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続続・太平丸の顔


 太平丸(Echinocactus horizonthalonius)は、端正な姿と、バラエティに富んだ刺の表情で、多くのファンを獲得してきました。サボテン科のなかでももっとも環境適応がうまくいった例と考えられ、アメリカ南部からメキシコ南部までの広大な範囲に分布しています。分類学的には「太平丸」一種と考えられていますが、自生範囲が広い分だけタイプの差も幅広く、刺の色やカーブの具合の違いから「太平丸」、「小平丸」、「翠平丸」、「尖紅丸」、「花王丸」、「雷帝」、「ニコリー」など、色々な愛称で呼ばれています。いずれもかつて原産地から導入された際につけられたものです。その後、それぞれが園芸改良され卓抜な優良個体が数多く作出されていますが、残念なことに正確な産地データが残っておらず、「雷帝」や「花王丸」などがどこから来たものなのか、今となってはわかりません。そのため、名前の根拠というか、純系を求めることは困難になっています。




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   Echinocactus horizonthalonius from various localities. all grown from seeds
 
 

 そんなこともあって10年ほど前から、産地データがしっかりついた種子を導入して実生してきましたが、これがなかなか面白い。徐々に大きくなって特徴が表れてくると、かつての「花王丸」はこの産地だったのか?、とか、これが「小平丸」かも・・・などとかつて育てた輸入の太平丸たちの面影と重なるのです。以下に紹介する株はいずれも実生7-12年程度の太平丸で、接ぎ木をしていないこともあってまだ開花にも至っていない若苗が大半です。以下、7つの産地の太平丸を紹介しますが(クリックで地図を表示)、アメリカ国境付近から南部グアナファト州まで、太平丸が実に広い範囲に分布していることがよくわかります。アメリカ・テキサスの太平とメキシコ・グアナファト州の太平はかなり違うを顔をしていますが、コロニーは連続的に分布していると考えられ、栽培下で両者は問題なく交配結実します。それゆえ同種と考えるのが妥当ですが、園芸的には産地ごとの遺伝的差異を大切に世代交代していくのもありではないでしょうか。では北よりの産地から順に、フィールドナンバーごとに紹介していきます。




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   【VZD703】 El Diamante ,Chihuahua



 トップバッター、【VZD703】の産地は、チワワ州(Chihuahua)の El Diamante です。大きく湾曲した長めの刺、太平丸らしい太平丸、典型的なタイプと言えそうです。アメリカ南部の太平にも通じる顔つきで、大柄に育つ感じが今から出ています。ゆったりおおらかに育てていきたいなと。




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   【VZD1032】 La Trinidad, Durango



 つづいては少し南下ってドゥランゴ州(Durango)。この州の太平丸は刺が魅力的なものが多く、人気があります。ただ、よくドゥランゴ太平などと言いますが、同じ州内でも産地によって実に色々なタイプがあります。この【VZD1032】は、La Trinidad が産地。ごらんのように黒くエッジの効いた刺が鶯色の肌に生える美しい太平です。かつて黒刺太平丸として入ったタイプにあったような顔ですね。




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   【VZD691】 El Carrizo, Durango



 そして、【VZD691】は、El Carrizo 。ここは欧州の太平ファンには有名な産地のようで、色々な人のフィールドナンバーが出回っています。そしてこのタイプは、日本のカクタスファンにとっても印象深いのではないでしょうか。そう、「花王丸」の顔なのです。濃紅色の太刺が球体を覆うようにカーブする屈指の名品。自生地の写真など見ても、この産地はかつての花王そのものに見えますが、如何でしょうか。




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   【KMR391】 'minimus' Ejido Buen Dia, Durango



 もうひとつドゥランゴ州から、【KMR391】は、Ejido Buen Dia が故郷。種子には'minimus'と付記されていました。その名のとおり「小平丸」の顔をしてますね。焦げたような短い黒刺。平たい稜と扁平な球体。かつて小平丸と呼ばれて入ってきたものには色々な顔(産地)がありましたが、そのうちのひとつ、尖紅丸と呼ばれた型などはこのあたりだったのはないでしょうか。




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   【VCA148】 Buena Vista, Coahuila



 続いては少し東へ飛んで、コアウィラ州(Coahuila)の太平丸。【VCA148】はSaltilloにほど近い Buena Vista が産地。刺幅が広く、黒く、あまり湾曲せず、なかなか強面の太平です。かつて人気があった黒広刺の太平丸「雷帝」もコアウィラ南部から入ったと言われていますが、その面影に通じるものを感じさせるタイプ。大きくなるのがかなり楽しみです。




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   【VZD1066】 Pozos, Guanajuato



 ぐっと南に飛んで、グアナファト州(Guanajuato)の太平丸です。【VZD1066】はPozosが産地。メキシコシティにも近づいてきて、太平丸の産地としては最も南寄りになります。このタイプは刺が比較的短く、ツンとして湾曲していないのが特徴です。




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   【VZD1067】 El Vergel, Guanajuato



 もうひとつ【VZD1067】も同じグアナファト州のEl Vergelが産地。番号も近接していて、タイプもよく似ています。先のVZD1066でも感じたのですが、この真っすぐで短めの刺の感じは「翠平丸」と呼ばれたタイプを思い起こさせます。これも大きくなったらどんな姿になるのか、期待大です。




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 ずっと以前、太平丸の顔(続)としてこのブログにとりあげたのが10年ほど前。このときは1~2年生のごく子苗でした。私のところは育つ速度が遅いので10年育ててもこの程度ですが、それなりに太平らしい風格が出てきました。さらに10年後は、山木に負けない株に育ってほしいと思います。
















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神竜玉(Echinocactus parryi)


 神竜玉(Echinocactus parryi)。数あるカクタスのなかでも、間違いなく名品です。サボテンの中のサボテン、エキノカクタスの6種類しかないうちの1種。でも、王者金鯱や、芸の多様性で人気がある太平丸に綾波、難物の誉れ高い大竜冠の影にかくれて、知らない人は知らない種類かも知れません。栽培は難しくないですが、易しくもない。刺は強いが、太平ほど芸がないし、大竜冠ほどうねらないし、綾波ほど幅広でもない。では何が魅力なのか。




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   Echinocactus parryi  SB59  Samalayuca,Chih 



 目の前に置いて眺めてみるとわかります。これほど端然とした佇まいのカクタスはあまりない。くすんだ肌色の植物体は扁平から球形に育ち、最大で30cmほどになります。稜は高く、概ね13。豪壮な刺は黄~赤褐色で、四方にひろがり鷲の爪のように湾曲します。なんというか、このカクタスにはずっしりとした重量感があるのです。大きさ以上の存在感というか。花も大輪の黄色で花底部が赤く染まる見事なものです。ちょっとアストロフィツムを思わせますね。アストロも、かつてはエキノカクタスでした。




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 写真の株は種を蒔いて20年ほど育てている株で、径14cmくらい。同じとき蒔いた株がもう一本ありますが、どちらも故障なく、毎年春から夏にかけて3つか4つほど新しい刺座を出し、初夏から夏に何度か花も咲かせてくれています。大竜冠に通じる雰囲気があり、自生地の環境も似ていますが、比べるとだいぶ育てやすい。難易度で言うと、太平丸と同じくらいかな。暑さにも寒さにも強いですが、過湿は苦手なようです。春から初夏に数回水をやって、夏は休ませて、秋にまたなんどか水やりをする、というペースで育てています。かつて、ワイルド個体も輸入されていましたが、今でも残っているものがあるんじゃないかと思います。




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 エキノカクタスの各種は、いずれも分布範囲が広く、タイプ差が色々あって蒐集の対象にもなっているのですが、神竜玉は金鯱と並んで自生範囲が狭い稀少種です。自生地はメキシコ・チワワ州のシウダー・フアレス(Ciudad Juárez)に近いサマラユカ(Samalayuca)周辺に限られていて、その範囲は20,000平方キロメートル程度とみられています。自生範囲が狭いために顔違い、タイプ違いはあまり見られません。もちろん、たーくさん種を蒔けば、変わった個体も出てくるかもしれませんが。
 かつて刊行されていた専門誌「シャボテン」に、清水秀男さんが神竜玉の自生地を訪ねる旅を書いておられて、その植物の美しさに憧れて訪ねようと思ったこともあります。テキサスのエルパソ(El Paso)まで行きましたが、当時ファレスの治安が極端に悪くなっていて、越境を断念しました。いつか、自生地であってみたい憧れのカクタスのひとつです。










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去りゆく夏を惜しむ刺花。

     
まだ8月だというのに、ここのところ雨ばかりで、すっかり涼しくなってしまいました。
猛暑はしんどい、と文句を言いながら、夏が急に終わるとやけにさみしい気分になったりして。
去りゆく夏を惜しんで、今回も刺ものの写真を並べてみます。今回は花咲く姿で。




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         Echinocactus parryi SB 59 Samalayuca, Chih




神竜玉(Echinocactus parryi SB 59 Samalayuca, Chih)。
エキノカクタスのなかでは、もっとも分布範囲が狭い稀少種です。大竜冠(E.polycephalus)に
雰囲気が似ているために難物扱いされることもありますが、実際はこの種の栽培は難しくありません。
成長も早くはないですが、太平丸(E.horizonthalonius)より早く、綾波(E.texensis)より遅いという程度。
自生地は大竜冠と似たようなガレガレの岩山で、太陽光線をまともに浴びて育っています。
私のところでも遮光なし、温室内のガラスに近い高温になる場所に置いていますが、日焼けしません。
この株は実生12年くらいだと思いますが、径10cm足らずのときから開花しており、よく咲きます。
兜(astrophytum asterias)を思わせる低紅の黄花ですが、アストロも元来はエキノカクタスでしたね。




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      Ferocactus gracilis ssp. gracilis SB1280 El Rosario, BajaCalifornia
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       Ferocactus chrysacanthus 'rubrispinus' Cedros Island, Baja California




こちらは、先回の続きで赤刺フェロの花です。
上は刈穂玉(Ferocactus gracilis ssp. gracilis SB1280 El Rosario, BajaCalifornia)。
下は赤刺金冠竜(Ferocactus chrysacanthus 'rubrispinus' Cedros Island, Baja California)。
刈穂はもう少し南に分布する神仙玉の舌状の幅広刺と比べられるので損をしているサボテンですが、
刺色の赤さ、透明感のある鮮やかさは、捨てがたい。
後者は、セドロス島を訪ねた某氏から、自生地種の実生から出たものだよ、と頂いた株。数年前から
開花しています。もうひと株あるので同時に咲いたら種が採りたいのですが、片割れはまだ咲かない。
どちらも関東沿岸部の地上温室栽培ゆえに、刺に黒いカビ汚れがついてしまっているのが残念なところ。




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               Ferocactus glaucescens 'inermis'




最後は刺無王冠竜(Ferocactus glaucescens 'inermis')。
園芸的な奇形種ですが、生殖能力は失われておらず、種をとってまくと、同じ刺なしが生えます。
基本種よりも開花旺盛なようで、このくらいの(フェロとしては)小さいサイズから沢山花をつけます。
王冠竜は青肌と黄刺が大変美しいフェロですが、栽培しやすくて駄もの扱いされているようで、
愛好家の栽培場ではあまり見かけなくなりました。
この個体はトゲを失うとともに蜜腺も退化したのか、あまり刺座が汚れないのはありがたい。
金属光沢ある輝黄花は、真夏の陽光に素晴らしく映えます。

それにしても、この夏は残暑もなく終わってしまうのかなぁ。







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プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「シャボテン新図鑑」
「珍奇植物 ハビタットスタイル」
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(以上日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

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