造物主の愉悦?

あついあつい。

今日は私の住まうあたりでも36度。西の方では40度を超えているらしい。こりゃやっぱり何かヘンです。
あまりの炎暑に、どうしても温室に足が向きません。熱射に耐えるサボテンたちの横を素通りしつつ、
いや、でも、ムリだわこりゃ、とかなんとか。子どもをつれて近くの図書館まで涼みに出かけた折に、
ちょっと懐かしい本をみつけました。



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このたび借りてきた本は、伊藤芳夫著「原色 花サボテン」。
奥付けには'82年とありましたから、そんなに大昔ではないですが、でもまあ、ちょいと昔です。
“原色”なんて言葉、いまではもう使わないでしょう。
私がサボテンを育てはじめたのは、さらに10年くらい前のことで、この本が出た頃は青春の煩悶に忙しく、
すこし植物からは遠ざかっていた時期でした。伊藤さんの著書は何冊か持っていますが、そんなわけで
この本ははじめて手に取ります。
最近は、ガーデニングの延長みたいな内容の本ばかりで、この当時のような魅力的なサボテン本が
みあたりません。野生への憧憬や博物学的な好奇心を満たすようなものがない。
妄想の深みに誘う強度がない。でもこの本には、耽美主義とアカデミズムを冒険的に往復したあの頃の
偏執狂的サボテン人の匂いがぷんぷん漂ってます。

頁を開いてみると、



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まさに「花サボテン」のオンパレードです。オンパレード、なんて言葉も最近は使わないですね。
著者の伊藤さんは、独自の研究でサボテンのあたらしい分類をすすめる一方で、ロビビア系交配種を
中心にした育種家でもありました。サボテンって、こんな綺麗な花が咲くの?と、皆が驚くような
美花種をつぎつぎ送り出し、本もじゃんじゃん書いて、花サボテンのブームを作りました。
この本が出たのは、そのブームも最後の頃だったのではないでしょうか。
写真をみてもわかるように、花に鑑賞の重点がおかれているので、植物本体はどんな姿かよくわからない。
というか、刺も姿もまるで気にされていない。ここは今の骨董的なサボテン園芸の世界とは真逆ですね。
しかし、カラフルな花を群れ咲かせる見事さは、ジャンルを超えすべての園芸家に訴えるものがあります。



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               Acanthocalycium glaucum  HUN515 San Fernando,Catamarca,Arg.1636m


しかし、伊藤さんの美花ロビビアは、接ぎ木でバンバン増えるうえ、花の美しさに明確な優劣もつけ難く、
ために値段をつりあげる要素がないので、当時も専門業者は冷淡でした。扱うところは意外に少なかった。
私は、中学生のころ伊藤さんに直接手紙を書いて、いくつか分けてもらったことがありますが、
残念なことにひとつも残っていない。変華丸とか、血汐丸とか、本当に綺麗な花だったのを覚えています。
そもそも全て接ぎ苗なので、接ぎ替え接ぎ替え更新維持しなければいけないのですが、その技術が乏しく
残せませんでした。けれど、最近になって、またロビビアのタネをぽちぽち蒔いて育て始めました。
山採り輸入種子の原種が中心。なので、上の写真は懐かしの伊藤ロビではなく、うちで咲いた野ロビですが。



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伊藤さんのサボテン本は、独自の世界観で構築された彼の王国です。偏りつつも分厚い語彙と、
独善的に深みにはまってゆく筆致に改めて心打たれます。で、彼が自ら作出したサボテンに
つける名前が、なかなか昭和情緒たっぷりなのは前もこのブログでご紹介しました。
艶とか姫とかいう文字の使用頻度が高く、ラベルに書くのが少し気恥ずかしいくらい。

もうひとつの特徴は、交配による新属作出と記載にも熱心だったのが伺えること。異属間の交配作出種を
別の交配種にかけあわせ、それを学名に反映した結果と思われますが・・・
サルピンゴロビビオプシス属、トリコロビバ属、コスモプシス属、コスモシア属、ソエレンキリンドラ属、
キリンドロシア属、キリンドランタ属、キリンドロカリウム属、エキノキリンドラ属・・・etc 。
なんだかモンスターの愛称みたいな不思議な響きですが、どれもたぶん彼の本にしか登場しません。
みな伊藤さんが生み出し、植物界にその名を与えた“新たな種”なのです。
今はもう、時の彼方に消えてしまったけれど、きっと、その頃は造物主の愉悦さえ感じていたのだろうなぁ。
ちなみに、当時細かく分けられていたロビビアをはじめとする各属は、その後エキノプシス属に
統合されたので、これら異属間交配種は、今はエキノプシスの属内交配種ということになります。



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       Lobivia pugionacantha 'cornata' JK382 Yungara,Jujuy,Arg.3450m


私は、こやつらの花だけでなく植物本体、野草っぽくつかみどころのない風体も好きなので、
だいたいは接がずに育てているんですが、今回は伊藤さんにあやかり継ぎもの、キリンウチワ台木です。
でも、色鮮やかな花を見ていると、これとこれをかけあわせたら、何色の、どんな花が咲くのだろう?と、
にわかに花サボテン育種家の気分になる。いまでも、どこか伊藤さんの本に影響されているのかも
知れません。



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たとえばこのふたつだったら、どんな花が・・・。片っぽは白スロートのレモンイエロー。
もうひとつは、真紅に花糸の付け根が黒。やっぱり花粉つけておくんだった。
奇天烈な命名予定リストまで頭のなかにあるんだってば・・・。

暑くて頭いかれたかな?



テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

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懐かしい本ですね。
本棚の隅に眠っていたのを久々に引っ張り出してみました。

伊藤氏の遺した花サボテン、現在残っているものの、名称は混乱しているようです。
栄養繁殖を繰り返す途中で枝変わりが生じたか、それとも偽物が紛れ込んだのか、
確たる本物に出会うのはなかなか難しい。

ところで、いまは野生由来のサボテン種子が入手できる便利な時代。
その気になれば、同一種の花色変異をずらりと並べることくらい、造作もありません。
だからといって、伊藤氏の業績の価値が下がるという訳じゃない。

インターネットもGPSもない、そんな時代。
海外との手紙のやり取り、種子の入手だけでも大変だったはず。
「花サボテンを皆に知らしめたい、普及させたい」と願った氏の情熱は本物。

その手段に彼は、サボテンの交配育種という道を選んだ。
人の情熱を嗤うのは簡単ですが、
では逆に、自分にそれだけ情熱を傾けているものがあるのか?
と問われれば、多くの人は項垂れるしかないでしょう。

とにもかくにも、伊藤氏が作り出した交配種の数は夥しく、
花が咲いた株すべてに名前を付けたんじゃなかろうか、と思うくらい。
彼が自身の著書を通じて「我こそは世界一のサボテン育種家である!」と豪語していたとき、
神様はそれ以上のものを御造りになって、アンデスの奥深くにそっと隠されていた・・・。
果たして氏はそれに気づいたか?? 今となっては知るすべもありません。

伊藤氏は晩年、ロビビアから離れ、トリコケレウスを使った「柱型花サボテン」の育種にのめり込んだ・・・。
本人は「(ロビビア類の)これ以上の連鎖的交配は不可能というところまできた。」からである、と書き残しています。
うがった見方をすれば‘真の造物主’への敗北宣言、と言ったら伊藤氏ファンに叱られますかね。

人生は一抹の泡、一炊の夢・・・感慨深いものがあります。

PS. 喉黒で真紅の巨大輪。それでいて花持ち良くて数日咲いている・・・こんなロビプシあったらいいなぁ(妄想です)
暦の上では残暑、ということになりますが、厳しい暑さは当分続きます。
Shabomaniac!さん、みなさま、くれぐれもご自愛ください。

初めまして

 よっしーさんちから訪ねて参りました。

「伊藤氏」の本が目に留まりコメント書かせていただきます。

サボ仲間に「伊藤氏」を師と仰ぐ友人がいます。

「花さぼてんの富士山」というHPの管理人をされてますが、「花さぼてんの継承」を広めるよう努力されてます。

よければ訪ねてみてくださいませ。

http://ww51.tiki.ne.jp/~cacti-f/

偏執狂的サボテン人・・・良いですね。たいてい天才と言うのはそんな感じなのではないでしょうか。

サボテンの面白さ、良さというのは動と静にあるように思います。ほとんど変化のない我慢の時期と新棘、それに続く開花の躍動感。そして実生の面白さは変化に対する期待感かな?と思います。

>明確な優劣もつけ難く、ために値段をつりあげる要素がないので
今ではこういった価値観は廃れつつありますよね。明確な優劣、といった一つの価値観に拘るのでは無くバラエティを揃えてその中から個人の好みに合った物を選択するのが今のやり方です。それに気が付かなければサボテンの良さも気が付いてもらえないのではないか・・・。サボテンをインテリアとしてでは無くちゃんと育てる人がもっと増えてくれれば良いなと思いますね。

>noriaさん
伊藤さんの本は、私にとって栽培の教科書でしたから、今思うと、なんでもかんでも高山性と書いてあったりするのが微笑ましいですが、当時は自生地の写真なんてお宝でしたからね。国会図書館まで出向いてアメリカのC&Sジャーナルとか閲覧したものです。伊藤さんだけでなく、みんな情報が足りないところは想像力で補っていました。
この本を読んでいたら、いろいろ懐かしくなり、むかし持っていたもうひとつの教本、平尾秀一さんの「原色シャボテン」を押入のなかに探しましたが、出てきません。ショックだったのですが、アマゾンで1000円そこそこで売っていたので頼んでしまいました。届くのが楽しみです。

>まっちゃんさん
花サボテン、それも伊藤さんの流れをくんで続けている方もおられるんですね。なんだか嬉しいです。早速、ページを拝見してきました。いやー、綺麗だし見事だし、見惚れてしまいました。私は植物は花が咲いている
ところが好きなので、置物っぽい古典園芸的なサボテンよりも、色とりどりの花を咲かせる姿に惹かれます。そういう意味では、花サボテン派なんだと改めて感じた次第です。

>TK-Oneさん
若い世代の人たちは、やたら値段の高い古典園芸サボテンよりも、多肉や、ロカリティデータのあるタネを実生する人もいますが、いまも由緒正しい「サボテンの会」なんかに行くと、競りに出てくるサボテンはいまだに白い兜に太刺の太平、疣の大きい牡丹類、という傾向が続いています。それ以外の変わったものを出しても声があがらないので競り値もつかない。で、参加者の顔ぶれには女性と若者があまりいない・・・(涙)。「幅広い種類のなかから、個人個人が好きなものを育てる」私も大賛成です。

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沙漠植物、栽培、探究。

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