FC2ブログ

刺がある話。

     
 「サボテンの魅力、その核心は刺である」
 多くの先人、もとい仙人が示したこのテーゼに、私も深く同意します。陽光にギラリと光り、ときに鮮烈な色彩を帯び、ときに人の肌をも傷つける刺。その存在が、多くの多肉植物ファン、ビザールプランツ入門者にとって、越えがたい壁になっていることも承知していますが、それでもなお、サボテンの魅力の源泉は刺にあると、重ねて述べておきます。
 毎年この季節、成長をスタートさせたサボテンたちは盛んに刺を伸ばします。その個体が元気で活力に満ちていることの証でもあります。「新刺」と呼ばれるそれらの、瑞々しく美しいこと!大輪の花たちもたじろぐほどの輝きです。




resize5488.jpg
   Sclerocactus polyancistrus SB1773
resize5483.jpg
   Eriosyce ihotzkyana NW of Ovalle
resize5505.jpg
   Ferocactus johnstonianus Isla Angel de la Guarda   



 そもそも、サボテンの刺とはなにか。アガベやアロエ、ユーフォルビアやガガイモなど、他の多くの乾燥地の植物にも刺がありますね。それらの多くは表皮が変形したものだったり、枯れ残った花梗や葉の痕跡など様々ですが、サボテンの刺はすべて葉が変形したものと考えられていて、この刺の存在がサボテン科すべての種にあてはまる特徴にもなっています。また、刺の付け根には刺座(aleore)と呼ばれるフェルトの台座のような器官がありますが、これは丈の極めて短い枝(短枝)です。
 つまり、大半のサボテンは光合成器官としての葉を失い、かわりに水を貯えて肥大した茎で光合成を行うようになりましたが、その茎にはなお短い枝(刺座)と、形を変えた葉(刺)が存在しているわけです。そう思ってサボテンを眺めると、さながら太い幹から枝を伸ばし、そこに多数の葉をつけた樹木のような姿が見えてきませんか。




resize5509_2019050518273449b.jpg
   Astrophytum asterias Gonzales ,Tamaulipas
resize5512.jpg
   Lophophora fricii  
resize551735.jpg
   Mammillaria sanchez-mejoradae



 いや、自分は刺のないサボテンが好きなんだよ、という人も多いかも知れません。たしかに、兜にもランポーにも、刺そのものはない。最近人気の銀冠玉などのロフォフォラにもない。でも、愛好家が大疣だとか多毛だとか言って注目する鑑賞の要は、実は刺座だったりします。刺がない種にも、刺座は存在し、そこにはいわば“幻の刺”が生えているわけです。サボテンの刺は、いかつく暴力的なだけの、退屈なツールではないのです。そこにはむしろ、彼ら彼女らの深い智恵が働いています。
 実際、サボテンの刺の形は多様で、生態的な役割もひとつではありません。威圧的な武装にみえる刺は、食害動物からの防御だけでなく、熾烈な太陽光線からも植物本体を守っています。ときには舞い上がる砂塵や、凍てつく風からも身を守ります。また、かえしやフックなどの引っかかりやすい刺は、動物に付着して運ばれることで分布範囲を拡げる役割も果たしています。毛髪状の刺や織物のように密生した刺は、結露を生じて根際に水を流し込み、乾燥地では貴重な水分を集める機能も兼ねています。そしてロフォフォラの柔肌をむき出しにしてしまう““幻の刺”は、植物本体が含む有毒成分メズカリンの存在を示唆しているのです。




resizeaaa5504.jpg
   Pereskia quisqueya
resize5499.jpg
   Pereskia aculeata cv.Godseffiana



 ところで、皆さんは木の葉サボテンをご存じでしょうか。一見、ふつうの木のように見える、上の写真のようなサボテン、どこかでご覧になったことがあるかも知れません。大半のサボテンとは違い、どちらかといえば湿潤なエリアで、他の多くの植物と一緒に生えている目立たない植物で、サボテン科のなかでもっとも原始的なものと考えられています。しかし、このサボテンにも強烈な刺があります。まさに短枝としての刺座と、変形した葉としての刺を備えた、サボテン科植物の特徴を端的に示す姿です。
 ここで、冒頭の話に戻りましょう。サボテンによく似た刺のある多肉植物たち・・・ユーフォルビアやガガイモ、あるいはアガベとアロエ、これらの多くは、刺を備えることが有利になる環境条件のもとで、結果的によく似た姿を獲得していったもので、総じて見れば収斂進化と呼び得るものでしょう。しかし、ことサボテン科に限っては、そもそもの初めから刺があったのです。熱帯雨林や有刺低木林に生えていた「刺のある木」に過ぎなかったサボテンが、次第に乾燥地へ、より過酷な環境へと適応し、分布範囲を拡げていく過程で、もともと備わっていた刺は様々な形に姿を変えていきました。そしてそれは、新天地で生き抜くために工夫を凝らした武器となりました。そう、サボテンの刺の形には、その種がそこにたどり着くまでのストーリーがこめられているのです。そう思って改めて眺めれば、もう怖くはないし、ちょっとくらい痛くっても大丈夫・・・になったりしませんか?




resize5495.jpg
   Sclerocactus pubispinus SB1746
resize5490.jpg
   Sclerocactus polyancistrus SB1967



 今回はちょっとだけアカデミックな話を、文系頭脳の妄想をトッピングしながら書いてみました。最近、サボテンをはじめ、変わった姿の植物たちを造形的にキャッチして楽しむ人が増えているけれど、植物の姿と形は、人が生み出した工芸品とは出発点が違います。そこに、アーティストの意図はありませんが、かわりにあるのが進化の物語です。その姿を眺めながら、ときには作者である地球が描いてきたストーリーに思いをはせてみるのはどうでしょう。植物と向き合う楽しみが一層深いものになるんじゃないかなと思います。










テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。
著書「珍奇植物 ビザールプランツと生きる(日本文芸社)」

最新記事
全記事表示を読む

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
リンク
カレンダー
10 | 2019/11 | 12
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
Excite自動翻訳
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる