FC2ブログ

難物開花、2013年春。

園芸家にとって、春は一年でいちばん楽しく忙しい季節なんですが、
今年はそこに仕事のピークがかぶってしまった。なので、真夜中の温室で膨らんだ蕾をみつけても、
翌日の夜中に咲き終わって萎んだ花を確認する、という日々。離れた栽培場に置いたものでは、
それすら叶いません。以下は、期末期首の煩忙のさなか、奇跡的に半日だけ休めた日、
自宅の小温室で出会えた難物サボテンたちの花です。



resize0039.jpg

resize0038.jpg

resize0037.jpg
                   Echinomastus "acunensis"  CR137 Florence,Arizona



トップバッターは、エキノマスタス・アキュネンシス(Echinomastus "acunensis" CR137 Florence,Arizona)。
学名を引用符つきにしましたが、そもそもは紅簾玉(erectocentrus)の亜種、またはシノニムとして扱われます。
なんといっても、この素敵な色合いの花が最高です。この個体は白花ですが、花弁の外縁がほんのりピンクに
色づくタイプもあり、同じコロニーでも個体差があるようです。アリゾナとメキシコの境目にある、
「オルガンパイプカクタス公園(Organ Pipe National Monument)」のアキューナヴァレイにタイプ産地があり、
この名前がついたのですが、写真のタイプはもっと北、フェニックスに近いフローレンス近郊がオリジンです。

エキノマスタスの代表種といえば、英冠(E.johnsonii)と桜丸・英丸(E.intertextus)ですが、
アキュネンシスと紅簾玉はアリゾナ州の中部に分布しており、その範囲は英冠と英丸の中間地帯といえます。
刺や花など外形的にも中間的な性格を備えていて、幼苗時は、ミッシリ刺が籠状につまった感じが桜丸と
よく似ていますが、次第に刺が外に突き出すようになり、成株では英冠によく似た姿になります。
花は桜丸・英丸よりも大輪で、英冠の方に近い印象です。
紅簾玉とアキュネンシスの違いは、後者の方が刺が暴れる(前者は中刺のみが突き出す)ため、より英冠に
近い姿になるところ。とくに黄花英冠(E.johnsonii ssp.lutescens)に極めて近い印象です。
アリゾナではWickenburg に生えるマスタスが黄花英冠とされていますが、これは紅簾玉・アキュネンシスと
英冠をボーダレスに繋げてしまうコロニーのように思えます。
栽培は、英冠よりは易しいけれど、桜丸・英丸よりは気難しい、といったところ。相当水を辛くするか、
日焼け寸前まで直射に晒すかしないと、丈が伸びます。この個体は開花サイズになって以降は、年2、3回しか
灌水していません。しかも素焼き鉢です。それでも、少し上に伸びているので、イチゴを逆さにしたようなシェイプ。
もっとも野生株もそんな姿なので、この種の特徴とも言えそうです。




resize0003.jpg

resize0040.jpg

resize0006.jpg
           Sclerocactus parviflorus 'brackii'=Scl.cloveriae ssp.brackii SB1011 San Juan Co,NM



続いては我が家では最古参の部類に入るスクレロカクタス。実生してかれこれ20年経つ彩虹山ブラッキー。
(Sclerocactus parviflorus 'cloveriae'=Scl.cloveriae ssp.brackii SB1011 San Juan Co, NM)。
学名がややこしいですが、今の考え方では小さいうちから開花する矮性型のパルビ、といったところ。
ブラッキーという呼称は、アメリカの種子業者メサ・ガーデンの園主のSteven Brack 氏の名前が由来ですが、
対抗意識がある?ドイツのHochstätter氏は、花の形や上向きに突き出す紙状刺など、特徴が重なることから、
白虹の亜種(S.whipplei ssp.aztecia)として扱っています。
ニューメキシコ州西北部の Kuts Canyon という小さな渓谷の周辺部だけに局限的に分布していて、
そこは真っ白い石膏泥の丘陵地で、ちょっと月想曲(S.mesae-verdae)の自生地と通じる環境です。
ひび割れた地面にめり込むように生えている感じも似ていました。

見てのとおり、この株は20年近く育てても球形10cmを超えず、4寸鉢にすっぽり収まっています。
しかもパルビにありがちな、背高ノッポになることもなく、花も毎年沢山咲かせてくれる、鑑賞上はとても
ありがたい植物。実生3-4年目、3cmちょっとの時から開花し始め、このサイズの時は刺がとても短くて
別種のようでしたが、いまは小振りなパルビ(白虹?)、といった感じに仕上がってきました。
きゅっと先の尖った濃ピンクの剣弁花と、同じく濃色の柱頭が花にも個性を与えています。




resize0011.jpg

resize0045.jpg

resize0018.jpg
               Sclerocactus whipplei 'odd yellow sp form' SB1587 Coconino Co,AZ



こちらもまた、ちょっと変わり種の、居場所が定まらないスクレロカクタス。
「黄刺白虹」(Sclerocactus whipplei SB1587 Coconino Co,AZ)とでも、呼んでおきます。
メサのリストには「odd yellow sp form」と書かれていますが、かつて園主のBrack氏は、
このタイプは実に特異なので、別種とした方がいいくらいだ、と語っていました。
刺色は黄色というよりは、飴色、麦色に近く、いつまでも色褪せせずに実に美しい。白虹の特徴とされるツンと
上に突き出す紙状の白刺が明確でなく、ちょっと見た感じはは彩虹山(S.parviflorus)のようです。
一方で花は白虹の典型、しっかり開ききらない漏斗状です。だいたいは刺に囲まれて開ききらない。
自生地はアリゾナ中部、Tuca City近郊のインディアン居留地にあり、一面火星のような赤土の裸地で、
夏場はフライパンのように暑くなる場所です。恐竜の骨の化石が埋まった観光地なので、彼らの売店が
並んでいますが、小物のアクセサリーなんかを買うと、生えている場所に連れていってくれます。

よく似た、やはり変わり種のスクレロが、もう少し北のハウスロックヴァレー(House Rock Valley)に
生えているブセキー(S.'busekii'SB1086 Coconino Co,AZ)で、この種はかつて黒虹山(S.spinosior)と
されていたこともあり、今も居所が定まらない植物です。私は、「黄刺白虹」は、このブセキーにいちばん近い
植物ではないかと考えています。いずれ、「彩虹山」と「白虹」自体がボーダレスなところもあるので、
こうした中間的なコロニーがあるのは驚くべきことではありませんが、趣味家としては興味がそそられる植物です。
この「黄刺白虹」は、実生するとベーシックな白虹よりも根が太く、ちょっと塊根ぽくなりますが、これが
とても肉質の脆いものなので、過湿に弱く注意が必要です。写真の株は実は三角柱実生接ぎの苗を
カットして発根させたもの(根は本体の根)ですが、下ろして5年、実生実根の株よりも丈も低くて
良い感じに育ってくれています。スクレロ・ペディオはだいたい発根が良いので、実生接ぎ下ろしは
結構使える育成法です。ともあれ、この大変美しいスクレロカクタスも、是非ひと株育ててみて下さい。




resize0031.jpg

resize0032.jpg

resize0021.jpg
                   Pediocactus bradyi ssp. bradyi SB470 Coconino Co,AZ



最後はペディオカクタス・ブラディ(Pediocactus bradyi ssp. bradyi SB470 Coconino Co,AZ)。
兄弟種のウインクレリ(P.bradyi ssp.winkleri)やデスパイニー(P.bradyi ssp.winkleri)の花は、
何度も紹介していると思うのですが、これは初めてかも。基本種はこのブラディなので、残りのふたつの方が
弟たちということですが、栽培者にとっては、この兄貴がいちばん手強いかな、と思います。
自生地は3兄弟のなかでは一番暑く乾いた場所で、アリゾナ州北部でコロラド川がハイウェイ89号線と交差する
ナバホブリッジの周辺。グランドキャニオンの上流部で、谷は浅くなっていますが、渓谷断崖上のテラスに
生えています。同じ場所には大竜冠(Echinocactus polycephalus ssp.polycephalus)の亜種、
竜女冠(E.polycephalus ssp. xeranthemoides)もあり、高山種と言っても、夏でも涼しいような
場所ではないことがわかると思います。この類ではいちばん早く、3月の下旬には開花しますが、
成長期はそこから5月の上旬までで、それ以外の季節は縮こまってほとんど赤土に埋りこんでしまうので、
どんなに探してもまず見つかりません。

特徴はブラシのようなガラス質の硬い刺で、他の2亜種が多毛だったりして女性的な柔らかな印象なのと
対照的です。成長もなかではいちばん遅く、動く時期がごく短い。このため、出雷・開花と新刺を出す時期が
接近しているので、冬のあいだにセットされた小さな蕾が育たないまま、新刺に喰われてしまう(栄養成長が
優先されてしまう)ことがままあり、なかなか花を見ることが出来ません。水やりが早過ぎても遅過ぎても、
それから春先の気温の高低によっても、咲いたり咲かなかったり。弟分たちがよく咲くのと比べても、気難しい
印象です。今年、その花が咲いている瞬間に立ち会えたのは、なんとも幸運だったなぁ、としみじみ小さな
鉢を見つめたのでした。



resize0044.jpg



久々の難物ネタで、オタク知識満載になってしまいましたが、基本は綺麗な花の写真を眺めてもらえれば
それだけで十分ですね。



テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

最新記事
全記事表示を読む

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
Google自動翻訳
自動WEBサイト翻訳(多言語)
最新コメント
最新トラックバック
リンク
カレンダー
03 | 2013/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる