龍が棲む山。



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              Echinocactus polycephalus Habitat above Death Valley(alt.700m), California


せっかくお正月なので、縁起の良さそうなサボテンに登場してもらいましょう。

エキノカクタス・大竜冠(=大龍冠 Echinocactus polycephalus)。
すべてのサボテンのなかでも、その美しさ、野性味、存在感・・・まさに頂点に立つ植物です。
ただし、そこは龍。人馴れしない気高さを持ち、我々の栽培棚に易々と鎮座してくれることはありません。
大粒で頑丈な種は発芽率が極く低く、よしんば芽が出ても落ちが多い。さらにその後もずば抜けて成長遅鈍で、
3、4寸鉢サイズまで育つのに10年を要する。野生株の豪壮な巨躯を温室で実現するのはほぼ不可能です。
運良く見頃のサイズの輸入株を手に出来ても、刺色は褪せやすく・・・到着時の美しさを維持するのは至難。
難物もここに極まれりといった植物なのです。



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その龍たちが無数に棲みついている自生地の岩山を、数年前に訪ねました。遠景まで点々と、
巨大な大竜冠の群生株が写っているのがわかると思います。まさに見渡す限り、といった感じでした。
この場所はアメリカ西部、世界で最も暑く過酷な沙漠、デスヴァレー。といっても地の底のような
海抜下の塩だらけの平原にはおよそ植物の姿はなく、そこから這い出るようにハイウェイを登っていくと、
風景は灼けた岩がゴロゴロと転がる山岳地帯にかわってゆきます。標高700mくらいに達したあたり一帯が、
大竜冠のコロニーです。ここには、小さな実生小苗から、メートル級の巨大群生株まで、健康な個体が
高密度に生えています。私は過去に十指に余るこの種の自生地を見てきましたが、なかでも最も美しい
個体が揃った、素晴らしい群落でした。折しも5月の最成長期とあって、新刺の色鮮やかなこと!



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刺のタイプは丸刺、ヘラ状の刺、直刺からうねるタイプまで様々な型が同居していて興味深い。
大竜冠はとても自生範囲の広い植物で、アメリカ南西部各州~メキシコ北西部の広い範囲に分布しています。
アリゾナ北部に分布するタイプは、より刺が繊細で黄金色の美しいタイプも稀に含まれていて、亜種の
竜女冠(Ecc.polycephalus ssp.xeranthemoides)として扱われています。こちらの方がやや栽培し易い。
大竜冠は概ね岩がゴロゴロしている山や緩斜面などに生えており、一緒に生えているサボテンとしては、
鯱頭(Ferocactus cylindraceus)やオプンチアのバシラリス(Opuntia basilaris)が定番です。
場所により英冠(Echinomastus johnsonii)や白紅山(Sclerocactus polyancistrus )と
同居していることもあります。この山では他にバシラリスが生えていましたが、乾燥で茎節の傷みが酷かった。
なのに大竜冠はどれもふっくら吸水していて、この灼けるように暑い岩山でご機嫌に暮らしている様子でした。



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上の写真はまだとても若い株。まるで鯱頭のような鮮紅色の刺です。栽培下の個体よりも勢いがある感じで、
刺の出具合からして自生地では我々の温室よりも早いペースで成長するようにも思えます。
種を蒔いて数年でこのくらいに育ってくれれば理想的ですが、そう上手くはいかない。
この時のこの場所、5月上旬のお午を回った時間帯。気温は摂氏で35度足らずでしたが、体感的にはもっと
厳しい暑さで、1時間も歩き回っていると頭がボーっとしてきます。黒っぽい岩肌は熱くなっていました。
一方で蒸し暑さはなく、標高もそこそこ高いので、夜は一気に冷え込んで寒いくらいになるのでしょう。
日本の温室でも5月頃に短い成長期を迎えますが、夜温を下げられれば真夏でも育つのではないかと思いました。



