我が家の一点モノ③菊水


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                 Strombocactus disciformis  imported more than 30 years ago


菊水(Strombocactus disciformis)です。もう30年あまり我が家で過ごしている、古い古い原産地球。
まだ少年だった私が、逗子の高台にあった平尾博さんの「シャボテン社」を訪ねたおりに求めたものです。
「シャボテン社」からは、それ以前にも通信販売で何度か植物を購入していましたが、実際に圃場を訪ねたのは
この時が初めてでした。急な階段をのぼり、蒸し暑い夏のガラス温室(当時はビニルハウスはまだ主流では
ありませんでした)に入りました。「ゆっくり見て行って下さい」と言われて、何だかかえって緊張したのを覚えています。
そこには鮮やかな刺、立派な球体の輸入シャボテンがずらり並んでいて、目に飛び込んでくる植物すべてが
キラキラ輝いて見えました。その中で、どうしてこれを選んだのか。ほかにどんな種類を求めたのか・・・。
ともかく、この日連れ帰った植物で今も手元に残っているのはこの菊水だけです。丈夫なんですね。



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硬く、乾いた風貌。頑丈でもの静かな植物です。
生成りのハンカチみたいな色の花が毎年たくさん咲きます。ゆっくりではありますが、初夏の頃には新刺をあげて
成長もします。来たときは学名どおり円盤のよう平べったく、実に端正な姿でした。将来、見事な大球になるかな、
それとも綴化するかな、と期待しましたが、30年を経てその大きさはほとんど変わりません。
かわりに高さが少し伸びました。正確に言うと、新しく育った分だけ、過去の成長部分が球体の下の方に
たくし込まれるような具合になって、僅かずつ高さが増して、きのこのような不思議な形になりました。



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                    Plant on the right is grown from seed IMG_8061S.jpg



隣にならべたもうひとつの菊水は、先のシャボテン社菊水から20年ほど遅れてやって来た実生の株です。
ちょうど花が咲いていたので撮ってみました。古い方の株も、ほぼ同じ花を咲かせます。両者のタイプは極く近い。
後から来た株は最初3cmくらいしかありませんでしたが、扁平なまま毎年直径を増やし今では追い抜いた様子です。
してみると、古いキノコ型菊水の径がまるで増えないのは、育て方というよりこの個体の個性なんでしょうね。
年月を重ねたぶんだけ、貫禄を増すサボテンばかりではないのですが、このキノコ菊水には、扁平でハンサムな
後輩を寄せ付けない風格がある気がするのは、私の思い込みでしょうか。



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                      3 years old seedling of S.disciformis


この菊水、インターネットで調べれば自生地の写真がたくさん出てきますが、メキシコ・イタルゴ州などの、
粘土の崖みたいな場所にへばりつくように生えています。硬質で乾いた外見とは裏腹に意外に水は好きです。
ただし、扁平さを維持するには強い光線と乾き気味の栽培が必要。
特筆すべきは粉末のように微細な種子で、それゆえ昔は実生が不可能みたいに言われており、私も長年にわたり
種が出来ても放置していました。ようやっと実生にチャレンジしたのが数年前のことです。
ピートモスと微粒赤玉(芝目土)の混合用土に播種し、水を切らさないように数年間辛抱します。
写真の実生苗はまだ4-5mm程度しかありませんが、実生3年目の今年ようやく植え替えサイズに達しました。



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こちらはその同じ実生苗をキリンウチワに接いでみたもの。上手な人は播種数ヶ月の1-2mmの苗を接ぐそうですが、
私の技量では3年経ってようやくです。でも、それから数ヶ月で開花しました。これはこれでかわいらしい。
菊水と良く似た環境に生える花籠(Aztekium ritteri)や南米の松露玉(Blossfeldia liliputana)なども
同様な微細種子ですが、いずれも自生地の崖面にうまいことくっつくのに適しているのでしょう。
細かい土に蒔き、しばらく辛抱、それから実生接ぎ、というやり方なら誰でも種からの栽培が楽しめそうです。



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                  S.disciformis ssp. esperanza × Turbinicarpus alonsoi


長らく一属一種だった菊水ですが、最近になって赤花菊水(S.disciformis ssp. esperanza)が記載されました。
これは大きくなりにくい性質があるようですが、姿は菊水そのもので、濃いピンク色の花を咲かせます。
同じ場所にツルビニカクタスのアロンソイ(Turbinicarpus alonsoi)が生えており、よく似た花です。
ちなみにこの2種は容易に交雑可能で、その種子からは見かけ上ほぼ赤花菊水に見える株が育ちます。
上の写真がその交配種で、さる名人からの頂き物。肌に微妙なシワが入るところ以外、目立った違いはありません。
ほかにも、最近の自生地探訪者が、刺の長いタイプや小型のタイプなど、産地ごとに色々な名前をつけて
流通させていますが、赤花菊水ほど顕著な違いがあるわけではなさそうです。
ともあれ、我が家の菊水は、ある意味かわりばえしない、いちばん古典的なタイプだと思います。



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30年前といえば、ずいぶんな昔。いったい自分は日々何を考え、どんな目つきで世間を見回して暮らしていたのか。
あの頃、一緒にいた人や眺めていた風景は、遠い彼方へと過ぎ去って朧ろな記憶の片らが残るばかりです。
変わらない姿のこの菊水には、たぶん全然違うペースで時が流れていたんでしょう。この先さらに30年が過ぎても、
やっぱり大きくもならず、立派にもならず、春がくれば地味な花をほっこり咲かせるだけなのかな。




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