異形の桜丸。

桜丸(Echinomastus intertextus ssp.intertextus)が、花盛りを迎えています。
いわゆる北米高山種のなかで、3月早々から先陣を切って咲き始め、early bloomer などと呼ばれる。
その花いろも、まさに桜色。薄紅色の刺によく生える上品なたたずまいは、日本人が抱くこの季節の心情に
寄り添って格別の美しさがあります。三十余年のむかし、はじめて実生したエキノマスタスが、この桜丸でした。
私にとっては、今もすべてのサボテンの中で格別の、難物サボテンの女王。



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           Echinomastus intertextus ssp.intertextus 'Minimus' VZD695,Santa Gertrudis, Chihuahua



さて、今回の主役はこの花。この桜丸です。なるほど、桜色の花弁に、紅色の柱頭と基本的な特徴は同じ。
ですが、花弁には微かなストライプがあり、外縁には顕著なフリンジ。さらに熟したベリーのような濃色の雌しべ。
とても、濃ゆい顔立ちの花で、これまで見てきた桜丸・英丸とは違った雰囲気です。刺は、まだ球体に密着して、
外側にはほとんど突き出さない籠状の刺。いわゆる桜丸の刺です。
これは、最近チェコから“小型桜丸”(E.intertextus ssp.intertextus 'Minimus')として導入した
種子からの実生苗です。蒔いたのは一昨年夏ですが、早く顔が見たくてキリン団扇に接ぎ木しました。
フィールドナンバーはVZD695、産地はSanta Gertrudis とあり、メキシコのチワワ州の南の方。
州都チワワよりもさらに下ったところで、見慣れたアメリカ合衆国の桜丸の産地とはかなり隔たっています。



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               Echinomastus intertextus ssp.dasyacanthus in habitat (El Paso,TX)


桜丸には英丸という異名があり、かつて英丸には Echinomastus intertextus ssp.dasyacanthus と、
別の名前があてられていました。今は統合する分類が大勢ですが、このふたつの違いは端的に刺の特徴に
あり、桜丸の方は球体に沿って側刺が密生し、ちょうど籠を編んだような、触っても痛くない具合になります。
一方の英丸は刺が荒々しく外側にはねているため触ると痛い、よりワイルドな印象で、球体が早期から丈高く
育つ傾向がある、ともされています。
ベンソンの分布地図などに従えば、桜丸はアリゾナの南部からおそらくメキシコ・チワワ州までと、テキサスの
南西部にマッピングされており、そのあいだのニューメキシコは分布が歯抜けになっています。標高1500mくらいの
比較的高い場所で、草原っぽい環境を好むという記述もあります。
英丸の方は、西と東の桜丸のあいだ、テキサスの西端の一部と、ニューメキシコの南北に広く分布し、かなり北部まで
進出していますが、生えている場所は標高1000mくらいと桜丸より低くて、岩山を好むとあります。
桜丸は東のアリゾナでは近縁種のワルノッキー(E.warnockii)と近接し、似たタイプや、交雑種とされる
コロニーも記録されています。また西ではやはり近縁種の紅簾玉(E.erectocentrus)と接しており、
この種の幼苗は籠状の刺が桜丸とよく似ています(成株は刺だらけになりますが)。



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               E.intertextus ssp.dasyacanthus SB48 Red Rock, New Mexico                   
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               E.intertextus ssp.intertextus SB421 Presidio County, TX


ところで、ここ最近(ワシントン条約以降)栽培されているエキノマスタスは、大半がアメリカのサボテン専門業者
メサガーデンの種子由来のものが殆どです。この園では英丸と桜丸とふたつの種子が売られていましたが、
いずれも合衆国産のタイプでした。
まず写真上は典型的な英丸(E.intertextus ssp.dasyacanthus SB48 Red Rock,New Mexico,)。
ニューメキシコ北部のガラガラした岩山に生えているタイプで、刺は荒々しく乱れて、野性的な印象です。
種から育てると、すぐに柱状に育つ性質も備わっています。花も典型的で、淡い色あいにピンクの柱頭が鮮やか。
そして下は、同じメサガーデンがテキサス州南西部 Presidio County の産地でコレクションしたタイプで
SB421というナンバーの個体です。で、これには桜丸(E.intertextus ssp.intertextus)の名前が
つけられています。確かに、刺はあまり突き出しておらず、籠状で痛くない。ですが多少外向きの刺も
混じっています。花は白っぽくてやや剣弁、柱頭の色も薄く同じテキサス産のワルノッキーに近い印象です。
メサでは、桜丸と呼ばれるタイプは長年このナンバーだけで、アリゾナ型やメキシコ型は見かけたことがない。



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               E.intertextus ssp.intertextus 'Arizona form' from old Benson's book