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美しい若苗はもちろん、この山には巨大な多頭(polycephalus)の龍たちも群れをなしています。
最大のものは群生の径が1.5mくらい。他の植物が殆ど生えていない過酷な場所ですが、この山の個体は
巨大株でも傷み少なく健康そのもの。刺色は成長につれ薄くなるようで、巨大株は黄刺に近い個体も
目立ち、柱状に立ち上がった株も。このあたり同じ強刺サボテンの鯱頭にも同様の傾向がありますね。
見頃は1~2尺くらいの若い群生株で、燃えるように赤い刺をうねらせる姿は、絶句する見事さです。
栽培下では成長が遅く否応なく「超硬作り」になってしまうのですが、出来るだけ勢い良く健康に育てることが、
この難物の美しさを引き出すポイントのように思えます。そのための環境をどうしたら作れるか・・・ですが。



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                    Echinocactus polycephalus 10years from seed


最後の一葉は、我が家の実生、大竜冠(写真がほぼ実物大)。
およそ龍の棲み処には相応しくない、都会のバス通りに面したガラス室で生まれ育って、かれこれ10年。
灼熱の岩山で猛る大龍たちには及ばずとも、騒がず動ぜず、じっくり新刺をのばしてくれれば良しとしましょう。



テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

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Re:龍が棲む山。

こんばんは。
見事な龍の大群ですね。私もいつかこの目で見たいものです。

我が家にも実生4年になる幼龍がいますが、やはり灌水など慎重に
なってしまい、硬作りにならざるを得ません。

Shabomaniac!さん家の大龍冠で10年ですか…。まだまだ幼稚な姿でいる
我が家の幼龍もこんな風に育てばイイけど、焦らずじっくり育てることにします。

King is here

Shabomaniac!さん、こんばんは。
"King" のおでましですね!
Mojave Desert を旅していると出会うことが多いのですが、
Inyo County, Death Valley の彼らは、ひときわ輝いている
というか、他の場所のどこより元気な感じ受けました。不思議ですね。
 実生でなんとかうまく育てたいのですが、私の所ではうまく
いってくれません! また、今年も種を注文するつもりです。


すごい!

綺麗ですねー。
二枚目の写真見ると点々と群生株が見えますね。

「年に何回か動く」と本にありましたが、こんな堅そうな土壌を移動するんでしょうか。
デスバレーは石も動くところがあるそうですが…

ここにはあの芋虫は来ないで欲しいですね。

渡米した時にDeath Valleyでこいつを見た時の感動を思い出しました。
晴れているから刺色がものすごく綺麗に写っていますね。

実生10年でこのサイズですか…でも、十分イカツイ刺の出方をしていて立派です。

ううう…私もまたアメリカにサボテンを見に行きたいです。

こいつは春から縁起が良い...です!

う~む...。大竜冠の自生地写真、これほど鮮明かつ詳細に紹介されたのは初めて見ました。

コロニーの生える土質(ほとんど岩屑ですね!)...
生えているところといないところの違い...
このような礫原のような山の斜面で地表下の水がどう動くか...

滞水を極度に嫌う根の特性は、この地形ならなるほどと頷けます。

ではその根はどう伸びているのか...?
乾燥が続いていても彼らがふっくらしているのは、固く厚い表皮+根張りに秘密があるのでは??
きっと細く広く(もしくは深く)伸びているのではないだろうか?...などなど
想像(妄想?)の翼は際限なく広がります。

大型種で広域分布するくせに栽培困難な龍...彼らを手懐けるヒントが隠れていないかと
パソ画面を穴のあくほど眺めながら、そんなことを考えました。

貴重な画像、ありがとうございました。


こんにちは
素晴らしい写真と解説、有り難うございます。
懐かしい風景でもあり感慨深く拝読しました。

アメリカのサボテンと言えば、大龍冠と鯱頭が
浮かんできます。自然の中に赤刺が映えて、格別
の美しさと迫力を覚えます。

大龍冠の自生地へはラスベガスから二度、ロスか
ら一度訪ねました。小高い山の斜面、岩盤や岩の
ゴロゴロした所、この写真とよく似た風景でした。
自生地では深く根を下ろしているようです。

