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新しい菊水の話。

 
 菱形の疣を螺旋形に積み重ね、ゆっくりじっくり、扁平に育ってゆく。ストロンボカクタス・菊水(Strombocactus disciformis)は、いまもっとも人気のあるカクタスのひとつですね。昔から名品として、マニアからは高く評価されていましたが、どちらかと言えば、バイプレイヤー的な存在でした。最近では、同じく名脇役だった晃山(Leuchtenbergia principis…光山)と並んで、真ん中でスポットライトを浴びるようになっています。今回はこの菊水の兄弟姉妹種、最近登場した新顔のストロンボカクタスを紹介します。




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   Strombocactus disciformis over 30 years in culture
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   Strombocactus disciformis 7-8 years from seed



 菊水の幾何学的な造形と石のように硬い質感には、他のカクタスにない渋い味わいがあります。私はいまほど人気がない時代も、ホコリみたいな小さな種子を苦心して実生してきました。写真(上)の株は、私が数十年維持している昭和時代の輸入株で、いまも扁平な姿です。これともう1本のさらに古い山木との間で種をとり、沢山の株を実生育成しました(写真下)。いずれも花はほとんど白に近いベージュで、沢山蒔いても個体による花色の違いはほとんどありません。このように、菊水は花色だけでなく、顔違いもあまりないというのが長年の印象でした。実際、ストロンボカクタス属はずっと一属一種のグループだったのです。




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   Strombocactus corregidorae with a more yellowish flower and longer spines



 ところが、最近になって、いくつか新しい種が記載されました。そのひとつが、長刺菊水(Strombocactus corregidorae)です。2010年にはじめて記載されたもので、菊水と同じメキシコ・ケレタロ州のマコニ(Maconi)周辺が産地。最大では高さ25cmにも達するとのことで、海外のメディアに記載された写真を最初に見たときは、丈が高いだけでなく、刺も髭のように黒くモシャモシャとしていて、まさに別種と言えるほど雰囲気の違いを感じました。ようやく手に入れた産地採取との触れ込みの種子は、半信半疑で蒔いたものですが、ノーマル菊水とは明らかに異なる雰囲気が出てきました。7年目の今年、はじめて開花。レモンイエローで、花弁の先が尖り、旧来菊水とはかなり違います。まだ子苗若苗ですが、刺も長くて、ちょっとツルビニカルプスのような雰囲気です。旧来の菊水にも刺はありますが、ほどなく脱落してしまうので球体の真ん中から下には刺がないのがふつうです。しかしこのコレギドラエは刺が脱落しないらしく、野生株の写真を見ても下の方までガサガサした刺に覆われています。菊水の端正な美しさとは異なりますが、これはこれでワイルドで魅力的。あと5~10年育てれば、雰囲気のある標本に仕上がりそうです。




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   Strombocactus disciformis ssp.esperanzae 



 もうひとつ、変わり菊水といえば、赤花菊水(Strombocactus disciformis ssp.esperanzae)があります。こちらはグアナファト州(Guanajuato)が産地で、ちょっと雰囲気が似ているツルビニ・アロンソイ(Turbinicarpus alonsoi)と同じ場所に生えています。明確な違いは濃ピンクの花が咲くだけでなく、全体にとても小ぶりで疣も小さい。写真の株は二十年ほど育てていますが、径4cmくらいから先は大きくなりません。でも、疣を重ねると小さいなりに風格が出て古木の味わいです。




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 菊水は、同じメキシコ原産の花籠(Aztekium ritteri)、南米産の松露玉(Blossfeldia liliputana)と並んで、微細な種子をつけます。まさに吹けば飛ぶような種子なので、実生には少しだけテクニックが必要。ふつうの土に蒔いて水をかけると、全部流れてしまいますし、発芽しても最初は目に見えないくらい小さいので、やはり水をかけると流れてしまいます。一方で、極小なので水を切ることができず、いつも濡らしておくのですが、こんどはコケが生えて、やがてコケに飲み込まれて消えてしまう。そんなわけで昔は蒔くひとはあまりいませんでした。私のやり方は、タッパーに微粒赤玉とピートモス粉末を混ぜたものを仕込んで、レンジで煮沸します。これでカビやコケが出なくなります。用土を十分湿らせたら、播種してタッパーの蓋を閉じ、そのまま温室の明るめの棚下に放置。蓋も開けません。2年くらい経つと、マッチの頭くらいに育つので、そこではじめてほかのサボテン同様に植え替えます。そんなやり方で、菊水の実生も楽しんでいます。














テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

「象牙牡丹」のルーツを探る。


 「象牙牡丹」。 たぶんこのネーミングが、良かれ悪しかれこの植物の運命を決めてしまったのではないでしょうか。
 
 それまでの牡丹類(アリオカルプス)にない、大柄で豊かなボディと、毛羽立って目立つアレオーレ。登場したのは、前世紀末のバブル勃興期、まだメキシコからサボテンの山木が結構入っていた時代です。この象牙牡丹は、ある一時期は間違いなくナンバーワンの人気種で、私にとっても憧れのカクタスでした。今回は、ネット検索してもほとんど情報がないこの伝説のアリオカルプスについて書いておこうと思います。いったい彼らはどこからやってきたのか?

 


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   Ariocarpus retusus 'Zoge'  a form of furfuraceus with larger areole

 

 最近はそう呼ぶ人も減りましたが、かつてアリオカルプスの各種は「牡丹(牡丹類)」と呼ばれることが多かった。ロゼット様に展開する疣(葉ではない)を上から見たときに、牡丹の花のようだからです。またその頃は、黒牡丹(A.kotschoubeyanus)、亀甲牡丹(A.fissuratus)などは別属のロゼオカクタス(Roseocactus)として扱われていました。そして、いわゆるアリオ系の牡丹は、分類学的にはretususとtrigonus(三角牡丹)、scapharostrus(竜角牡丹)の3種しかありません。「岩牡丹」「玉牡丹」「花牡丹」…などはみな、retususに含まれることになり、単にみかけ上の違いで園芸的な愛称がついているだけなのです。この象牙牡丹も、当然retususの1タイプということになります。ちなみに「シャボテン誌」の主宰者で、カクタス界の巨人、平尾博さんは、この型を象牙とは呼ばず、「玉牡丹」としてリストアップしていました。園芸的にどんどん新しい名前をつけて購買欲を煽ることに違和感があったのかも知れません。ただ、私個人は「象牙牡丹」という名前にやられてしまった方です。




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 産地による顔違いが色々あるretususは、コレクションが楽しいのでいつの時代も人気種です。「玉牡丹は葉幅が3センチ以上に限り、それ以下は岩牡丹」とか、「花牡丹の疣先はつまんだようになってないといけない」など、当時のマニアは好き勝手なことを言って楽しんでいました。当時までの最人気種は玉牡丹(と呼ばれるタイプ)で、葉幅が広く、大きいものほど珍重されました。そんな中、ある時にドカっと輸入されて来たのが、この「象牙牡丹」だったのです。
 まずもって、見た目がワンサイズ大きかった。水気の抜けた荒木でも1尺近い株が入ってきて、そんな牡丹はそれまであまりありませんでした。そして、疣幅3、4cmを争っていた時代に、平均が5cmくらいと疣も特大。ちょっとミルキーな肌色と、象牙色の大きいアレオーレもインパクトがありました。そんな訳であっという間に人気が出て、通販リストに載るレベルの株でも5万円10万円があたりまえ。一級のマニアたちが入荷したての箱から買うような場面では三桁万円の株もあったと言います。当時の私は子どもだったので、当然みてるだけ。
 ところがその後、疣がより短く丸く、青みのある肌にパウダーが模様をつくる「青磁牡丹」というタイプが入ってきて、そちらに注目が移ります。「象牙」の方は、輸入量が多かったのと、後にバブルの崩壊局面がやってきたこともあり、数年後には一気に価格も暴落。そうなると人気もあっというまに冷めて、入荷しても投げ売り状態になりました。私はその頃になってようやく1本だけ、手に入れることができました。まもなく、山木の輸入もストップし、業者のリストや栽培家のハウスでも、ほとんど見かけなくなりました。マニアというのは不思議なもので、値段が安くなったと思うと、棚に飾った植物への愛情も薄くなるようで、象牙象牙と言っていた人も、すっかり興味をなくしてしまいます。また、当時はマニアも輸入業者も、産地データなどはほとんど意識していなかったし(たぶん企業秘密的な意味合いもあったでしょう)、「象牙牡丹」は広大なメキシコのどこから来たのかさえ分からないまま、世紀末の仙界から消えてしまったのです。




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   old dried specimen (ex: habitat plans) of Ariocarpus rerusus 'Zoge'  



 私が当時買った株は枯れてしまいましたが、ハーバリウム的に保存しています。それが上の写真。水気がないので疣は痩せていますが、印象的な巨大なアレオーレは当時のままです。実はこの株(山木)の入手時、綿毛のなかに数粒の種子があって、それを継代繁殖して、「象牙牡丹」の系統を保存しています。上に紹介した花つきの株もそのうちのひとつで、特徴がよく出ているものです。象牙牡丹はアリオカルプスのなかでは成長が早く、大きくなると上に伸びて、型崩れしやすい。それも人気が急落した原因かも知れません。なので上の20㎝くらいの株が見頃の感じです。




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   Ariocarpus rertusus 'zokaku' LH453 ,Las Tablas, SLP



 一方で、このきわめて特徴的なretususが、どこから来たのか、産地をつきとめたいという思いが募り、様々な産地の種子を輸入して蒔いてきました。先輩たちに、象牙の産地はどこか?聞いて回りましたが、あまり知っている人はいない。なかで、ある名人からサンルイスポトシのラス・タブラス(Las Tablas, San Luis Potosi)ではないか、とアドバイスをもらって蒔いたのが上の株です(LH453,Las Tablas)。しかし、アレオーレが大きいのは同じだけれど、疣の直線的な雰囲気が明らかに異なります。これはたぶん、当時「象牙牡丹」と一緒に入ってきて「象角牡丹」と呼ばれていたタイプです。これはこれで、さらにマイナーな面白い牡丹なので、目当てとは違ったけれど嬉しかった。顔がハッキリしてきたときは、旧友と再会したような気持ちになりました。




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   Ariocarpus retusus SB310 Cuesta la Muralla, Coahuila , origin of 'Zoge'?



 いまのところ、私が実生したなかで、いちばん象牙牡丹に近い顔をしているのは、上の写真、コアウィラ州産の個体(SB310,Cuesta la Muralla,Coahuila)です。メサのナンバーですが、疣の形やアレオーレのサイズはかなり近い。肌色も同じです。ただ、アレオーレが小さい旧来の花牡丹にもちょっと似ていて(疣先がちょっとつまんだみたいな形状)、これが象牙だ!と断定するのは早計な気もしています。もっと、この周辺の産地を色々蒔いてみないとわからない。というか、自生地を歩き回るのが一番ですが。




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 こちらは四代目かな、そのくらいになる輸入象牙の子孫たちです。昔好きだったものは、結局いつまでたっても好きなんですよね。こんなふうに、かつての名品たちの故郷を探しあてるため、いろいろなフィールドナンバーの種子を蒔くのは実に面白いです。牡丹類でいえば、同じく青磁牡丹の産地もまだ確認できていません。雅牡丹、なんて呼ばれるタイプも輸入されていました。これなどはもともと人気もなかったから、国内では絶えてしまったこも知れません。牡丹以外では、太平丸系なども、こうした産地探しの種子蒔きが興味深いカクタスです。
 さて、永遠の名品、「象牙牡丹」。当時の輸入業者さんが、情報を残しておられたら、ぜひヒントを戴きたいところです。
 

 















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精巧丸、B。

       
    
夏休みなので、今回は自動投稿です。。
沙漠旅ではありませんが、いろいろ植物を見る旅でもあるので、
帰国して落ち着いたら、このブログでも報告したいと思っています。
今頃は、あー明日から仕事か―とか、にしても強行軍だったなー、
とかぶつくさ言いながら、帰国の途についているところ。
以下は、お手軽ポストで、すみません。

さて、以前「一点モノ」としてこの植物についての記事を書きましたが、
実はもう一株、同じころに入手した株がありました。それがこの株。




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       Pelecyphora aselliformis  old imported plant growing 25yrs in my greenhouse



精巧丸(Pelecyphora aselliformis)。
前にブログに投稿した株より頭数が少なく、差し渡しの径も小ぶりです。
二十年あまり育てていますが、大きさはほとんど変わらない。
でも、とにかく丈夫です。アカダニがつきやすいのは確かですが、
私の栽培場(ハウス)は多湿なせいか、ダニの姿をあまりみかけない。
水は春~秋はたっぷりやって、ほぼ無遮光の環境で育てています。




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花も綺麗。もう1株と比べると、こちらは花つきよく、花数も多い方です。
でも、不思議なのは、精巧丸AとBとの間で何度も授粉を試みているのに、
結実を確認し、採種できたことがいちどもありません。
たまに、株元に実生苗を発見するので、多少は種が出来てこぼれたりは
しているようだけれど。どちらも山木でクローンは異なるのだけど、
よっぽど相性が悪いのか。




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いわゆるトゲトゲのサボテンにはない風格がある植物なので、素敵な鉢に
植えたら見栄えすると思います。昨今のコピアポアや晃山、菊水の人気に
追随してブレークしそうですが、いかんせんタマ数が少ないですね。
実生からだと十年とか二十年育てないと、標本株には仕上がらないし、
ワシントン1種なので輸入は基本、違法です。でも、見かけによらず、
かなり丈夫なカクタスなので、機会があったらぜひお手元に。








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プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

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