なので、長年桜丸といえばこのテキサス産型しか手元になかったのですが、実はアリゾナ型の異なるタイプが
あるはず、と探していました。古いサボテン本に出てくる桜丸は、このSB421よりもみっしりと刺が密生していて、
なおかつもっと球体に密着して籠状の姿なのです。同じようなイメージの植物は、最近の本にも見つけました。
Ken Preston-Mafhamの自生地写真集「Cacti and Succulents in Habitat」のなかに写真が出てきます。
こちら産地はアメリカ・アリゾナ州の Tombstone 付近とされています。この個体も刺の密着度が高く、花弁には
うっすらストライプが入っています。テキサスのSB421からは、かなり西に隔たった場所です。
いちど、メサの園主にTombstoneの桜丸を見に行きたい、と訊ねたことがありますが、自生地が開発されて
殆どなくなってしまい、見つけるのはとても難しいと言われて諦めたことがあります。彼自身は何度か見ているそうで、
たしかにアリゾナにも桜丸タイプがある、と言ってました。



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          Echinomastus intertextus ssp.intertextus 'Minimus' VZD695,Santa Gertrudis, Chihuahua


この、チェコ経由でもたらされたChihuahua州Santa Gertrudisの桜丸は、昔のサボテン本に載っていた
旧来型や、Mafhamのアリゾナ南部産に近い顔をしているように思えます。この両者は南北の隔たりはありますが、
どちらもSB421よりはかなり西側に自生地があり、西側タイプの桜丸、と言えそうです。
ただし Santa Gertrudis はそうとうに南に入り込んでいて、それゆえ、顔つきもいささか濃い目になった?
のかも知れません。実はこの付近の Huejotitlan では、有名なラウ氏も桜丸を見つけていて、L1290 という
ナンバーを与えています。タイプ的にも近いのかも知れませんね。



IMG_1851S.jpg



この南方系桜丸、ミッシリ籠状の刺が編まれていますが、実はちょっとだけ痛い。見えないような極く短い
中刺(2-3mm)がチクっと突出しているのです。Tombstone のタイプは、刺は外に出ていないし、記載にも
痛くない、とあるので、そこがちょっとだけ新しいところですかね。
と、長々とこんなマニアックなことまで調べたり考えたくなるくらい、桜丸には深~い魅力があるんですよ。

それから、次回は仕事が思い切りテンパりそうなので、いっかい更新をお休みします。あしからず・・・。



テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

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栽培していて漠然と、荒々しい放射状の刺の英丸、ごく短い中刺の英丸、
刺が球体にへばりつく桜丸があることは分かっていましたが、
その分布、自生地の様子などよく理解できました。

“小型桜丸”は初めて見ましたが、花弁、柱頭が確かに濃いですね。

intertextus

Shabomaniac!さん、こんばんは。そしておつかれさま!
intertextusへの考察、熱い想いを感じるのは私だけではない
と思います。
北米山岳系の奥の深さ、ますますとりこになってしまいます。
私にとっては Echinomastus も栽培は難しいです。
intertextus が Chihuahua 南部まであるのには、驚きました。

以前に難物とは知らずに英丸を手に入れましたが、一年もたたずに旅立ってしまいました。

コメントへのお返事が遅くなってスミマセン。。。

>masutusさん
むかしからマスタスといえば、英冠とこの桜丸・英丸が代表格でした。シャボテン誌の難物対談では、どっちも栽培不可能みたいに言われていましたが、当時は輸入株中心で、実生する発想がなかったからかも知れませんね。色々栽培してみると、白栄丸~ワルノッキー~桜丸~英丸~紅簾玉~アキュネンシス~黄花英冠~英冠・・・みたいな繋がりがぼんやり浮かぶような。

>Yuccaさん
産地旅では、同じ北米のサボテンでも鯱頭やビビパラ、マミラリアなどはどこでも見られるのですが、英丸はじめマスタス類にはなかなか出会えません。運良く見つかっても、コロニーは決して大きくなく、散らばった個体があるだけ、という場合が多いですね。それだけに、見つけるとうれしさもひとしおです。

>cooパパさん
英冠などは見るからに気難しそうですが、英丸・桜丸なんかは、顔つきも穏やかだし、一見難物には見えないですよね。実際、蒔くと発芽も良いし最初の2-3年は丈夫でよく育ちます。花が咲く頃になるとだんだん気難しくなってきます。根元で茎がやたら細くなるので、ここが枯れてしまうこともよくあります。


フリンジでお洒落した桜丸VZD695の花、素敵です!

去年、種付きでやって来たうちの英丸SB1709も咲き始めていますが、棘に邪魔されて花がうまく開きません(w)。
実っていた種を昨夏播きましたが、たしかに発芽は良好で4mmほどにまで育ちました。
小さい間は桜丸のように棘が巻いている感じですが、育つと様子が変わってくるのだと思います。

>アイハルさん
お返事遅くてすみません。。
マスタスは、成長点付近も刺が密集してるので、刺の籠のなかで花が咲いてる、みたいなことがよくありますね。難物とは言うけれど、そうそう枯れてしまうわけでもないので、育てて楽しいサボテンだと思います。
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