FC2ブログ

巣ごもり自生地ツアー・アタカマ沙漠編


 生まれて半世紀、はじめからジェットの時代を生きてきたので、こんなに世界が遠くなった経験がありません。二十代の頃から年に一度くらいは海外に出かけてきましたが、去年も今年も、どうも難しそうです。サボテンの自生地旅は、どう考えても不要不急の移動と言われそうで、説明してもなかなか理解を得られそうにありません。









 で、これです。実際に沙漠を走り、岩山を登るのとは比べ物になりませんが、グーグル地図でアタカマ沙漠を訪ねるのが、なかなか面白いのです。コピアポアはわりと大きいので、ストリートビューにしっかり写ってるんですね。試しに少しやってみましょう。
 まずは、チリ北部の町、チャニャラル(Chanaral)からです。このエリアではまあまあの規模の町で、宿もあるし、ガソリンスタンドもある。スーパーもあるので、沙漠旅の補給基地でもあります。このチャニャラルから北に向かうと、コピアポアの聖地のひとつ、パンデアスカル公園があります。ここは道も舗装路なので、とても訪ねやすい。









 沙漠にむかって一直線に伸びる道、これだけでワクワクします。左手が太平洋で、右が海岸山脈。画面右手にみえる山の頂上付近に、世界にここしかない、コピアポア・モリクラ(Copiapoa mollicula)のコロニーがあります。正確にはチャニャラル空港の北側の山です。もちろん登山道などないので、すべりやすい岩山を登るしかない。私は1/4までいって諦めました。もちろん、ストリートビューには映っていませんが。山の頂きあたりには心なしか神々しい気配が漂っているようにも。









 チャンニャラルから北へ、15分くらい車を走らせると、海岸沿いの平原にもコピアポアが現れてきます。上のストリートビューを左右に振ってみると、赤ちゃんの頭くらいのサボテンが群生しているのが見えるはずです。ディテイルは見えませんが、これが竜牙玉(Copiapoa cinerascens)です。同じエリアで岩だらけの場所を探すと、セルペンティスルカタ(Copiapoa serpentisulcata)も混じっていますが、数はだいぶ少ない。両種は似ているので、ストリートビューでは仮に写っていても識別むずかしいかな。ちなみに、埋め込みのストリートビューは進んだり戻ったり左右に振ったり出来るので、いろいろ探してみてください。




resize1856_20210211223112862.jpg

resize1858_202102112231189d5.jpg
   Copiapoa cinerascens in habitat, N Chanaral



 せっかくなので、アップの写真を載せます。黒王などより小ぶりで、肌は乳白色。刺は白から褐色で、黒王丸とは分布域も離れていて、まったく似ていませんが、最近なぜか、黒王丸や孤竜丸が、この竜牙丸の名前で間違って流通しています。インスタでも#竜牙玉で検索すると、ほぼ黒王が出てきますね。なぜだろう?ちなみに、この先がパンデアスカル公園なのですが、ストリートビューが効くのは舗装路が切れるこのあたりまで。残念。もう3キロくらいダートを走れば、道路からコルムナアルバ(Copiapoa cinerea ssp. columna-alba)の大群落が見えるんですが。
 ということで、一気に北に飛んで、もう一か所のコピアポアの聖地、タルタル(Taltal)の近くで、コピのキング、黒王丸(Copiapoa cinerea)を探してみることにします。









 タルタルはひなびた漁師町ですが、海の幸が豊富な食事も美味しいし、感じのよい宿もあるし、長く滞在してもいいなと思う場所です。そしてなにより、ここはコピアポアの宝庫。この町の南北10キロ以内に、黒王丸(Copiapoa cinerea)、白刺黒王丸(C.cinerea 'albispina')、ルペストリス(C.rupestris)、ギガンテア(C.haseltoniana 'gigantea')、逆鱗丸(C.haseltoniana)、ヒポガエア(C.hypogaea)、クラインジアナ(C.krainziana)、さらにエリオシケ(Eriosyce)の各種もあって、実に多彩な顔触れが揃っています。









