誰が天狼を殺したか?(後篇)

(前回エントリーから続く)

ユタ州内には、いまのところ2か所しかない、と言われている天狼(Sclerocactus sileri)の自生地。
そのひとつを訪ねた私の目の前にひろがっていたのは、衝撃的な光景でした。密度の高いコロニーなのに、
見つかるのは枯死した天狼ばかりなのです。



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                  Habitat of Pediocactus sileri in Utah


いったい何故こんなことが起きたのか?過酷な乾燥が原因か、それとも、致命的な寒波に見舞われたのか?
サボテンの自生地では、とくにスクレロの白紅山など、死んだ株がたくさん混じっているコロニーをしばしば見かけます。
しかし、それにしてもここは酷すぎる。なにしろ数十株の枯れた株があるのに、生きていそうな株は小さな若苗さえも
およそ見あたらないのです。ほぼ全滅。いったい天狼に何が起こったのか?誰が天狼を殺したのか・・・?

ひと株でいいから、元気な個体を写真に収めて帰りたい・・・諦めきれず、探索を続けること1時間あまり。
やっと見つけた6、7cmの若苗。荒々しい刺の隙間から、緑の地肌が覗いています。間違いない、この株は生きてる!



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写真を撮ろうと、目線を下げて植物に向き合う。
・・・でも、なにか変なのです。植物体が浮き上がっているというか、なんかヅラっぽい感じで上体がハコハコして見える。
うむむ?いったい何が起きているんだ?そおっと刺をつまんで引っ張ったら、かぱっとサボテンの上半分が取れちゃった。

そのあと、私が見たのは、思わず叫びだしそうになる光景でした。
(以下の写真、多少グロテスクなのでご注意・・・)




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                    "Beetle larve" in Pediocactus sileri


なんと、親指サイズほどのイモ虫が、天狼の胴ッ腹のまんなかでのたくっていたのです。
この仲間の研究者である、Fritz Hochstatter氏の自生地探訪記にしばしば出てくる"cactus-borer"でしょうか。
スクレロの天敵と言われる甲虫の幼虫に、はじめてお目にかかりました。子どもの頃育てていたカブトムシの幼虫は、
それなりに可愛らしくも思えてけれど、こいつにはそうした共感は抱きにくい。

寄生された天狼の内部は殆ど喰い荒らされていて、虫の糞が散らばっている他は、がらんどうのようになっています。
天狼の内部の組織は、ほとんどのがこの丸々と肥えた虫の身体に変わってしまった様子。
外から見たら、青々とした元気な個体に見えたのに・・・中身はまるで空っぽ、すでに死に体だったというわけ。
サボテンの球体に穴を穿つもの・・・cactus-borer と呼ばれるこの虫、正式な学名は不詳ですが、
色々調べてみたところ、おそらくカミキリムシ(Cerambycidae)の類ではないかと思われます。



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                  You can see the sky through the plants body



虫をふるい落として、天狼の上半分を天にかざしてみると、こんな風に空が透けて見えました。表皮の部分だけを
残してあとは綺麗に片づけるという、見事な食べっぷりです。時期的にも、幼虫の大きさ的にも、成虫になる直前
だったのでしょう。これより前に見た、底部に大穴が明いた天狼も、おそらくこの虫のお食事のあとだったのかも知れません。

それにしても、甲虫一匹が育つために、天狼の親株が1本必要だというのは、なんとも贅沢(うーんニンゲンのリクツだ)。
だって、天狼が虫の餌になり得るサイズに育つまでには、十年とかそれ以上の歳月が必要だった筈ですから。
これまでも、もしかしたら虫にやられたのかな・・・というサボテンのコロニーは幾度か見てきましたが、まさにお食事中の
cactus-borerに出会ったのは初めてで、実物を見てしまった衝撃というのは大きなものでした。

・・・・・・。



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             Almost all Sclerocactus polyancistrus have died off in this colony S of Nevada


実際、白紅山や黒虹山など、他のスクレロカクタスのコロニーでも、この虫で絶滅状態になることがあるようです。
自生地を歩いていると、刺だけが抜け殻のように残って、カゴ状になったスクレロ白紅山(S.polyancistrus )や、
黒虹山(S.spinosior)の死骸がゴロゴロしている場所にしばしば行き当たります。おそらくこの類の虫の仕業でしょう。

しかし、ひとたび植物が絶えると今度は虫の方も減少し、そのうちに食害されなかった実生小苗が成長し、また周辺に
こぼれていた種が芽を出して、十数年をかけて元どおりにコロニーが回復する、という話を、長年自生地を見てきた
メサ・ガーデンの園主から聞いたことがあります。
一方で、そもそもがギリギリのバランスで成り立っているので、ちょっとした環境変化で、どちらかが過剰に優位に立つと、
二度と元のコロニーが復活しない、ということもありそうです。少なくとも、この十数年、ペディオ・スクレロの自生地を
見て歩く限り、個体数が激減したり、おそらくは絶えてしまったと思われるコロニーを度々目にするのですが、
一方で、復活した、という話は具体的に聞いたことがありません。
いずれにせよ、天狼も、白紅山も、自生地ではギリギリの崖っぷちで生きている植物であることは間違いなさそうです。

最後に、ちょっとだけいい話(たぶん)。



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               Only a couple of 'healthy' specimen of Ped.sileri at here, S of Utha


枯れ株、もしくは枯れる(喰い尽くされる)寸前の株しかなかった、ユタ第2産地の天狼ですが、
数時間の探索の結果、2本だけ、元気そうな大株を見つけました。
1本はブッシュ状の木陰に生えていた丈が柱状に伸びた大株。焦げたような黒刺が印象的でした。
そしてもう1本は、この一帯でもとくに高い丘のてっぺんに鎮座した、白刺の美しい株です。
このふた株は、少なくとも刺をつまんだくらいではビクともしなかったし、株元の部分もしっかりしていたので、
この時点では中まで空っぽにまで食べ尽くされていることはなさそうでした。しかし、この一見健やかに見える天狼の裡側に、
もしかしたら小さな cactus-borer が潜んでいるのか、いないのか、それはわかりませんが。



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コロニーに2個体が存在するということは(不安なことにこの年の開花の痕跡はありませんでしたが・・・)、
これからの先の世代交代も起こり得る・・・と願いたい。ユタ州に二カ所しかない天狼のコロニーが絶えることのないよう、
祈りをこめてその姿を撮影しました。
つぎにここを訪ねるとしたら・・・そう、十年後かそのくらいですね。でもきっとまた行ってみたいと思います。
群れなす狼たちに、今度こそ会えることを願って。



テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

コメント

非公開コメント

うわ~・・・サボテンしか食べるものがないのですね~カミキリムシも死に物狂いなんでしょうね~(´ヘ`;)
カミキリムシめっ!わざわざサボテン食べなくても!木の根っこで我慢すくれろ~っ~~~って、次回行く時は大声で荒野で叫んで来てください!

食うか食われるか・・・大自然は日本と違って厳しいですね~ハ~ぁ~ため息・・・

お、待ってました。
しかしお食事中とは。
このコロニー生き残って欲しいですね。

サボテンが無くなればカミキリムシも共倒なので、ちょっと控えろよー。
というのは人間の勝手ですが。

まさかの展開でした

どちらも自然界の生き物なので人間が手を加える訳にはいかないんでしょうね。
希少植物を守る為に合衆国が動いてないのでしたら巣食う甲虫も希少種なんでしょうか。
何れにせよ今まで守られてきたコロニーが破壊状態なのは人間の影響が少なからずあるのかもしれませんね。

続きが読めてスッキリしました~。 他に食べれそうな物がないんですかね~。この間の日食を期に、2年位間前の種子ぺディオ、スクレロ等が発芽しました~!思いも拠らなかったのでとても嬉しいです。 後はどの位、生き残ってくれるか・・。種、捨てなくて良かったです~!

ハンドルネーム

此方は趣味、彼方は命がけ。ハンドルネームのうちとしては天狼に申し訳ないです。自生地では人間が最大の敵と思ってました。自然淘汰されるんでしょうが、何とか生き残って欲しいです。

虫さんだったのですか~!
うーん。サボテンって美味しいのかなー?
サボテンは好きだけど美味しくはなさそうに思うんだけど、彼らにとってはイイモノなのかな。
それにしてもこの広大な地でこれだけの荒れたサボ達の中でよく生きていたコを見つけられましたね!
そっちも驚きでした。

やはり、虫による食害だったのですね。

札幌、いや北海道で10年位前だったでしょうか、スズメが全く姿を見せなくなったことがありました。巣箱の中に大量のスズメの屍骸が見つかり、新聞やTVニュースで異変を報道していたものです。
それから2年くらい経って、ちらほらとスズメを見かけるようになりました。今では、毎日庭にやって来て餌をさがしています。原因はわかりませんが、難を逃れたわずかな数のスズメが繁殖し元の個体数を回復したのでしょう。

スクレロは、栽培家にとっては、種子を発芽させるだけでも大変な難物種ですが、と言う事は現地には何年にもわたってばら蒔かれた種が眠っているはずです。絶滅を案ずる必要もないほどのしたたかな生命力を持っているのではないでしょうか。そう信じたいです。 

自然の摂理は美しい、などと言いますが、こういう話を聞くと、残忍な美しさなんだな、という思いがします。
このコロニー、いつか私も行ってみて、スクレロが復活していることをこの目で見てみたいです。

そうか、“まだ生きている”天狼 にヒントが・・・。
幼虫、よくぞ見つけられました。・・・もう少しで迷宮入り。
でも、何もできないのが歯がゆいですね。

カゴ状になったスクレロ、ペディオはうちでも年に2、3個見つかりますが、私がcactus-borerにならないように、もう少し大事にしてやらねば・・・高い丘の天狼を目標にして。

Natural Enemy

Shabomaniac!さん、こんばんは。
やはり "beetle" でしたか! 彼らの育っている環境は、
そもそも雨がいつ降るか分からないし、夏と冬の温度差が
尋常でないとか、悪いことを数えたらきりがないような所なので
ちょっとやそっとの天候異変など、楽しんでしまうのでは?
なんて思います。 しかし、動くことのできない植物にとって
勝手にやってくる昆虫から身を守るのは厳しいですね。
Natural なEnemy なので、見守るしかないのでしょうけど
、個体数の極端に少ない植物が死んでいくのは、
絶滅という恐ろしい事を想像してしまい、 悲しいです。
 Yucca にも天敵の蛾がいます、 やはり自然はほんとうに厳しいのですね。

Fredonia の自生地は、個体数もかなりある感じがしましたので
Beetleが大量発生しないように祈ります。

こんにちは
後編をワクワク拝読。面白かったですよ。
犯人にびっくりしました。
白虹山も、なるほど甲虫類(幼虫)で
したか。
種を持ち去るとか、蜜を吸い尽くすとか、
頭を囓るとか、他の生き物の様に、その
程度で済めば問題ないのでしょうが、に
んげんが、資源を喰い尽くしているのと
同じ様で、凄まじいですね。
ほんとに、世代交代が続いてくれると
嬉しいですね。

生存競争とはいえあまりにも厳しい……。
花粉や種子を運んでくれる虫や鳥がいるかと思えば、こういう凶悪なのもいるのですね。
生命の息吹があまり感じられない荒れ地のような自生地でも、良くも悪くも微生物レベルからしても多様な関係性の中でみな暮らしているんでしょうね。

人工的な私たちの栽培環境では、その辺りはどうなってるのか?
順調に育っていると思えるものでも、サボにとってはかなり面食らっているのかも……。

>takoyashikiさん
こやつを見つけたときには、ほんとーびっくらして、偉大なる天狼サマを食べたりなんかせずに、木の根っこで我慢シレリ、って怒鳴ってやりました。って、ほんとはギャーって絶叫したのですが。日本にはサボに巣喰う甲虫はいないみたいですから、栽培株では起こり得ないことですね。

>さくさん
天狼とカミキリの関係で多少アンフェアなのは、カミキリは複数のサボテンを選べるみたいなんですよね。ペディオやスクレロは、肉質が柔らかいので、彼らには好適みたいです。この類の種がなかなか発芽しないのはこういう事態に備えてのこと、という話も聞いたことがありますから今後に期待したいです。

>遍路さん
私も、こういう虫がいる話は聞いていたし、絶滅したコロニーも見たこととがありましたが、まさにお食事中に遭遇するとは思いませんでした。人間活動が影響したのか、しないのか、わかりませんが、虫とサボテンのあいだの絶妙のバランスが今後も保たれることを願っています。

>apple
そうですね。このあたり、ほかに瑞々しい植物はなにもありませんから、虫のほうも次代を残すためには必死なんでしょう。不思議なのは、どこから虫が侵入したか、です。目立った穴はなかったですから、成虫がどんなふうに産卵するのか、こんど調べてみたいと思っています。

>sileriさん
天狼の自生地は、だいたいがネイティブアメリカンの居留地で、開発などは殆ど行われていません。なので、人間はさほど脅威ではないようですが、もともとの天敵は手強いですね。sileriさんも育てておられるからよくわかると思いますが、このサイズの苗まで育つのにどれだけ時間がかかるか。奇跡に奇跡を重ねた結果なのにさぞや無念・・・と思うのはひいき目でしょうか。

>l-marshさん
天狼はもちろん食べたことありませんが、栽培しているサボテンをいくつか食べたことがあります。基本、酸っぱいです。ぬるぬるして酸っぱいオクラみたいな感じ。毛虫やナメクジなどもサボテンは好きみたいです。アロエなどは苦いからか見向きもしないのに、サボだけが囓られてることよくありますよ。

>antigonosさん
ご指摘のとおり、この仲間のサボテンは絶滅→再生を繰り返す、という専門家もいます。きっとこの場所にも無数の種が眠っている筈です。スズメは、東京は数十年前にはいくらでもいたのに、最近は電線にとまっている姿もめったにみかけません。自然界の生き物には消長のサイクルがつきものなのかも知れませんね。

>roka79さん
わかります。正直、このイモ虫さんに出会って、おおらかな笑顔で「大きく育てよ」と声をかける気持にはなれませんでした。なんだか残忍な場面に立ち会ったような衝撃を受けました。不運なサボテンが宿した死に神の、見事に丸々と肥え太っていること・・・。いつか再生の場面に立ち会わないと、バランスがとれない気がします。

>masutusさん
そういわれて見れば、私もいくつのサボテンを「刺だけの鳥かご」にしてしまったことか。自分で蒔いたものだけでなく、その昔は輸入球を購入してダメにしたこともあります。しかし、丘の上の天狼の見事だったこと。こんな株をいつか種から育て上げたいものです・・・。masutusさんは、一番実現に近い場所にいますね。

>Yuccaさん
寒さにも、暑さにも、そして日照りにもよく耐えるペディオ、スクレロですが、虫にだけは為す術もなくやられてしまうようです。Fredoniaも、町の直近のコロニーは絶滅したそうですから、Yuccaさんが見た、町の南の方のコロニーがなんとか持ちこたえて、自生地を回復することを祈りたいです。

>Doremifaさん
白紅山は、スクレロの中でももっとも絶滅コロニーによく出会う種類です。もしかしたら、あの凄い刺ゆえ、死骸が目立つこともあるかも知れませんが、その刺をもってしても虫を防ぐことはできないという・・・。一方で、大竜冠などの虫にやられた株は見ませんから、肉質の柔らかさが弱点なのでしょうね。

>アイハルさん
たとえばチリ、アタカマ沙漠のコピアポア属のサボテンでは、元気に開花しても世代交代が出来ないコロニーが多くあるそうです。乾燥化が進んで、サボテン以外の大半の植物が枯死し、次いでサボテンだけでは生命を維持できずに虫たちが消え・・・残ったサボテンは元気に開花しても、もう訪れて花粉を運ぶ虫がいないのだそうです。生き物たちの関係性は複雑で、かんたんには解けないパズルですね。
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沙漠植物、栽培、探究。

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