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ラフレシアの記。

    
 じっとりと蒸し暑くて、薄暗い熱帯林を、ツル草に足を取られながら何時間も歩いて・・・。ラフレシアは、本来なら、そんなふうにして出会うべき花でしょう。世界最大の花にして、葉も茎も存在しない、完全寄生植物。19世紀、シンガポールの創設者ラッフルズが発見した稀代のビザールプランツは、マレー半島を中心に東南アジアに広く分布します。昨年の夏、ボルネオ島を旅したときに、私は運良くこの花を見ることが出来ました。
 ラフレシアと呼ばれる植物は、最大の花径(90cm)となるアーノルディ(Rafflesia arnoldii)を筆頭に十数種があり、いずれもよく似ています。私が見たのは、マレーシア・サバ州に分布し、2番目に大きな花を咲かせる種、ケイシー(Rafflesia keithii)です。実は、ここで紹介したいのは、この奇天烈な植物と、わりと手軽に出会ってしまったというお話です。




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      On the way to Poring Hot Springs, Sabah, Borneo



 昨夏のボルネオ行きでは、動物観察が主眼だったので、この植物の探索に何日も割くことは出来ませんでした。しかし、ガイドによれば、一年のうち半分くらいは手軽に見られる場所がある、というのです。場所は有名なキナバル山の麓にある保養地・ポーリング温泉(Poring Hot Spring)付近の農村です。車を走らせてみると、街道沿いに「ラフレシア開花中」という看板が、何カ所か出ていました。そこで800円ほどの入場料を払うと、日本の里山のような場所に案内されます。薄暗い藪を歩いたことは確かですが、わずか5分くらい。そこに、開花中のラフレシアがありました。はい、あっけなかったです。




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     Flower of Rafflesia keithii (2days) , Sabah,Borneo



 私がみた花は二つで、ひとつは前日咲いたもの(2日目)で、それは見事なものでした。直径こそ50cm足らずでしたが、形容しがたい血肉色の花は、ぼってりと厚みがあり、面妖な斑点をまとい、独特の質感があります。もちろん葉も茎もなく、地面に直接生えたような状態です。ラフレシアの花は動物の腐肉のイミテーションで、人間からすると悪臭を放ってハエなどの送粉昆虫を集めます。しかし、ガガイモ科の多肉植物などで慣れている私には、そんなに強烈なものには感じられませんでした。ほんとうは手触りも確かめたかったのですが、触るとすぐにダメになってしまうのでダメだ(商売道具ですからね)、と言われて断念しました。




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     Living flower bud of R.keithii
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 ラフレシアは雌雄異株で、蕾があらわれてから咲くまで1年以上かかりますが、開花は1週間足らずです。私が見たもうひとつの花は5日目ということで、すでに黒ずみはじめ、死を宿している風情がありました。この花の一種背徳的な魅力は、根も葉も生じない完全寄生という特異な生活史にくわえ、咲き誇りながら腐敗するという、死をあからさまに宿した生の禍々しさにある気がします。




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     Rafflesias are growing on Tetrastigma vine



 ラフレシアが寄生するのは、ブドウ科のつる草、ミツバカズラ属(Tetrastigma sp.)に限られています。完全寄生ですから、当然光合成もせず、栄養分はすべて宿主に依存しています。ラフレシアの微細な種子は、ミツバカズラの根茎上で、特定の条件のもとで発芽すると、微細な糸状の細胞を宿主の体内に侵入させ、潜伏します。その後、一定の期間を経て出蕾。さらに時間をかけて開花、結実します。私たちの目に触れるのは、開花繁殖のプロセスだけですが、それ以外の時間、ミツバカズラの体内でどうしているのか等、その生活史にはままだ解明されない謎がいくつも残されています。
 また、寄生植物などというと、想像を超えた生態のような気がしますが、実は、園芸家が行う接ぎ木のようなものと言えます。ラフレシアは、宿主であるミツバカズラに自らを接ぎ木しているような状態ですね。ミツバカズラの側は、何らかの理由でラフレシアを自分の一部だと誤認して、その侵入を許すわけです。ただ、発芽条件などは解明されておらず、いまだに人工繁殖や栽培は出来ないとされています。




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     4days flower
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      dead flower



