■エキノマスタス属

今回は、えらいマニアックな話です。深堀りしすぎて、南米大陸に到達するくらい。

ブログを始めるずーっと前からやっていたホームページ「Shabomaniac!」で、サボテン科のすべての属について、
栽培者目線で解説っぽいことを書いてやろうと、アルファベットのAでアカントカリキウム属(Acanthocalycium)から
書き始めました。
おそらく日本語で、日本での栽培方法も含めて書いたものは、伊藤芳夫さんの本以降ないだろうな、などと、
いささか野望めいた試みとして始めたんですが、Eでエキノケレウス属(Echinocereus)まで書いたところで
止まってます。ふう・・・まだまだ先は長い。で、これ以降はブログ上でちょっとずつ書き進めようと。

以下、いつもとだいぶ文体も違って、多少ゴツゴツした硬い言葉づかいになってますが、
好きなことを精密に知りたい?ヒトに楽しんで戴ければ・・・。

今回はアルファベットのEの続きで、エキノマスタス属(Echinomastus)!おいしいとこからです。
なお、これまで書いたものは拙ホームページ「Shabomaniac!」植物雑記コーナーに置いてあります。


■サボテン科属別解説 2010-04

<エキノマスタス属 Echinomastus>

 刺サボテンの最高峰であり、難物としても有名な英冠(Echinomastus johnsonii)や、同じく稀品として古くから
珍重されてきた桜丸(E.intertextus)が含まれる、北米産の小型サボテンの仲間です。
アメリカ合衆国~メキシコ北部にかけて数種が分布していますが、いずれも栽培植物として魅力的なものばかり。
 外見的には、小型のフェロカクタス(Ferocactus)、刺のより強いテロカクタス(Thelocactus)といった印象で、
実際、両属の植物とは遺伝子レベルでも類縁性が指摘されています。しかし、栽培者にとってこのグループの
最大の特色といえば「栽培困難」なことでしょう。もっとも、一定の栽培テクニックや観察眼が求められることこそ
が魅力でもあります。それに、難物サボテンには違いありませんが、同じ北米原産のスクレロカクタス・白紅山や、
ペディオカクタス・天狼ほど高いハードルではありません。種から育てて花を咲かせることが、十分期待できます。


02N-littlefield16S.jpg
英冠(E.johnsonii)ユタ州、セントジョージの南で

 さて、この仲間の看板スターといえば、英冠(E.johnsonii)です。藤紫、赤、オレンジ、黄・・・またはそれらが入り
混じった色鮮やかな刺をイガ栗のように密生し、地肌は殆ど見えません。花は大輪の桃色ですが、黄色い花を
つけるコロニー(E.johnsonii ssp.lutescens )も存在します。属中もっとも北に分布し、カリフォルニア、ネバダ、
ユタ、アリゾナの四州が接する一帯、モハーヴェ沙漠が原産地で、だいたいは岩がゴロゴロしている緩斜面などを
好んで生えています。石の少ないところで見かけることはあまりありません。産地は寒暖の差が甚だしく、冬の夜は
軽く氷点下、夏の陽射しの下では摂氏40度を超えます。それだけでなく昼夜の温度差も大きい。雨量も年間100ミリ
前後と極めて少なく、植物にとっては過酷な環境です。おそらく彼らは、雨水だけでなく岩肌や自分自身に結露した
水滴も糧として生き延びているのではないかと思われます。


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英冠の開花(E.johnsonii KY9802 Washington CO,UT ・・・実生から約10年)

 むかし私が読んだサボテン本に、真鶴サボテンドリームランド(今はもうない)の右田重雄氏が、英冠について
「輸入されると珍品ゆえに奪いあいである。しかし半年と栽培した方がない」と書いていました。有名なシャボテン誌
には、輸入されたばかりの英冠の野生株を接ぎ木してなんとか生かした話なども載っていました。当時は自生環境も
理解されていなかったし、栽培不可能に近かったんだと思われます。業者での扱いもほぼ絶無。しかし、どうしても
手に入れたかった私は「大阪エキゾチック」の輸入種子を買って、実生から3、4年くらいまで、育てたことがあります。
当時、中学生で、あれが難物栽培の原点だったかなと。
 栽培するうえでの注意点はやはり過湿です。実生苗は春~秋まであまり水切れないように育てますが、実生3年
以降の苗は、早春~入梅前までに3、4回灌水するだけで、だいたいの場合は残りの8か月くらい、たまに霧吹き
してやるほかは断水して過ごさせます。もっとも、こうした消極的栽培法では早い成長は望めず、私の栽培場では
実生から開花まで(径7-8cm)10年近くかかっています。
 もうひとつ、成長や開花のカギは春先の高温です。早春、温室内の最高温度が連日40度を超えると、英冠は元気
に動き出します。2月から3月に晴天が続くと、昼夜の温度差が大きいご機嫌の環境になるようで、成長ペースも
良く花も沢山咲かせてくれます。しかし、いくら暑くても夜の温度が下がらないのは日本の夏は苦手のようで、成長
がストップします。我が家の温室では、日照面などで春先の高温確保が難しいこともあり、成長期が短くなって
いる面もあるので、より理想的な環境があれば、より早く大きく育てることは可能だと思います。
 用土については、石灰岩がゴロゴロしている環境に生えているため、アルカリ分を多く混入した高pHのものを
使っている方も多いようです。昔のサボテン本にもそうせよと書いてありました。しかし、乾かし気味に育てる場合、
高いpHは微量要素の欠乏障害を起因しやすいので注意が必要です。私もかつては石灰質を多く混入した土を
使っていましたが、いまは赤玉と軽石などを主体としたノーマルな用土で、問題なく育っています。


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桜丸(E.intertextus SB421 Presidio County, Texas, USA)

 マスタスでもうひとつの有名種といえば桜丸(E.intertextus)です。英冠のような派手さはありませんが、整った
球体を桜色の稠密な刺で包む美種で、英冠にはない、高貴な感じをたたえた難物サボテンです。
基本種・桜丸(E.intertextus ssp.intertextus)は、刺が球体に沿うように密生するのに対し、亜種とされてきた
英丸(E.intertextus ssp. dasyacanthus)はより刺が荒くささくれ立ち、ワイルドな印象があります。両者の違いは曖昧で、
いまでは同一種と見なされていますが、昔の本に出ているような典型的な「桜丸」はなかなか得難くなっています。
同属の英冠に比べて、花つきがよく、桜色の上品な花を早春に群開します。タイプ(産地)によっては、花弁が薄緑がかり、
柱頭が濃桃色という、なんともいえない味わいの花があります。自生地はアメリカのアリゾナ州、ニューメキシコ州、
メキシコのコアウィラ州など。栽培は英冠よりはやさしいですが、根がとても弱いこと、接いだり甘やかして育てると、
丈が伸びて美しさが損なわれます。


Emelectpantano12bS.jpg
紅簾玉(E.erectocentrus)アリゾナ州、ツーソンの南で
 
 この桜丸と、英冠の中間的な種が、アリゾナ南部に生える紅簾玉(E.erectocentrus)です。幼時は桜丸に似て、
刺は球体に沿って伸び、痛くありません。成株になると、側刺はそのままですが、中刺だけが鋭く天を突くように
なります。刺色は深い赤紫色、花は桃色~黄緑白。あまり知られていない種ですが、実に美しいサボテンで、この
仲間で最も奥行きのある鑑賞価値を感じます。自生地の大株は、イチゴを逆さまに置いたような不思議な円錐形に
育ちます。この姿と、上に突きだした中刺の雰囲気が実に良いのです。
 近縁のアキュネンシス(E.erectocentrus ssp.acunensis)は、側刺も含めてより刺がバラつくタイプですが、
今では同一種と考えられています。鑑賞上は微妙な違いがあって、双方育てたくなりますが。
紅簾玉は属中もっとも分布範囲が狭く稀少で、ワシントン条約では付属書Ⅰに該当します。


Emwarnockiihotspring3S.jpg
エキノマスタス・ワルノッキー(E.warnockii)テキサス州、ビッグベンド国立公園で

 同じく桜丸に近い種でテキサス州中心に分布するのがワルノッキー(E.warnockii)です。和名もついておらず、
日本ではあまり知られていませんが、自生範囲も広く、テキサス南西部の山を歩けば無数に出会います。英丸の刺
をさらに荒々しくしたようで、肌色は青みがかかり、刺色は白~灰色で花も白。いぶし銀の味わいがあり、美しく
作ればとても日本人好みの種類です。自生地で見ると実にかっこいい植物。同じくテキサスからメキシコにかけて
は、藤栄丸=マリポスエンシス(E.mariposensis)という種類があり、より小型で繊細な刺が密生する女性的な植物です。
種も小さく実生苗の姿も少し違うので、ちょっと別属の雰囲気もあります。


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紫宝玉(E.unguispinus GL607 South-West Jimenez,Chihuahua,Mexico)

lauisb525S.jpg
“ラウイ”(E.unguispinus fa.laui SB525 Salinas, SanLuisPotosi,Mexico) 上記紫宝玉とは同種のタイプ違いということになる

 アメリカには自生せず、メキシコのみに分布するのが紫宝玉(E.unguispinus)と、今はそれに包含された白栄丸
E.unguispinus fa.durangensis)です。湾曲した中刺が強壮な印象を与えるサボテンで、赤茶~茶緑色の渋い色
あいの花を咲かせます。紫宝玉のなかで中刺のとくに鋭いタイプは、古くから「虎爪玉」などと呼ばれ、名品とされて
きました。最近ではこれに近いタイプがラウイ(E.unguispinus fa.laui)の名で広く育てられています。いずれも
産地による刺や花の変異が大きく、さまざまな顔、タイプがあります。産地違いの種子を色々と実生すると、
バラエティに富んだ標本が得られる楽しみがあります。栽培の面でもアメリカ産のエキノマスタスに比べると丈夫で
育てやすいものです。
 また、メキシコのクワトロシェネガス産で、アメリカの種子業者「メサガーデン」のフィールドナンバー
「SB452」として頒布されてきた種に、最近ヒスピドゥス(E.hispidus)の名前がつきました。姿はワルノッキーと
マリポスエンシスの中間のようで、濃ピンクのストライプ花を咲かせる、これもなかなか魅力的な植物です。

 これらのエキノマスタス属の栽培については、英冠のところで長々書きましたが、他の種についても、基本は
同じような性質と考えて良いと思います。強光線と昼夜の温度差が大事。いずれの種も根が丈夫ではないので、
過灌水と、必要以上の植え替えは好みません。というか植え替え時に発根がうまくいかずにこじれるケースが
しばしばあるので注意して下さい。

 なお、最近の分類ではこのエキノマスタス属は、アンシストロカクタス属(Ancistrocactus)、
グランデュリカクタス属(Glandulicactus)などと共に、スクレロカクタス属(Sclerocactus)にまとめられて
しまい、CITESなどでもスクレロとして扱われています。
 しかしアメリカのサボテン研究の第一人者、アンダーソン(E.F.Anderson)などは、外形的特徴や塩基配列分析等を
もとに、独立した属として取り扱うべきだと、著書"Cactus Family"でも主張しています。ここでは栽培者の観点
からも、エキノマスタスを独立属として取り上げました。ちなみにアルファベットだと、Echinomastus の次は
Echinopsis ということになりますが、こちらにはロビビア属を含めるのかどうするのか・・・悩ましいところです。




 

コメント

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難物?(・_。)?(。_・)? だから面白い

難物は手がかかるだろうと思っていましたが...?^^);・・)?ロ_ロ)? 手をかけると死んでしまいます。手をかけなくてもやがて枯れます。(`_´)いったいどうすりゃいいんだ(-.-#)其れが面白くてますます填っています。

Explain

Shabomaniac!さん、こんばんは。
属別解説の新たなるスタート、嬉しいです。 
そのトップバッターが、Echinomasutus というのも嬉しさ倍増です。

私は、johnsonii の野性の姿を見たときの強烈な印象が、
いまだに心に突き刺さっています。何度でも会いに行きたいですね。

今後も属別解説、心待ちにしています。
私と同じ気持ちの、人、たくさんいるのではないでしょうか!
よろしくお願い致します。

遅レスですみません^^;
>sileriさん
>手をかけると死んでしまいます。手をかけなくてもやがて枯れます。
まさにその通りですね~。至言です。
でも、せっかく栽培してるんだからってことで、どうしても手をかけちゃいますね。ついつい水やっちゃったり・・・。「ったく余分なことすんなよ!」ってサボたち思ってるかも知れないけど。たしかに、難物は気むずかしいです。
だもんだから、雑草ライクに丈夫な南米草原産サボなんかにも時に癒されたくなったりもして・・・果てなき蒐集に突き進んでます。
>yuccaさん
励ましありがとうございます~。私がサボテンはじめた頃(70年代)は、まだ銘品の育種というよりも、色んな珍しい種類を蒐集することにサボ趣味の重心がありました。新しい種類がどんどん輸入されていましたし。そのせいか今も私は、洗練されて高度になった園芸サボ道よりも、素朴な野生種をやたらめったらあつめる方が楽しいみたいです。そのほうがお金かからないし^^。
実際、原種だけでこんなに楽しめるのはランとサボテンくらいじゃないかと。ところが、最近はサボテンの種類を多く紹介した本が少ないなーと思ったのが、「属別」を書いてみようと思ったきっかけ。柱やウチワや森林種も含めていろいろ知ってもらいたいなと。


































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No title

>鍵コメのTさん

コピ・グリセオビオラセア実生したことあります。ふつうの青系コピで、種が古くなければ一般的なサボテン実生法で発芽すると思います6月中なら、50%以上の遮光下で腰水播種し、ビニールやガラス板で覆うのはやめます(かびやすい時期なので)。最高温度は30度程度は欲しいところです。2週間程度で発芽がはじまると思います。ご参考まで。

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