 そうしたなかで、黒王丸(C.cinerea)はもっともありふれている、といったら失礼ですが、どこにでも生えているので簡単に見ることができます。上のストリートビューは、タルタルから東へ、車で5分ほど走ったところです。このあたりの低い山の谷筋には、だいたい黒王丸の群落があります。このビューでは小さくしか見えませんが、左の柱サボテンが点々とあるあたりに、沢山の黒王があります。この場所に限らず、ビューを移動しながら左右にふれば、そこここに黒王が確認できます。ただ、中に入ってみると、若い苗や小株はほとんどない。道路沿いのコロニーでは、お持ち帰りサイズの株はほとんど見つかりません。











 タルタルから海岸沿いに北に走るのも楽しい。町のすぐ北側の海岸沿いの岩山には、白刺黒王丸(C.cinerea 'albispina')のコロニーがあります。上のストリートビューがそうですが、この白刺黒王は別種というより、タイプ違いといった方がよく、全体の傾向として、内陸の黒王にくらべて細身で稜の谷間が深く、刺は白から黄色です。山を上がっていくにしたがって刺色が黒くなります。この山をサンラモン渓谷(San Ramon valley)沿いに何キロも登っていくと、ルペストリスや、テネブロサ(逆鱗の山岳タイプ)、そしてクラインジアナがあります。もちろんストリートビューでは見ることができないし、丸一日の山登りを覚悟しないと、出会うことのできない雲上のカクタスたちです。
 2枚目のストリートビューは、もう少し北、いわゆるギガンテア(C.haseltoniana 'gigantea')と呼ばれるコピです。タルタルの北の白刺黒王は、次第に逆鱗玉に姿を変えていきますが、ギガンテアは逆鱗のなかで、大柄であまり群生しないタイプの呼び名です。典型的な逆鱗ともボーダレスにつながって分布しています。また、逆鱗は海岸沿いだけでなく、この山をのぼった標高1000m以上の場所にも生えています。同じ山の上のいつも霧がかかる(雲がかかる)ゾーンにはヒポガエア(C.hypogaea)も生えています。どちらも車から降りてすぐの場所には生えていません。









 最後はずっと南に下って、カリザル・バホ(Carrizal Bajo)を中心に、ジャノス・デ・チャレ公園(Parque Nacional Llanos de Challe)を含む一帯。タルタルやチャニャラルあたりに比べると季節的な降雨に恵まれているため、植生も比較的豊かになってきていて、エリオシケなども多数見ることができます。






resize1862.jpg
   Copiapoa dealbata N of Carrizal Bajo



 470号線で海沿いを走ると、ストリートビューでも楽しめるコピアポアの大群落に出会えます。ここはサボテンに限らず、植物が作る風景としても世界屈指の壮観です。黒士冠(C.dealbata)は、直径数メートル、数百頭からなる巨大な群生になりますが、そうした巨大株が一面を埋め尽くしているのが、わかると思います。ここには銅鑼丸の名でも親しまれるエキノイデス(C.echinoides)も混生していますが、黒士冠の迫力にはかなわない。こうした海岸沿いだけでなく、谷沿いに内陸にも分布していて、相当な個体数があると思われます。





   Copiapoa coquimbana East of Huasco



 最後は、私自身、リアルでは見たことのない場所のコピアポアです。気まぐれにストリートビューを眺めていたら、たまたま見つけました。場所はワスコ(Huasco)から、東へ、内陸に入ったあたりで、このあたりには竜爪玉(コキンバナ C.coquinbana)があるかも知れないなぁ、とバーチャルにうろうろしていたところ発見しました。本種はコピで最も南に分布する種で、広い範囲に生えている分、タイプも実に色々あって、コレクションするには面白いのですが、種の特徴がつかみにくいせいか、あまり人気がない。最近は山岳タイプのアンディナ(andina)が結構人気が出てきましたが、これなどもストリートビューで丹念に探せば見つかるかもしれません。実際、コピアポア以外でも、多数の魅力的なカクタスを、グーグルマップ上で探索(発見)することが可能です。お時間がある折に、ぜひデスクトップで自生地探訪に出かけてみてはいかがでしょうか。











幸運なサボテン。

  

resize1821_20201231191927f6e.jpg
   Copiapoa calderana   Quebrada Ánimas Viejas,S of Chañaral



世界中でいちばん雨の降らない沙漠で、
よりにもよって、垂直に切り立った崖にしがみついて生きている。
どれほど不運な生い立ちなのかと同情したくなる。


侮ってはいけない。
実はこの絶壁こそが、彼が生き延びられる稀有な場所なのだ。
過酷な陽光は一日の半分しかあたらず、残り半日はほどよく日陰になる。
陽差しだけでない。乾いた風も適度に遮られる。貪欲なグアナコの食害もない。
そしてなにより、濃い霧が岩肌を湿らせたときには、恵みの水が岩の裂け目に沿って植物の根元に滴る。


このエリアは、最近何十年かの間に、植物の生育には極めて不適な環境に変化しつつあるようだった。
かつては沢山生えていたと思われるコピアポアも、大半は朽ちており、生きている株は少数だ。
周辺の探索で見つかったのは単頭の小さな個体ばかりで、株立ちしたものは枯れていた。
そのなかで、崖にしがみついたこの株は、もっとも大きい。
そして、岩山のよりなだらかな場所に生き伸びている個体よりも青々として、花殻さえ残っていた。
つまり、このあたりでは一番恵まれた環境を引き当てて、我が世を謳歌している個体なのだ。
そう、いつか大きく育ち過ぎて、重力に屈し転落するそのときまでは。


侮ってはいけない。
ヒトの身体感覚で植物を見ても、彼らの生きる姿は浮かび上がってこない。
なにが幸福で、何が不幸なのか、そんな思いをめぐらせることじたいが愚かだろう。
アタカマの北から南まで、海岸、渓谷、丘の上…。
様々なコロニーで、千差万別、コピアポアの生きて死ぬ姿を見てきた。
今年はサボテンの本を書くつもりでいるのだけれど、
その入り口は、究極の沙漠に生きる彼らの物語からにしようと思っています。


2021年、1月1日。


コピアポア・カルデラナ(鬼女冠/帝冠竜)
Copiapoa calderana
Quebrada Ánimas Viejas, S of Chañaral










テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

クレイジージャーニー、カリザレンシス。


 エキノマスタスクレイジーだったことがあります。
 刺、花、稀少性、そして栽培難度。色々な意味で最高峰のカクタスが揃う一群で、手に入るすべての“マスタス”を育ててみたくて片っ端から種を蒔きました。なかで、英冠とならんで、マスタスのなかのマスタスと呼ぶべき桜丸・英丸(Echinomastus intertextus)は、early bloomerと呼ばれ、春を告げる早咲き種のひとつ。私の栽培場でも、いまが花盛りです。




resize0313.jpg
   Echinomastus intertextus 'carrizalensis' SB725 Luna Co, NewMexico, USA



 産地違いでさまざまなタイプがある桜丸のなかでも、少し濃い色の花を咲かせるこの個体は“カリザレンシス” (Echinomastus intertextus 'carrizalensis')と呼ばれる型で、ずっと昔、メサガーデンのリストに掲載されていたものです。その頃蒔いた株はすぐに枯らしてしまい、そのうちリストからも消えてしまいました。そのため今世紀に入って長らく手に入りませんでしたが、2014年に再びリストアップされました。この株はそのとき入手した種を育てたものです。




resize0296_20200308132027313.jpg
   'Carrizalillo Hills' near the Mexico–United States border




 実は、私がこの植物の実物を最初に見たのは、温室やハウスではなく自生地でした。師匠だったメサガーデンのスティーヴン・ブラック氏にあれこれの自生地を教わって、毎年アメリカ南西部の沙漠を旅行していた頃のことです。その年はメキシコ国境に沿って東に旅しながら植物を見ていました。太平丸や亀甲牡丹、様々なエキノケレウスとともに、マスタスも目当てのひとつでした。なかで、ただ一か所でしか見られない、と説明されていたのが、この“カリザレンシス”。ニューメキシコの南にあるルナ郡(Luna county)のさらにその南端、ほぼメキシコ国境にある Carrizalillo Hills と呼ばれる山(丘陵)の特産だと言うのです。
 その場所を具体的に説明しましょう。まずルナ郡の町、ハチタ(Hachita)からハイウェイ9号線を東へ向かいます。25マイルほど走ると、北から下りてくる331号線と合流する。そこからさらに東へ1マイル弱進んだところで、南に下る小さなダート道があります。このあたりでハイウェイの南側には自生地の山塊が見えているはずです。ちなみにいま、このダートの入口をグーグルストリートビューで覗いてみると、いかめしい警察官が検問をしている様子を見ることができます。 




resize0300_20200308132507d9d.jpg

resize0308.jpg
   Echinomastus intertextus 'carrizalensis' in habitat



 当時もメキシコからの不法入国は厳しく取り締まられていましたが、ダートには自由に入ることができました。違法なことをするわけではないし、問題ないだろうと山に入ったのです。人の頭くらいもある石がゴロゴロしているかなり酷い道で、時速5キロくらいしか出せません。それでも、山裾がすぐそこという場所まで入ることができました。車を降りて岩場を探すと、苦もなくマスタスには出会えました。赤褐色の刺を荒々しく密生させたカリザレンシス。タワシにような刺に覆われて、植物本体はまるで見えません。たしかに、他の産地の英丸・桜丸とは違う雰囲気もある。整然と籠を編んだような刺の桜丸、すこし目の粗い英丸、それよりもさらにワイルドな印象で、別名で呼びたくなる気持ちはわかります。岩の隙間に点々と生えていて、それなりに数もある。しかしここ、ほかに目立つカクタスもなく、かなり荒涼とした場所です。ところどころ、スペイン語の書かれた空き缶なんかが散らばっている。





   dangerous locality??



 ともあれ、はじめて出会った植物を夢中で撮影していると、突然頭上が騒がしくなってきました。ヘリコプターがバリバリ音を立てて近づいてきています。おまけに、スピーカーから何やら怒鳴っている声も聞こえてくる。呆然として固まっていると、こんどは地上からサイレンの音も。砂埃をあげて2台のパトカーがこっちに走ってきます。ボーダーパトロールです。まじか?いったい何と勘違いされたんだ?よくわかりませんが、とりあえず両手を上げる。警官が近づいてきて身体を触る。「ここで何をやってるんだ?」「ここにしかないレアカクタスを撮影してたんだよ」足元にあるカリザレンシスを指し示し、カメラを見せます。「どこから来た?」「日本だ」「パスポートを見せろ!」「ほら、これだよ」・・・。このあたりで、緊張が少し緩んだのを感じます。おっかない顔が、呆れた顔に変化しました。・・・まあ、こんな体験なかなか出来るもんじゃないですね。

 まさにカクタスクレイジーのクレイジージャーニーでしたが、あとで聞くと、この山を超えて密入国者が入ってくるだけでなく、実は麻薬の密貿易の場所で、両国の売人がブツと金のやりとりをするのだそうです。エキノマスタスもえらいところを選んだもんです。こんなとこに入ってくると、撃たれて死ぬぞ、みたいなことを言われて、その場所を後にしました。もう二度と、カリザレンシスには会えないんだろうなぁ、と後ろ髪をひかれつつ。じつはこの旅では、国境沿いダートを何時間か走ってエスコバリア・ロビンソルムも見に行こうと思っていたのですが、気持ちが萎えて断念しました。いまではこのあたりにはトランプさんの壁も立ちはだかって、ますます近づきがたくなっているんでしょう。




resize0311.jpg

resize0310_20200308135454d5c.jpg




 ところで、このカリザレンシス、色々調べてみても、正式な記載があるのか、ないのか判然としません。インターネット上にはvar.扱いで掲載されているケースもありますが、おそらくは愛称のようなものと理解すべきでしょう。園芸的にみれば、タワシのようなワイルドな刺、ピンクの花と、基本種との区別はあっても良いかと思います。育てている人がどのくらいいるのか、世界で数人?数十人?かも知れませんが。個人的には、映画の一場面のような光景とともに記憶に焼きついた思い入れ深い植物。あと5年も育てれば、野生株のような荒々しい刺姿になってくれるんじゃないかと、楽しみにしています。













テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

最新記事
全記事表示を読む

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
Google自動翻訳
自動WEBサイト翻訳(多言語)
最新コメント
最新トラックバック
リンク
カレンダー
05 | 2021/06 | 07
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる