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金鯱の旅。

こんなタイトルをつけると、「おお、ついに見に行ったんですか、メキシコの渓谷まで!」なんて言われそうですが、
もちろんそんなユメが簡単に叶う筈もなく、この場合、旅をしたのは私ではなくて植物のほう。


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                Echinocactus grusonii cv. 'short spine'


金鯱(Echinocactus grusonii=上写真はcv.「王金鯱」)。
世界じゅうでもっとも親しまれ、広く栽培されている普及種ナンバーワン。まさにサボテンのなかのサボテンです。
黄金色に輝く巨大な球体は王者の風格。なんて、どの本にもそう書いてあります。
ですが、マニアの間では「駄もの」扱いされ、種から育てる人は必ずしも多くない。確かに住宅事情への配慮を欠いてるしね。
ところが、これから紹介する金鯱にはちょっとした物語があります。まあ基本は同じなんだけど、ちょっと違う。


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               Echinocactus grusonii with flower (at botanical garden)


栽培植物は幾千幾万と育てられている金鯱ですが、実は故郷のメキシコで絶滅の危機に瀕しています。
19世紀に発見されて以降長い間、金鯱の自生地はメキシコ・ケレタロ州シマパン(Zimapan,Queretaro)の
とある谷あいの岩山だけが知られていましたが、ここはこの数十年のダム開発で大半が水没し、
あらかた消滅してしまったのです。上の写真はダムに沈む寸前の原産地で撮ったモノ・・・ではなくて、
関東近県の植物園で写しました(スミマセン、うちに花の咲く巨大株を置くような場所がないもので^^;)。
で、この偉大なサボテン界の巨人は、もはや水没しなかった断崖の上部に数本が残るだけと言います。

ところが、21世紀を迎えて、元々の自生地の谷から500キロほども離れたサカテカス州南西部のやはり
切り立った渓谷で、新しい自生地が見つかったのです。これは新種の発見にも勝る、エポックな出来事。
これほど有名で、これほど巨大かつ目立つ植物のコロニーが、今頃になって新しく見つかったというんですから!
前置きが長くなりました。では、ご覧戴きましょう。


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               Echinocactus grusonii VZD1153 New Form from Zacatecas

じゃん! ・・・あまりに小さいですね。
蒔いて1年半、。球径はまだ1.5cmほどしかありませんが、これが金鯱であることは取りあえずひとめでわかる。
新しい産地のブランドニュー金鯱であるかどうかは、いくら眺めてもあんまりよくはわからない。
でもこの小さな金鯱はサカテカス州の新産地(San Juan Capistrano)で見つかった金鯱の直系子孫なのです。
実生を極める某名人がチェコから入手した、おそらく産地採取の貴重な種をわけて戴いて、それを蒔いたもの。
Echinocactus grusonii、Zacatecas、で検索すると写真(参考① 参考②)も出てきますが、こちらの産地では
ダム建設の心配もなさそうで、多くの巨大株が小灌木が覆うややshadyな断崖に取りすがるように生えています。
この新発見の金鯱、堂々たる巨躯は旧来産地の植物と変わりませんが、刺は細く長く、球体に沿うようにカーヴし
その数はやや少ない。より優美な印象なんだとか。


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なるほど、そう思って眺めていると、きもち長く鋭く刺先を尖らせているようにも見えてくる。いとおしい。
遙かサカテカスの岩山で、今世紀まで人知れず過ごし、小さな種として運ばれた若苗が、いま私の手元にある不思議。

物語はまだ続く。実はさらに数奇な旅を経て私のもとへ辿り着いた金鯱があるのです。



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                Echinocactus grusonii grown from seed of old 'Zimapan'plants


ギッチリひしめくように金刺をきらめかせるのは、旧来産地の金鯱。そう、あのダムに沈んでしまった渓谷のもの。
刺はより黄金色で、かつ豪壮な印象を受けます。まあ世界じゅうで栽培されているスタンダードなサボテンです。
新産地のものでもない、あたりまえの金鯱をこんなに蒔いているのはなぜかって?

実は古来の金鯱産地、シマパンの谷がダムに沈むとき、捨て置けないほど立派な大株たちはクレーンで吊りあげられ、
メキシコ・グアナファト州のサボテン保全施設(El Charco del Ingenio)に移植されたのです。この“生き残り”の
金鯱たちが「第二の故郷」に暮らす姿は、有名なサボテン本「The cactus family (Edward F.Anderson)」の
表紙になっているので、見たことがある人がおられるかも知れません。
上写真の実生金鯱群は、ここを訪ねた私の某友人が貰いうけてきた、サバイバーの金鯱の子孫、元野生株同士で
結実した種からの実生苗なのです。いまや本来の自生地を失い「第二の故郷」で暮らすとはいえ、純然たる
野生金鯱を親に持つ第2世代ということになります。
旅に旅を重ねて、わが温室に・・・。考えようによってはサカテカスの新産地金鯱より、稀少かも知れません。
このオールドタイマー金鯱の苗は、写真にうつってるくらいの数があるので、万一欲しい~という方がいたら、
幾人かの方には差し上げられるかと思います。さらに旅してもらうのも良いかと・・・^^。


テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

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