 では、私がみた農家の里山のラフレシア、つまり覆いで囲われたラフレシアは天然自然のものなのか?という疑問がわいてきます。ミツバカズラの多くは、熱帯林内のギャップのような場所を好むため、原生林だけでなく、人の手に入った里山的な場所にも多く見られるそうです。そういう意味では、今回見た場所も生育不適地ではない。とはいえ、そんなに都合よく、道路から歩いて5分のところに次々咲くものなのか、とは思いますよね。
 実際、かつては山から刈り取ってきたラフレシアを庭に置いただけで、咲いた咲いたと客集めしていた人もいたそうです。しかし、ここでは開花中の花、咲き終わった花、蕾、蕾のまま枯れたもの、いずれもミツバカズラの根茎からしっかり生えています。園の担当者にどうやって栽培しているのか?たまたま生えているのか?などと訊きましたが、曖昧な表情を浮かべるだけで教えてくれません。観光ガイドさんは、ラフレシアの種をミツバカズラに埋め込めば良いのだ、などとと言いますが、ほんとかな。出来るのなら凄いけど。




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 帰国後、内外の文献資料などあたりましたが、ラフレシアの播種発芽は、培地上でも、宿主植物上でも、いずれも成功していない、と書かれています。ただ、そのなかでひとつヒントになる記述もありました。自生地でラフレシアが寄生したミツバカズラ、つまり咲いているのを現認した宿主を、引っこ抜いて栽培環境に移植したところ、その後何年にもわたって断続的に咲き続けたというもの。また、これを応用して、ラフレシアに“感染”したミツバカズラを分割して、そうでないミツバカズラに接ぎ木したところ、それぞれが開花した、というもの。
 私の推理は、この園では、近郊の原生林から、ラフレシアの咲いている、もしくは咲いた痕跡のあるミツバカズラを生きたまま引っこ抜き、定植しているのではないか、という見立てです。もしかしたら、接ぎ木もやっているかも知れない。咲かなくなったら、また新しい宿主の木を山奥から持ってくれば良いわけです。ひとつ疑問は、何年にもわたって咲くということは、同時に数多くの種子が発芽し、時間差で開花しては枯れる(もしくは、多数の種子がミツバカズラに付着し、時間差で発芽成長する)、ということなのか。それとも、ラフレシアは宿主全体に菌糸のように寄生細胞をめぐらせていて、花が枯れた後も生き続けているのか、ということ。このあたり、詳しい方がおられたら是非ご教示いただきたいところ。ともあれ、これだけ有名な植物でも、まだまだわからないことがたくさんある。珍奇植物の世界は、ボルネオの森と同じくらい深いです。
 

【追補】

 その後、拙稿を読んでいただいた、熱川バナナワニ園の清水秀男さんから、大変貴重な資料を送っていただきました。氏が主宰する「熱帯動植物友の会」の会報、1994年~95年のバックナンバーで、ヤッコソウやツチトリモチの研究でも著名な阿久澤栄太郎氏によるラフレシアに関する論考が掲載されています。
 ボルネオでラフレシアの自生地等を踏査し、ヤッコソウとの生態的共通点を見出していくなかで、阿久澤氏はラフレシアの生活史を次のように考えています。それは、ラフレシアはひとたび宿主のミツバカズラ属(Tetrastigma sp.)に発芽活着すると、その体内に「細胞群」とも呼ぶべき植物の“本体”を伸ばし、拡げてゆき、宿主が枯れるまで長きにわたって寄生し続ける、というものです。我々が目にするラフレシアの花は、その“本体”が断続的に咲かせ続けているものだというのです。そして、実際にラフレシアに寄生されたミツバカズラのツルの断面を観察し、その外周部から、宿主本体のものではない、おそらくラフレシアの「細胞群」と思われるものを見出しています。
 ラフレシアの本体は本当に花なのか?・・・私が現地の「ラフレシア園」で聞いた説明に感じた違和感、疑問の答えもここにあります。やはり、森林内でラフレシアの花をみつけたとき、その宿主のミツバカズラを掘り取って移植することで、ラフレシア観光はなりたっているのだと思います。多くの人が稀少な植物に接することで関心を深める。また乱獲や森を踏み荒らされることを回避する、という意味では、園の試みにはもちろん価値があると思います。でも、次にボルネオを訪ねる機会があれば、やはりひと知れず咲いている密林の珍花にまみえたいな、とも。清水さん、ありがとうございした。











テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。
著書「珍奇植物 ビザールプランツと生きる(日本文芸社)」

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