FC2ブログ

黒虹山・シュレセリーが消えた丘。

黒虹山、好きな呼び名です。こっこうざん、という響きも心地よいし、黒白のリボンが絡みあうような刺姿にも
あっています。白虹山(白紅山)と並ぶ美刺スクレロの双璧。
でも、それだけではなく、私にとっては「難物サボテン道」への導き手のような存在でもあります。


98E5S.jpg
          Sclerocactus spinosior ssp.schleseri (blainei) Lincorn.Co. NV


スクレロカクタスをはじめとする北米難物に、私が惹かれるようになったのは、子どもの頃ころ読みふけった
サボテン本に「最美にして栽培至難、幻の植物」などと記されているのを読んで、憧れを募らせていったことが
そもそもでした。

そしてその後、おとなになって実際にこれらの植物の栽培にのめりこむきっかけが、この黒虹山シュレセリ。
私の栽培場で、種蒔きからはじめて初めて開花したスクレロカクタスだったのです。
シュレセリはこの属のなかでは発芽率もましな方で(おそらく開花しやすい為、種が新しい)正木で順調に育ち、
直径3cmくらいから咲き始めます。そのうえ、難物貴品の名をはずかしめない何とも言えぬ美しさがある。
そうか、難物サボテンといっても、ちゃんと育って花も咲くんだ・・・そう思って、以降ほかの種類も含めた栽培に
本格的に取り組むようになりました。

栽培可能なスクレロカクタス…それが黒虹山シュレセリでした。


cacsuc060326021S.jpg
            Sclerocactus spinosior ssp.schleseri SB1015 grown from seed
IMG_1938S.jpg
               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri SB1015 3-4years from seed


スクレロカクタス・シュレセリ(Sclerocactus spinosior ssp.schleseri=blainei)は、
アメリカ・ネヴァダ州のたった2つの町の周辺だけで自生が確認されています。
基本種の黒虹山(S.spinosior ssp.spinosior)はユタ西部の広い範囲に分布していて、シュレセリは
州を越えてその西端に位置しています。基本種との違いは、小さいこと、刺が長く絡み合うことや幼苗の独特な姿など。
そして、これは学術的な差異ではありませんが、もっとも大きな違いは、割と栽培しやすいという点。

私が、シュレセリの自生地をネヴァダ州に訪ねたのは1998年と、翌99年のこと。
自生地が近くにあるふたつの町は、南北に70マイルくらい離れていますが、その間では今のところシュレセリは
見つかっていません。それぞれの町の周辺数マイルの範囲に小さなコロニーが散らばっているだけです。
ある調査では、全ての自生地における確認個体数がわずかに211本!という稀少種ですが、実際はダート道さえない
未踏の荒野が拡がっているエリアなので、人知れず存在するコロニーもあるものと思われます。


98CaGo3S.jpg

98Caorg1S.jpg
               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri at type locality Lincorn.Co. NV


上の写真は、98年にネヴァダ州リンカン郡(Lincorn Co.)にある、シュレセリのタイプ産地で写したもの。
ついこないだのような気がするけど、すでに十数年むかしのことで、写真の色褪せがそれを物語ってますね^^;。
メサガーデンから「SB1015」としてデリバリーされているのがこの産地のもので、もしかしたら皆さんの栽培場にある
シュレセリと遠からぬ親戚である可能性も大です。

1枚目は、この種としてはまずまず大きい部類の株で、売り物のリボン状の刺がそろそろ目立ち始めてきたところ。
2枚目は、幼苗時の独特の姿で、これもこの種の魅力のひとつ。微毛の密生した白刺がちょうどペディオカクタスの
斑鳩(Pediocactus peeblesianus ssp. fickeisenii)を思わせます。しかもこのサイズから開花する訳です。
このコロニーで見つかる個体は、常に数本で、この時点で大きい株は既に見あたりませんでした。

同じ年、タイプ産地から数マイル離れた場所で新しいコロニーも見つけました。


98Ep3S.jpg
               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri  Lincorn.Co. NV


これはおそらくメサガーデンから「RP136」としてデリバリーされているものと同じか、極く近い場所のものと
思われます。こちらでも最大のサイズでこのくらい。売り物の黒白のリボン刺が乱舞するには至っていません。
でも、小さいながら完成度の高い姿で、「想定外」の場所で見つけたときは心臓が高鳴りました。
この場所では実生苗も何本も見つけましたが、果たしていま、元気にしているかどうか。

つづいては、より北側のナイ郡(Nye Co.)にあるコロニー。


99c02S.jpg
               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri  Nye Co. NV


ここも世界のマニアックな刺仙人の間では有名な場所。メサでは「SB1540」の方です。
この写真を写したのは1999年ですが、石の多い、小高い丘を30分くらい歩き回って、ぜんぶで7、8個体を
見つけたでしょうか。

しかし、この産地は、丘のうえのシュレセリーたちは、おそらくその後消滅しました。
2001年に再び訪ねたとき、前に見たのと同じ場所を見て回っても、ただの一本も見つかりませんでした。
さらに数年後も同じでした。加えて、海外の趣味家や研究者で、この丘を訪ねた人も、みな見つからずじまいという
話が伝わってきます。


99c03S.jpg
               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri  Nye Co. NV


この場所は、足場の悪い丘の上で、家畜による食害などは考えにくい。となると、誰かが持ち去ったのではないか、
と暗い気持ちになりますが、一方で、この植物がかそけき命をかろうじて繋いでいる自生状況を見た人が、もしも
サボテン好きならば(好きじゃなきゃ訪ねませんよね)、とても持ち去ろうなんて気持ちにはなれないとも思います。

もうひとつの可能性は、ある種の甲虫による攻撃です。こやつは、天狼や白紅山など、ペディオ・スクレロ
共通の天敵で、開花時などに成長点付近の柔らかい部分に産卵し、幼虫は植物体の中に潜り込み、中が空洞に
なるまで食い尽くして、成虫になって出ていく。
この虫がいったん現れると、そのコロニーはほぼ全滅します。しかし、正確に言うと、虫が標的にしない小さな
実生や種は残されます。一方の虫は、親株の絶滅後は、幼虫の餌がなくなるため減少します。すると、残っていた
種や実生がコロニーを復興する・・・つまり虫の盛衰とサボテンの消長は自然のサイクルというわけです。

消えたシュレセリーも、この虫にやられたのではないか、そしていつかまた復活するのではないか、というのは、
多くの支持がある有力な説ですが、一方でそうであって欲しいという希望的観測でもあります。



cacsuc080330031S.jpg
               Sclerocactus spinosior ssp.schleseri fh104 grown from seed


栽培の話が最後になってしまいました。
すでに何人もの方が、このシュレセリを実生し、開花サイズに育て上げておられると思いますが、
スクレロのなかでは栽培しやすい植物です。比較的成長もよく、天狼や白紅山ほど、腐りやすいこじれやすい、
ということもありません。また、小さいうちから花が咲くというのは、ゴールが近いという意味でも、
難物サボテンの入門にはぴったりです。なので、種が手に入るうちに、ぜひ実生から育ててみてもらいたい植物です。

栽培下では、スクレロのファン層を拡げて、個体数も増加傾向にあるシュレセリですが、野生株は減少する一方の
ようです。実は、ナイ郡の産地のみならず、冒頭紹介したリンカン郡のタイプ産地でも、シュレセリが
見つからなくなったという話があります。理由はともあれ、いまこの種を野生下で見るのは、とても困難な状況に
なっていることは間違いありません。


CACTI2010-04-_0282S.jpg


そんな訳で、私たちの栽培場にある個体は、なんらかの理由で生存に不適になった自生地から、からくも避難してきた
高貴なるシュレセリ王朝の末裔たちとも言えそうです(大げさに言えば、貴重な遺伝子資源^^;)。
いつか再び、たくさんのシュレセリが黒白の刺を乱舞させて荒野を彩る日が来ることを願いつつ、小さな鉢植えのひと株に
限りないリスペクトをこめて・・・。



テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。
著書「珍奇植物 ビザールプランツと生きる(日本文芸社)」

最新記事
全記事表示を読む

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
Google自動翻訳
自動WEBサイト翻訳(多言語)
最新コメント
最新トラックバック
リンク
カレンダー
04 | 2011/05 | 06
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる