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吸血昆虫を惹きつける花たち。

   
 ゲイッソリザ・ラディアンズ(=ゲイソリザ Geissorhiza radians)は、数あるケープバルブのなかで、花のインパクトでは一二を争う有名な植物です。ワインカップの名で親しまれ、広く栽培されています。自生地は南アフリカのケープタウンにほど近いダーリング(Darling)近郊ですが、開発などでその数は少なくなっており、絶滅が危惧される植物のひとつ。栽培では冬生育型で、落葉、休眠する前のちょうど春のこの時期に開花します。自生地は冬場、ぬかるむほど水分が多い場所なので、成長期は水を切らさないように管理します。凍らさなければ寒さにも強く育てやすい植物です。




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   Geissorhiza radians



 濃い紫色の花弁は、中心部がクッキリ縁どられたワインレッドになっていて、眼を射るようです。いったいどうしてこんなに激しい色彩のコントラストになったのか。ゲイッソリザには、このラディアンズのほかにも、Geissorhiza eurystigma 、
Geissorhiza mathewsii というよく似た花の植物がありますが、色彩はよく似ていてます。こうした花の真ん中が目立つ花は、ポリネーターを奥へ、中心部へとに誘うため、と説明されることが多いのですが、このラディアンズの送粉者はいったい誰なのか。




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 ゲイッソリザの花はハナバチに授粉されるものが多く、なかにはmonkey beetlesと言われる甲虫を送粉者として持つ種もあります。ところが、このラディアンズの主な送粉者は、horse flies 、Tabanid fly と呼ばれるアブ(馬蠅)の一種で、Philoliche属の昆虫です。一般にアブ類は青~紫、スミレ色の花に誘引される傾向がありますが、ゲイッソリザ・ラディアンズは、青紫の花弁の、中心部が熟したように赤い。この強烈な色彩のコントラストで、horse flies を誘引するのです。
 実はこのアブが曲者で、長い口吻で花蜜を吸うだけでなく雌は動物から吸血します。実際、ゲイッソリザ・ラディアンズの花時に自生地の蒸し暑い草原を訪ねると、ブユの大群につきまとわれたうえ、このアブにも刺されることがあるそうです。そのことから、花弁の中央が切り裂かれたように赤いこの花は、動物の身体に刻まれた生傷に見せかけてアブを誘引するのだ、という見解を述べる人もいます。真偽は確かめられませんでしたが、ちょっと面白い見方ではあります。そしてもう一つ、ゲイッソリザには本種とよく似た花を咲かせる種が2つありますが、加えて他属に見間違えるほどそっくりな花があります。




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   Babiana rubrocyanea



 それがこれ、バビアナ・ルブロキアネア(Babiana rubrocyanea)です。実にそっくりだと思いませんか。写真の株は、二十年くらい前に南アから不明種球根として送られてきたもので、私は当初、花をみてゲイッソリザ・ラディアンズだと思っていました。バビアナもアヤメ科の球根植物で、観賞植物として園芸的に改良されたものも多くあり、ゲイッソリザよりも普及しているかも知れません。このルブロキアネアは原種ですが、生育期はたっぷり水をやれば、無加温のハウス(関東)でも楽に越冬し、よく咲いてくれます。




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 このバビアナ・ルブロキアネアは、ゲイッソリザ・ラディアンズと近接した地域に自生していて、重なり合うように生えているところもあります。でも、二つの花がそっくりだと思うのは人間だけではないようです。先に登場したPhiloliche属のアブは、ゲイッソリザ・ラディアンズだけでなく、このバビアナの花も同じように訪れるのです。
 逆にいえば、このよく似たゲイッソリザやバビアナの花は、特定のアブの送粉様式に適した形に収斂進化を遂げたものとも考えることが出来るので、これらの花たちのあり方を“Pollination Guild”などとも呼んでいます。いずれも、青紫の花弁の中心部が、赤く染め抜かれた、他にあまりない花です。少しショッキングな“生傷擬態説”の真偽はともかく、このサイケデリックな花が、特定のアブを強く惹きつけることは間違いありません。

 ともあれ、私の栽培場には恐ろしい吸血アブはやってこないので、ポカポカとのどかな花見を楽しんでいます。




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プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。
著書「珍奇植物 ビザールプランツと生きる(日本文芸社)」

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