龍女冠は、グランドキャニオンの山のてっぺんで
多数見ました。高地に進出したのでしょうね。

実生は、植え替える毎に消えていくので、僅かしか
残りません。龍女冠は生長期間が長く、生長スピー
ドも速いようで、こちらは順調に育っています。

蛇足ですが、大龍冠の岩場にはヘビの巣窟がありま
すね。現地では頭がサボテンモードになるので、特
に夕方近くは要注意ですね。至近距離で巨大ヘビに
遭遇。一命を落とすところでした。

岩の多い緩やかな傾斜地、大きい寒暖の差・・・参考になります。
大竜冠の個体差もよくわかりました。
10年物も自生地に負けないくらいに綺麗な刺に育っていますね。

>New comerさん
大竜冠は、分布域も広いし、なによりデカイので自生地でも弁慶柱なみに見つけやすいサボテンです。
ラスベガスに行く機会があったら、レンタカーで30分も走れば沢山みられます。成長速度は、たぶん
夜冷え込む標高の高いところで、昼間ムンムンに暑くなるハウスとかで育てたら結構早く育ちそうですね。・・・と低地の住人。

>Yuccaさん
たしかにサボテンの王という風格がありますね。車でハイウエイを流していても、大きいので姿が目に入ってきます。それでそのあたりを歩き回ると白紅山が見つかったり・・・。ここの大竜冠はとても元気ですが、デスバレーの山の方、2000m近い場所にもポツポツと生えていますが、それらは小振りで元気がない。白紅山はその場所で元気に沢山生えています。

>遍路さん
年に何回か動く、というのはたぶん成長期のことだと思います(つまりそれ以外の時期はまるで育たず、
動きがない)。動くサボテンといえば、バハ半島の入鹿(Machaerocereus eruca)は、地面を這いずります。横倒しに生え、育った分だけ前に出る(後ろの方は枯れて、側面から根を下ろす)と。栽培でも大鉢に寝かせれば動くそうですよ。

>roka79さん
サボテン旅行は、車で延々ハイウエイ走っていく感じとか、旅の全体が恋しくなりますね。私もなかなか
行けないので、古い写真引っぱり出してきてブログを書くのには、旅を記憶の中で楽しむ感じがあります。大竜冠なんかは、鉢植えでどんなに頑張っても、野生株には勝てないので、やっぱり自生地まで会いに行くのが一番ですね。

>noriaさん
大竜冠は、ラスベガスのあたりでは、あまり傾斜のない場所にもありますが、やっぱり岩だらけの場所
です。引き抜かれて死んでいる巨大な群生株を見たことがありますが、人の腕くらいある太い根っこが
まっすぐ伸びてました。主根でがしっと岩を貫いて、細根はごく浅く広い範囲にのばす、というパターン
かなと想像しました。栽培下では、そのあたりよくわかりませんが・・・。

>Doremifaさん
大竜冠、小苗はまるで鯱頭のような透明感のある色ですが、ある程度の株は同じ赤刺でも鯱や神仙あたり
の刺とは、なにか質感が違う、重い感じの刺です。それがまた植物全体の硬い感じともマッチして、重厚
な印象を与えます。竜女冠は、ご指摘どおり育てやすいですね。ただ実生苗の感じは区別がつかない
くらい似ていますね。

>masutusさん
こういう植物の自生地と、きっとコンクリート建物の屋上環境は、共通するところが多いと思います。
難物=暑さが苦手、というイメージがありますが、こと大竜冠については、めちゃめちゃ暑いのが好き
そうです。というか最高温30度オーバーくらいでは成長スイッチが入らないのかも知れません。でも、
夜も蒸し暑い、日本の夏はちょっと違うのかも知れませんね。
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