誰が天狼を殺したか?(前篇)

今回は難物サボテン界の王者、天狼(Sclerocactus sileri ex.Pediocactus)をめぐるミステリー。
天を翔ける狼たちの群れを襲った知られざる悲劇・・・。前・後篇に分けて書いてみようと思います。

天狼は、むかしはユタヒア(Utahia)属のただ一種のサボテンとされていました。
Britton & Roseが1922年に大著「Cactaceae」に記載した当時は、この種がアメリカ合衆国ユタ州に
特産するということで、その名がつけられたのです。ところが当時ユタ州内とされていた自生地は、
正確には南に境界を接するアリゾナ州の側にあることが後に判明します。
この種の主な分布域はアリゾナ州ココニノ郡(Coconino county)からモハベ郡(Mohave county)に
かけての一帯で、ネイティブアメリカンの居留地を中心にいくつものコロニーがあります。



02S-washington09S.jpg
                 Sclerocactus sileri (=Pediocactus sileri) in habitat, Washington Co.UT.



ところが、ここ数十年の間に、ユタ州側からも天狼のコロニーが見つかりました。ひとつは私のホームページでも
紹介しているユタ州・セント・ジョージ(St.George)近郊にあるコロニーです(上の写真)。
ここはかなり有名な場所で、メサガーデンのSB1872などもこの産地なので、栽培している方も多いと思います。
ところが、同じユタ州でもこことは全く違う隔絶された場所に天狼の別のコロニーがある、という話を、
海外の愛好家から聞いて、訪ねてみることにしたのです。数年前の初夏のことです。



IMG_0646S.jpg
                 on the road to 'the second habitat' in Utah



目指した場所は、セントジョージのコロニーからは100キロ以上離れているカナーブ(Kanab)の近郊です。
この日は、一日新しい天狼のコロニーを探すことに充当するつもりでしたし、まあ、運が良ければ会えるかも・・・
くらいの気持でした。例によって、○号線を××から△マイル東に進んで・・・みたいなアバウト情報だけを頼りに
車を走らせてゆくと、途中からは、ほんとうにその道が正しいのかどうかも定かではない、土埃舞うダートロード。

でも、やがて天狼の生えていそうなロケーションが見えてきました。彼らは、だいたい粘土化した石膏土壌と、
赤いラテライト土壌が、ちょうど2色のアイスクリームを重ねたように入り交じる場所に見つかります。
もちろん、そんな場所を片っ端から歩き回って探しても、数十回に一度見つかれば良い方ですが、
この日は最初の停車場所で、いきなり出会えました。



IMG_0969S.jpg

IMG_0971S.jpg
                  Young plant of S.sileri, look not so healthy



真夏の干上がった休耕田みたいに、ガピガピにひび割れた粘土質のスロープ。初夏とはいえ、気温は35度くらい
ありそうで、ちょっと歩いているだけで汗がにじんできます。探しはじめて30分くらい、最初に見つかったのは、
数センチ程度のまだ小さな苗。といっても、実生からの栽培では、私などこのサイズまで10年くらいかかってしまう。
地面にめり込んで土埃をかぶり、お世辞にも綺麗とは言えないけれど、なんとも言えぬ風格が備わっています。
しかし、過酷な環境に耐えているとは言うものの、あまりに色つやがよろしくないな・・・。



IMG_0973S.jpg
                   obviously dead one, totally dried-up  


次に見つけたのは、それよりちょびっとだけ大きいくらいの、やっぱり若苗。ですが、ん? こちらはどう見ても
枯れています。その近くにあった、同サイズくらいの別の実生苗もまったく生きている気配がない。
こんな若い苗が次々と枯死するのは、なにがしかの問題があったに違いありません。激しい寒波があったとか、
何年も雨が降っていないとか・・・。そうした環境要因なら、抵抗力の乏しい若い苗ばかり倒れるのも納得できます。
うーむ・・・。せっかくなら元気な株を撮影したいとさらに探索すると・・・

お、トゲもいい感じの少し大きめの株を発見!



IMG_0978S.jpg



しかし近づいてよく見ると・・・



IMG_0977S.jpg

IMG_00979S.jpg
                   long-dead specimen,with big hole at the base of plant



カサカサに枯れている・・・。ガッカリしつつ、刺をつまんでちょっと引っ張ると簡単に裏返しになりました。
球体の下部には大きな穴があいています。根っこがとれた痕かな?
この感じだと、最近死んだという感じじゃありません。少なくとも、ひと夏くらいは過ぎている。
せっかくユタのユタヒア、はじめて見るコロニーなのに、元気な天狼がまるで見つからない。
このあとも、あるはあるは・・・。



IMG_1025S.jpg

IMG_0980S.jpg

IMG_0975S.jpg
                   Why it happened? almost all plants in this colony were dead



そう、全部が全部、枯れた個体ばかりです。まさに死屍累々といった状況で、泣けてくる。
去年か一昨年あたりに枯れたと思われる株だけじゃなく、もっと以前に枯死したと思われる株もあります。
バラバラに散らばったトゲだけが痕跡をとどめるものも。
とにかく、この一帯には何十本という天狼が、しかもそれなりの密度で生えている(正確には生えていた)のに、
生きている個体はまるで見つからないのです。

ここは天狼の墓場なのか?

あまりに過酷な乾燥が、コロニーを追いつめ、根絶やしにしたのか?
いくらサボテンであっても、長年まったく雨が降らなければ日干しになってしまいます。
人間活動が引き起こした環境変化が、この地の気候に変化をもたらしたのか・・・。
しかし、ここはアタカマ沙漠ではないし、10cmサイズの大株が枯れてしまうほどの乾燥は考えにくい。
では、致命的な寒波に見舞われたのか?こちらの方が可能性はある。
近在の愛好家から、記録的な寒さでサボテンがやられたという話を、この訪問の前の冬に聞きました。
しかし一時の寒波による被害だとしたら、ずっと以前に枯れた株から、ごく最近枯れた株まで、死亡時期が
バラけているのが腑に落ちません。それに近在のスクレロカクタス彩虹山(Sclerocactus parviflorus)などの
コロニーでは、被害も見あたらず、この春も花が咲き、成長しているのです。



IMG_0968S.jpg



いったい、誇り高き天翔ける狼たちだけが、なぜ?
その謎が解けたのは、ようやく見つけた“まだ生きている”天狼を勇んで撮影している最中のことでした。


(つづく)

テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物、栽培、探究。

最新記事
全記事表示を読む

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
リンク
カレンダー
05 | 2012/06 | 07
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
Excite自動翻訳
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる