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再び沙漠の旅に。

 
 明けましておめでとうございます。

 パポソ(Paposo)という町の名は、三十年も前から知っていました。憧れの植物が生えている場所。その風景を幾度も想像しました。グーグルマップには宿の表記もあったのですが、行ってみると寝るところはおろか、食事をするところもない。町から南にはハイウェイがタルタル(Taltal)まで通っているのに、北へ向かう海岸沿いに舗装路はなく、店やガソリンスタンドはおろか、人里もありません。コピアポア・ソラリス(Copiapoa soralis)が生えるエル・コブレ(El Cobre)を経てアントファガスタ(Antofagasta)の町まで200キロ以上。パポソから南のタルタルまでも50キロ以上。つまり南北300キロ近く宿泊施設がないので、このエリアのコピアポアを見るためには野営は必須です。

 


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   Copiapoa haseltoniana 5km North of Paposo



 逆鱗玉(Copiapoa haseltoniana)のコアエリアは、パポソの5キロ北にあるリンカン渓谷(Quebrada El Rincón)周辺にあります。アタカマの海岸沙漠のなかでも特異的に霧と雨が多い地点で、ここより南に行っても、北に行っても、乾燥は厳しい。通常は標高の高いFogZoneに生えるユーフォルビア・ラクティフルア(Euphorbia lactiflua)が海岸ギリギリまでびっしり生えていて、このあたりが水分に恵まれていることがよくわかります。ここで見た逆鱗玉は多頭の群生となり丸々太っているものが多い。長い黄色刺の型から、ほとんど刺のない型まで、いろいろな顔があります。どれも頂部にはコピアポアの健康のシグナルである羊毛(この種の場合は琥珀色)をたっぷりと蓄えています。青々として国内の実生株のような若苗も見られました。

 ここ10年近くは仕事が忙しくてまとまった休みをとることができませんでしたが、それ以前は毎年1回か2回は沙漠を旅していました。アリゾナ、ユタ、ニューメキシコ、コロラド。同じ北米のフォーコーナーばかりを10回は旅してきました。植物観光ではなく、そこの住人たちであるカクタスと同じ肌感覚を共有したかったからです。栽培困難といわれるスクレロカクタス、ペディオカクタスを育てる手だてを知りたいというのもあったけれど、3回目くらいからは、車で見慣れた沙漠に走り出すと故郷に帰ってきたような解放感がありました。春の花どきに、実りの初夏に。灼熱の盛夏に。秋、そして雪の季節にも彼らに会いに行きました。メキシコ、南米、南アフリカ…ほかの色々な場所でも植物を見たかったけれど、フォーコーナーの風景が心身に刻み込まれたかのように、いつも引き寄せられていたのです。
 去年、久しぶりに沙漠の旅に復帰しました。北米ではなく、南米チリの海岸沙漠、アタカマへ。沙漠のただなかへ車を走らせていくだけでもう楽しい。植物を見るのと同じくらい、何もない誰もいない場所を走るのが好きみたいです。アタカマの海岸沙漠には、めぼしい植物はコピアポア属のカクタスといくつかの球根くらいしかないけれど、そういう禁欲的な旅も自分にはあっています。去年、1週間の旅で十種あまりに会うことが出来ましたが、まだ入口に立っただけのように感じます。僕はまだコピアポアの友人にはなれていない。彼らのことをもっと知るために、今年も、来年も、朝の霧に濡れなくては。

 そして、沙漠の旅はつづく。

 2020年、新春に。











テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

2019年1月1日

  
明けましておめでとうございます。


砂漠の旅から遠ざかって、十年近くになります。
出かけると、必ず会いたくなる植物というのがあって、アメリカ西部に分布するアガベ・ユタエンシスもそのひとつ。なんども見ているのに、なぜか足が向いてしまう。岩が露出するような急斜面を息を切らして登っていくと、意外な場所でコロニーに出くわします。生えている山によって、それぞれ顔も違うので、それもまた面白い。




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   Aagave utahensis ssp.eborispina, Clark County,Nevada



これは、エボリスピナ(Aagave utahensis ssp.eborispina)と呼ばれる型。するどく尖った葉先の刺は、象牙のようなやわらかな白。ギザギザ具合には個体差があります。ラスベガスから2時間くらい走ったところにある、近くにはスキー場もある場所で、土がほとんどない岩山にしがみついていました。なかなかハンサムな植物が多かったのでよく覚えています。


基本種のユタエンシス・ユタエンシス(A.utahensis ssp.utahensis)は葉のグリーンがやや濃く、尖端の刺は短い。青磁炉とよばれるネバデンシス(Aagave utahensis ssp.nevadensis)は葉が細みで尖端の刺が漆黒に染まって美しい。でも、典型的な個体は数が少ない。アリゾナ産のカイバブエンシス(A.utahensis ssp.kaibabensis)は、刺がおとなしく、側刺がない個体も見られ、別種のよう。この仲間は最近人気があるようで、国内にも沢山入ってきているけれど、なかには野生株と思しき株もあって、自生地から剥ぎ取られたのかと想像するとちょっと痛ましい。種からでも十数年すれば立派な標本になります。いろんなタイプが出現して面白いので、種が手に入ったら、ぜひ実生してみてください。


という私は、毎年春にサボテンや多肉植物の種を蒔く様になって二十五年くらい経ちました。切れ目のない日常に追い立てられるうちに、植物も、子どもたちも、いつのまにか大きく逞しくなってる。それで自分の方がどうなったかというのは、あまり考えたくないけれども。でもまあ、自転車と一緒で、人生も下り坂の方が楽にスピードに乗って、風をうけて気持ちよく走れるのかな。きっと、砂漠の旅にも出かけやすくなるだろうし。


ともあれ、今年もよろしくお願いいたします。





2019年1月1日
Shabomaniac!
https://www.instagram.com/shabomaniac/












テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

2018年1月1日

    
明けましておめでとうございます。

沙漠を旅していると、単調な平原の彼方に隆起している岩山を見つけるだけで心が躍ります。
多くの魅力的な植物は、斜面や岩肌を好むからです。

アリゾナ州を北上して、ユタ州境を越え、ハイウェイから261号線に入り、北上して進むと、
前方に巨大なメサ、テーブル上の台地が見えてきます。道は巨大なメサに真っ直ぐ向かい、
回避するようには見えません。岩山は大きくトンネルが掘れるような代物でもありません。

聳える岩肌の真下近くに来て、ようやく事態が呑み込めました。道は岩肌の壁面に沿って、
攀じるように垂直の崖を登っていくのです。めまいがしそうな高みに、豆粒のような車が
しがみついているのが見えます。こういうドライブは、日本ではなかなか味わえない。




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         Sclerocactus parviflorus in habitat near Cedar Mesa, SanJuan Co,Utah,USA



スクレロカクタス・パルビフロラス(Sclerocactus parviflorus 和名:彩虹山)は、
シーダー・メサ(Cedar Mesa)と呼ばれる台地の上に生えていました。断崖絶壁を
登ってみると、大地の段差をひとつ上にあがったようにまたひとつの平原になっていて、
そこに単独で咲いていました。数日後には、素晴らしい満開を迎えたでしょう。

彩虹山は、アメリカ中西部の乾燥地に分布するいわゆる難物サボテンのひとつで、
飴色のカギ刺と鮮やかな花が素敵なのですが、園芸家にとって最大の魅力は、
実はその育てにくさ、でしょう。ながいこと、種からの栽培にトライしていますが、
いまだに100点をつけられる標本球には育てられません。
でも、気難しい相手ほど、熱心になってしまうのはなぜでしょうか。




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珍しい、美しい植物を手に入れることはワクワクするし、温室や部屋にそれを飾れば、
いくら眺めても飽きることはありません。けれど、植物と暮らすいちばんの楽しみは、
例えば、彼らが休眠から覚醒し、急激に吸水して輝く新刺を伸ばし、鮮やかな花を
咲かせる、そんな野生のダイナミズムを目のあたりに出来ることだと思っています。

彼らの美は、ファッションやアートのように、人間活動が形を作ったものとは違って、
そもそも私たちの暮らしの外側にあったものです。彼らに心を寄せていくときに、私は、
自分が人であることがどうでもよくなるような、そんな自由を感じることがあります。


だから、いくども自生地を訪ねたくなるのかも知れません。
そして、栽培のヒントも、いつでもそこにあります。
いまから十年前くらいは、毎年1度か2度、沙漠を旅していました。
それも同じ沙漠を、春に、夏に、秋冬にと通い、ときにはそこで眠りました。
植物が感じる炎熱や極寒や、生涯同じ場所から動くことのない生き方を知りたくて。


でも、そこまで思いを寄せても、私を好きにはなってくれない。彩虹山はそういう植物です。
最初に出会ってから二十年以上も経つのに、いまだにこの山で出会った時のような姿を、
栽培下で再現することが出来ていません。これからもずっとそうだと思います。
だから、憧れ続けるのでしょう。これからもずっと。



今年もよろしくお願いいたします。


2018年1月1日
Shabomaniac!
https://www.instagram.com/shabomaniac_2016/






テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。
著書「珍奇植物 ビザールプランツと生きる(日本文芸社)」

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