新刊書 'Wild Lithops'

new book 'Wild LIthops' by Mr. Harald Jainta
話題の新刊「 Wild Lithops 」(著者 Harald Jainta氏 英文) が手元に届きました。
サボテン・多肉植物に限らず、植物関連のモノグラムとしては久々の大著で、約500ページ、写真は2000枚。
10年以上前に出たコール氏の本をしのぐボリュームです。書籍そのものは1万円少々で内容に鑑みれば
相応と感じますが、なにしろ2キロ以上ある重たい本なので、送料も同じくらいかかった。
よく考えれば、少し時間を要しても船便で送って貰えば良かったかなと。以前、島田保彦さんの著書
「生ける宝石リトープス」を買いそびれたので、ちゃんとしたリト本は是非とも欲しかったのでした。
で、届いた箱を早速開封してみると、手にずっしり。読破するまで何ヶ月かは楽しめるなと思いつつ、
先出しのレビューです。


All pictures in this book were taken in habitat
ぱらっとめくって見てまず気づくのは、掲載された写真のほぼすべてが自生地で写された植物であること。
ちょっと考えればわかりますが、まとまった栽培品のコレクションを、温室でばばばっと撮るのとは訳が違って、
一種一種、それぞれの自生地を訪ねて、広大な南アフリカを旅しながら撮影された写真ですから、
かかっているコストが違います。著者は、十数年を費して16回の自生地旅行を重ね、その成果として
この本を出版したのだそうです。知られているほぼ全てのリトープスが写真つきで紹介されており、
それらはすべて野生下の植物です。また、自生地を訪ねリトープスを探し歩く過程も丁寧に語られていて、
ある種の植物ロードムービー的な面白さもあります。著者が地面に這いつくばり、リトープスと同じ目の高さで
カメラを構えている姿を思い浮かべると、何とも言えない親近感を覚えてしまいます。
リトープスの分類についても、新たな考え方を提示していて、これも今後さまざまな議論を呼び起こすでしょう。


リトープスの最大の魅力は、複雑で多岐にわたる窓模様の変化ですが、その色彩や紋様が、どのような
自生環境に育まれたのか、種の個性と背景にある物語を、この本は数多くの写真で雄弁に伝えています。
実際、ページをめくると、地形、地質、気候、植生、想像を超える多様な環境に彼らが適応していることに
驚かされる。何枚かの写真では、リトープスがいったいどこに写っているのか、一見してわかりません。
自生地の砂礫に、いかに巧みに擬態しているかということですね。
また、例えば紫薫(Lithops lesliei)の仲間が生えているのは背の高い草も茂る丘陵地です。その地域の
年間降水量は500ミリ以上。写真を見ると、こんなところにリトが生えているのか、と少し驚かされます。
かたや大内玉(L.optica)が分布するのは降雨のほとんどないナミビアの、草木も生えぬ砂の荒野。
この二種の自生地写真を見比べれば、前者の栽培が容易で、後者が難しい理由が一目瞭然です。
そうした意味では、リトープスひとまとめの栽培法解説よりは、よほど得るべき情報が詰まっていると
言えるでしょう。

Lithops helmutii from NE Steinkopf (cultivated )

Lithops hallii SH1353A Zwaartst (cultivated )
一方、タイトル通り「野生のリトープス」に拘った本なので、上の写真のような鉢植えの植物は対象外です。
栽培種として人気があるカラフルな色変異リトープスたちも一切登場せず。あくまで大地の色に染められた、
原種オンリーの世界。自生地の環境から栽培特性を推察することは出来ますが、水やりに土作り、飾り方、
といった栽培ガイドは一切ありません。やはりあくまで、「生きる石リトープス」の存在そのものに
興味と愛着を抱く人のための本と考えた方が良さそうです。逆に言えば、育てない人でも楽しむことが出来る。
もうひとつ特筆すべきことは、この大著を物した人物、Harald Jainta氏が、学者でも営利栽培業者でもなく、
南アフリカに住んでいるわけでもない、一愛好家、アマチュア研究者だということです。プロフィールには、
ドイツの製薬関連企業でマネージャーを務めていると書かれていて、1963年生まれですからまだリタイア前の
世代です。企業勤めで働き盛りの年代から、これだけの大旅行を重ねられるのは、欧州の文化的な豊かさが
あってのことだなぁと、若干羨望の気持ちを抱いてしまいます。いずれにせよ、産業的価値のないサボテンや
多肉植物についてこれだけ突っ込んだ探求を形にしていくのは、アマチュアの熱意しかなく、園芸的興味の
発展形として、こういうあり方が日本でも広がるといいな、と思いました。

ほんとうは、彼のようにナミビアやケープを旅してまわりたいけれど、それもままならぬ身としては、
まずは暖房の効いたリビングのソファーで、生きる石たちの故郷を旅してみることにします。
テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用