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野生種にこだわったサボテンの本。


 すっかり春です。園芸家にとっては朝から晩まで温室で過ごしたい季節ですが、監修役を引き受けた植物の本の仕事で、原稿書きにゲラチェックと、やることが山積み。温室作業よりパソコンにかじりついている時間が長くなっています。ほとんどのサボ・多肉たちには、この春まだ2回しか水やりをしていません。しかし、主のそんな態度にもかかわらず、植物たちは新刺をあげ、花を咲かせ、春を謳歌しているようです。サボテンや多肉植物の多くは、根が健全ならば一度の灌水でしっかり吸水し、活発に動き出します。




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   Parodia uebelmannianus WG166 Corredor Collares, Rio Grande do Sul, Brazil
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   Echinocereus viridiflorus M282.03 Kansas, USA
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   Echinomastus laui SB525 Salinas,SLP,Mexico



 私が関わっている本とは別に、今月発売されたサボテンの専門書があります。「カクタスハンドブック 原種サボテンを楽しむ(双葉社)」という本で、著者の山本規詔さんとは以前から色々やりとりをさせて戴いていて、今回も本を送っていただきました。プロの園芸家として植物園などの植栽を手掛けたり、球根のネリネ(ダイヤモンドリリー)をはじめ様々な植物の育種も手がけている方です。一方で、子ども時代からの熱心なサボテンマニアとして、あらゆるカテゴリーのサボテンを種子から育成しています。これまで、一緒に種を輸入したり、あるいは戴いたり交換したりといった交流があって、私のところにも山本さん印の貴重な素晴らしい植物がいくつもあります。ちなみに、1枚目の写真のスミレ丸(Parodia uebelmannianus)は、普及品といわれるけど、どうしてもフィールドナンバーのついた産地のわかる苗が欲しいよね、という点で一致して(こんな感性を共有できる人、ほかに知りません)、一緒に種を輸入したものです。その彼が書く本ということで、開く前から期待大でした。




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   new cactus book 'CACTUS HANDBOOK' by Noriaki Yamamoto, my friend.



 その名のとおり原種サボテンの美しい図鑑です。帯には“原産地にこだわった野生サボテン300種”とあって、こうした本は他にないので貴重です。平成以降の日本でサボテン園芸といえば、兜やランポー玉、牡丹類に斑入りギムノと、園芸的に選抜された特定の種を集めるのが主流になりましたが、その網に漏れた様々なサボテンたちが、ここではしっかり紹介されています。実際、私が子どもの頃には、多種多様なサボテンや多肉植物が輸入されていて、愛好家にもとにかく色んな種類を集める、というタイプの人が結構いました。そういう人の栽培場は、おもちゃ箱のように多彩な植物が詰め込まれていて、整然と同じ種類が並ぶ昨今のサボテンハウスとは趣きがまるで異なるパラダイスでした。この本には、そういう目がクラクラするような魅力がたくさん詰まっています。




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 山本さんの許可を頂いて、本の中身を少しだけ紹介しちゃいます。たとえば人気のコピアポア。5ページにわたって14種が写真つきで紹介されています。黒王丸のほかにもこんなに色々魅力的な種があること、皆さんは知っていますか。もうひとつ凄いなと思うのは、掲載されているおそらく全ての株が、このコピアポアを含め種子から育成された標本であること。その大半が山本さんの卓越した栽培技術によるものと推察されます。もちろん、いわゆる人気種だけでなく、あまり知られていない柱サボテン、ウチワサボテンなどにもしっかりページが割かれていて、多くの人にとって“新しい出会い”がたくさん詰まっている本だと思います。


 ちなみに、私がかかわっている方の本、「珍奇植物 ビザールプランツと生きる(日本文芸社)」は、連休明け頃に刊行される見通しです。なんというか、私の雑食性が反映されていて、サボテンや多肉はもちろんですが、それ以外の面白い植物も、何でもかんでも盛り込んだ本になっています。当然、各カテゴリーから取り上げる種数は必ずしも多くないのですが、セレクションはある意味偏っているし、キャプションも超マニアック、みたいな感じになりそうです。こちらもぜひお楽しみに。









 

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トロピカルなサボテンたち (書評「サボテン全書」)

   
いや、暑い。外にいると流れる汗が止まらない。

台風が通り過ぎて、猛暑が戻ってきます。温室作業を午前の2時間ほどで切り上げて、
午後からは、図書館へ涼みに行きました。そこで見つけたのがこの本です。



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「サボテン全書 All about CACTUS」
パワポン・スパナンタナーノン著、飯島 健太郎(監修)、 大塚 美里(訳)。

400ページ写真1000枚以上のずっしり重い大著で、前から気になってたけど、
タイ国の本の翻訳版、なおかつ高価なので、手が伸びなかったもの。
でも、借りて読めるならありがたい、シメシメ、と思って借りてきたのですが・・・

結論から先に言うと、実に素晴らしい本でした。
掲載されている植物と写真のクオリティがとても高い。
全部黒バックで、濃厚な色彩で写しとられたサボテンたちは、いかにも熱帯風。
自生地ルックとか、野の草の味わいとか、いつも私が求めていることとは反対ですが、
どのサボテンも美しく、解説も訳文もしっかりしているし、情報も詰まっています。
国内で以前刊行された「原色サボテン事典」(これも役立つ本だけど)と比べても、
標本のクオリティ、写真の技術が素晴らしい。
中を少し覗いてみましょう。以下はアマゾンの中身拝見のページへのリンクです。


●緋牡丹錦の群像

●兜についての考察


図鑑という名前ですが、サボテン概論みたいな導入になっていて、自生地の写真や
繁殖や病虫害、さらに土づくりなど、栽培法についてもわりとしっかり書いてある。
ただし、常夏の国、タイでの栽培を前提としたもの。
タイの本ということで予想するとおり、兜をはじめてとするアストロフィツム属、
および関連の園芸種についてはたっぷり紙幅を費やして紹介されています。
スーパー兜の登場でおったまげた世代としては、その末裔たちがここまでの多様性を
獲得したのか、と改めて感服。一本も育ててないけど、ちょっと興味が湧いた。
同様に、タイといえばお馴染みのギムノの斑入り、緋牡丹錦の色々、いろいろな、
バリエーションが色彩豊かにページを飾っています。このあたりは予想どおり。


●アリオカルプス、日本人好みの標本株


一方で、アルファベットのAからはじまって、ひととおりサボテン科各属全体を
展望しようという意図もあり、人気がない仲間、などと断りながら、柱サボテンの
各属なども紹介されていたり、リプサリスなど着生サボテンも無視していない。
人気のコピアポアも、黒王丸一点買いじゃなくて、マイナーなものも網羅している。
特に最珍品のデコルティカンス(C.decorticans)が載っていたのはビックリ。
アズテキウムのページに、立派な株の写真を載せつつも、「盗掘株の子孫」と
記されているあたりも、愛好家の心の軋みを感じさせて味わい深いです。

やっぱり、と思ったのはフェロカクタス(Ferocactus)で、すごくあっさりと
4ページくらいしか記載がありません。本来タイの人が好みそうな派手な姿の
神仙など赤刺系が登場しないのは、熱帯では美しく作るのが難しいからでしょうね。


●渋めの南米サボたちも・・・


私として気になるのは、いわゆる北米高山種といわれる難物サボテンの扱いですが、
こちらもやはりというか、記載は薄め。エキノマスタス(Eechinomastus)は2ページ
割かれていますが、桜丸(E.intertextus)として出ている写真がちょい怪しい。
ペディオ(Pediocactus)は1ページのみで、スクレロ(Sclerocactus)は
扱いがありません。これもタイでの栽培には向かないからでしょう。

でも、月の童子(Toumeya papyracantha)と、雨林サボテンの大珍品、
ストロフォカクタス・ウィッティー(Selenicereus=Strophocactus wittii)が
隣りあったページに載っているのはちょっと感動しました。
結局、アマゾンでポチリとやってしまうことになりそうです。





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新刊書 'Wild Lithops'


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                   new book  'Wild LIthops' by Mr. Harald Jainta 


    
話題の新刊「 Wild Lithops 」(著者 Harald Jainta氏 英文) が手元に届きました。
サボテン・多肉植物に限らず、植物関連のモノグラムとしては久々の大著で、約500ページ、写真は2000枚。
10年以上前に出たコール氏の本をしのぐボリュームです。書籍そのものは1万円少々で内容に鑑みれば
相応と感じますが、なにしろ2キロ以上ある重たい本なので、送料も同じくらいかかった。
よく考えれば、少し時間を要しても船便で送って貰えば良かったかなと。以前、島田保彦さんの著書
「生ける宝石リトープス」を買いそびれたので、ちゃんとしたリト本は是非とも欲しかったのでした。
で、届いた箱を早速開封してみると、手にずっしり。読破するまで何ヶ月かは楽しめるなと思いつつ、
先出しのレビューです。




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                      All pictures in this book were taken in habitat



ぱらっとめくって見てまず気づくのは、掲載された写真のほぼすべてが自生地で写された植物であること。
ちょっと考えればわかりますが、まとまった栽培品のコレクションを、温室でばばばっと撮るのとは訳が違って、
一種一種、それぞれの自生地を訪ねて、広大な南アフリカを旅しながら撮影された写真ですから、
かかっているコストが違います。著者は、十数年を費して16回の自生地旅行を重ね、その成果として
この本を出版したのだそうです。知られているほぼ全てのリトープスが写真つきで紹介されており、
それらはすべて野生下の植物です。また、自生地を訪ねリトープスを探し歩く過程も丁寧に語られていて、
ある種の植物ロードムービー的な面白さもあります。著者が地面に這いつくばり、リトープスと同じ目の高さで
カメラを構えている姿を思い浮かべると、何とも言えない親近感を覚えてしまいます。
リトープスの分類についても、新たな考え方を提示していて、これも今後さまざまな議論を呼び起こすでしょう。




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リトープスの最大の魅力は、複雑で多岐にわたる窓模様の変化ですが、その色彩や紋様が、どのような
自生環境に育まれたのか、種の個性と背景にある物語を、この本は数多くの写真で雄弁に伝えています。
実際、ページをめくると、地形、地質、気候、植生、想像を超える多様な環境に彼らが適応していることに
驚かされる。何枚かの写真では、リトープスがいったいどこに写っているのか、一見してわかりません。
自生地の砂礫に、いかに巧みに擬態しているかということですね。
また、例えば紫薫(Lithops lesliei)の仲間が生えているのは背の高い草も茂る丘陵地です。その地域の
年間降水量は500ミリ以上。写真を見ると、こんなところにリトが生えているのか、と少し驚かされます。
かたや大内玉(L.optica)が分布するのは降雨のほとんどないナミビアの、草木も生えぬ砂の荒野。
この二種の自生地写真を見比べれば、前者の栽培が容易で、後者が難しい理由が一目瞭然です。
そうした意味では、リトープスひとまとめの栽培法解説よりは、よほど得るべき情報が詰まっていると
言えるでしょう。




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                 Lithops helmutii from NE Steinkopf (cultivated ) 
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                  Lithops hallii SH1353A Zwaartst (cultivated )




一方、タイトル通り「野生のリトープス」に拘った本なので、上の写真のような鉢植えの植物は対象外です。
栽培種として人気があるカラフルな色変異リトープスたちも一切登場せず。あくまで大地の色に染められた、
原種オンリーの世界。自生地の環境から栽培特性を推察することは出来ますが、水やりに土作り、飾り方、
といった栽培ガイドは一切ありません。やはりあくまで、「生きる石リトープス」の存在そのものに
興味と愛着を抱く人のための本と考えた方が良さそうです。逆に言えば、育てない人でも楽しむことが出来る。
もうひとつ特筆すべきことは、この大著を物した人物、Harald Jainta氏が、学者でも営利栽培業者でもなく、
南アフリカに住んでいるわけでもない、一愛好家、アマチュア研究者だということです。プロフィールには、
ドイツの製薬関連企業でマネージャーを務めていると書かれていて、1963年生まれですからまだリタイア前の
世代です。企業勤めで働き盛りの年代から、これだけの大旅行を重ねられるのは、欧州の文化的な豊かさが
あってのことだなぁと、若干羨望の気持ちを抱いてしまいます。いずれにせよ、産業的価値のないサボテンや
多肉植物についてこれだけ突っ込んだ探求を形にしていくのは、アマチュアの熱意しかなく、園芸的興味の
発展形として、こういうあり方が日本でも広がるといいな、と思いました。




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ほんとうは、彼のようにナミビアやケープを旅してまわりたいけれど、それもままならぬ身としては、
まずは暖房の効いたリビングのソファーで、生きる石たちの故郷を旅してみることにします。








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プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

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