとうございます。やっぱり同じような経験をされている方がおられるんですね。私の栽培場では、ギムノでも天平が顕著で、ほかにはロビビアやヒルホ(エリオシケのアンデス東側産)に同様のトラブルが起こります。ところが天平などなんの問題もなく育てている方も多数おられるので、後述しますが、栽培環境に起因するところも大なのでは、と思っています。

>KITAさん
トマトの話、興味深いですね。たしかに天平丸だけでなく、南米の高標高の乾燥地に生えるサボテンにとりわけこういう障害が起きるようです。ご指摘どおり高温が大きな要因と感じます。ただ、こうしたサボテンの産地は、日中の気温そのものは日本の真夏より高くなることもあるので、最高温度よりむしろ、夜間温度の下がらない熱帯夜や、多雨多湿といったことが重なって影響しているのかも知れません。

>Portさん
日焼けと良く似た症状ですが、今回アップした天平丸のトラブルは、いわゆる一日で起こる日焼けとは違いそうです(長期的な日焼けストレス、というのはあるのかも)。というのも、期間をかけて少しずつ変化、病変が進むからです。
天平は秋まきでよく育つ、というのは興味深いですね。コピなどはたしかに秋から冬にかけて新刺をあげたりするので、実生にもいい季節なのですね。

>masutusさん
天平はちょうど北米の太平丸みたいに、むき出しの平地になかば埋まって生えているようです。そのくせ日焼けしやすいところも太平と似ていますね。masutusさんの屋上沙漠でよく育つ、ということは、この問題の原因を知るひとつの手掛かりになるかも知れない、と思いました。直射日光・乾燥・風通し大、というのが屋上圃場だとしたら、私のハウスは、ビニール無遮光・高温多湿(空中湿度)・風通しまずます、といったところです。一番の違いはやはり、湿度ですね。


今回、メールで頂いたアドバイスに、このトラブルはカビ(フザリウム)が原因ではないか、というご指摘がありました。以前、英国の栽培家に南米病について会話したときにきいた、自分のところではサボテンに頭上灌水すると成長点がカビて駄目になる、という話を思い出しました。
その頃は私の栽培場はコンクリの上に建てたガラス温室だったのでピンときませんでしたが、今のようなトラブルを深刻に感じるようになったのは、主な栽培場を今の田舎の休耕田の上に建てたビニールハウスに移してからです。ここは夜間温度がさがるので、大半のサボテンは元気よく育つのですが、フェロカクタスなどは刺があっというまに退色し、刺座が真っ黒になります。同じくテフロカクタスも駄目です。これらは春か秋に、茎節が炭疽病で駄目になる率が極めて高いのです(なので今は自宅の小さいガラス室に置いています)。ロフォフォラなども植物本体は問題ないのですが、綿毛はカビで黒くなります。また、コノフィツムなどは夏の旧皮がみな真っ黒にカビてしまい、時には中まで駄目になることがあります。
原因は日中の高温多湿もありますが、なにより朝晩の激しい結露ではないかと思っています。春秋の朝、ハウスに入ると、サボテンはみな、球体がぐっしょり濡れています。鉢土の表面も濡れています。ほぼ毎日です。加えて、山あいのために、霧もしばしば発生します。北米難物でも、マスタスは大丈夫ですが、スクレロは置いておくだけで水をやらなくてもひと夏の間に腐ってしまいます。
天平丸の病害はいわゆるカビっぽくはないのですが、フザリウムなどは徐々に広がるとこうした感じになるのかも知れません。過湿がつづき、やわらかい成長点付近が湿っている状態が長時間続くなかで、カビの侵入によって起きている可能性が高いように、思えてきました。そう考えると、屋上栽培場では起きず、北海道の名人のところでも起きず、私の田んぼハウスで顕著に起こる理由も見えてくる気がします。同時に、このハウスでは、アンデス西側産のコピアポアやエリオシケは調子よく育ってくれます。駄目なのはアンデス東麓の、海からの湿った風が入ってこないエリアのサボテンです。また、この天平の症状は、所謂南米病と似ていますが、南米病もそもそも、ホウ素欠乏などで障害が起きた部位を放置しておくと、この天平と同じような状態に進行します。これもも最終的にはカビなどによる病変が植物を駄目にするということかも知れません。

いろいろご意見いただき、愚考重ねてみた次第ですが、夜露ばかりは防ぎようがないので、あとは薬剤か、それにかわる何かを散布するなどしかないなぁ、とも。まあ、いちばんよいのは環境にあった植物を育てることですね。アドバイスあれば重ねてお願いいたします。

Shabomaniac!さんこんにちは。

天平丸、そちらでも難しいのですね、安心しました(…安心してはいけませんが)。私も実生苗をバタバタ枯らしました。まさに腐るのではなく「枯れる」のです。これには参りました。

カビ犯人説、「目からウロコ」ですね。「南米病」には様々な合併症があるわけですね。

ところで、フェロやテフロの黒カビ対策に最近よいモノを見つけましたので、この場を借りて報告します。
これらは刺座から蜜を出して最初それに黒カビが生えるのですが、その蜜を洗い流すのに市販の「アルコール除菌スプレー」の効果が高いのです。もちろん水だけでも強く噴霧すれば落ちることは落ちるのですが、ゴシゴシこすったりして時間がかかります。

使い方は簡単。最初にアルコールをひと吹きかけてやると、カビと混じって黒く固まった蜜が溶けていく感じで、水で簡単に流れます。麺棒などで軽くこすればさらに効果が高いようです。
残念ながら、フェロの刺の中まで入りこんだ「カビの根っこ」には効果ありません(漂白剤は効きますが退色します)お試しを。

>noriaさん
コメントお返事遅くなり恐縮です。
そちらでも天平はバタバタと枯れますか。カビ犯人説はある栽培名人からのご指摘でしたが、そう考えると思い当たることはいろいろあります。たとえば兜や太平丸なども植え替え時期が悪かったりするとべちゃっと腐るのではなくて「進行の遅い根腐れ」で似たような枯れ方をしますね。頭からは腐りませんが、最終的には似た感じになります。

黒カビ対策のアルコールスプレー、試す価値ありそうですね。テフロなどの黒カビ病の予防にも使えそうです。漂白剤は試したことがありますが、表皮を傷めてしまいました。
プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物、栽培、探究。

最新記事
全記事表示を読む

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
リンク
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
Excite自動翻訳
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる