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悲劇の温室。

   
 今年の春はよく晴れて、暖かくて、サボテンたちには最高のシーズンにです。ガラス戸を開けて中に入れば、汗ばむような熱気。そんななかで、花も次々と咲いています。しかし今、私の温室はがらんとしています。先日までギッシリだった棚は、半分くらいが空隙です。この話はあまりにネガティブなので、書くのはやめようとも思いました。一方で長年植物との日々を記してきたなかで、素通りして先に進むことは出来ないという思いもあって、温室で起きた悲劇について記録を残しておくことにしました。美しくない画像もたくさん出てくるので、見たくないかたは、画面をスクロールしないでください。




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   Pediocacatus despainii  小さかったから、生き延びた



 3月13日の土曜日、春らしい気まぐれな天気で、午後の関東地方には激しい雨が降りました。それこそバケツを引っ繰り返したような勢いの降りようで、スマホから気象警報が鳴り続けていたのを覚えています。突然、リビングの照明が落ち、テレビの画面がぷつんと消えました。停電でした。我が家は古いので、こうしたことが時々あります。配電盤のところに行き、漏電ブレーカーを元に戻すとすぐに復旧しました。しかし、このとき、屋外の温室に伸びる小ブレーカーだけ落ちたままだったのです。よく考えれば、漏電の原因が屋外にあることは想像がつきます。しかしこの日は、夕方から子どもたちの成人祝い、入学祝いの食事会などがあって、停電のことはすぐに頭から消えてしまいました。




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   あの日、こんなふうに天窓は開いていなかった
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   焼ける、というのはこれほどまでに惨いことなのか

 

 翌日からは毎日晴れて、サボテンたちには最高の日よりのはずでした。私はそのあと数日、仕事などが立て込んでいて、温室をのぞくタイミングもなく、日々が過ぎていきました。17日の水曜日、たまたま午前中に時間ができて仕事前に温室を見ておこう思いました。青い空、輝く太陽、素晴らしい天気。なのになぜか、温室のある風景が歪んでみえます。いつもの眺めと何かが違うのです。階段をあがって、温室の戸を開き、中に入ると異常な熱気です。顔を上げて上を見ます。天窓がぴしっと閉じたままです。さっき感じた違和感はこれだったのか。晴れの日は必ず開いているはずの天窓が閉まったまま。そしてこの煮え立つような温度。何が起きているかは、考えなくてもわかりました。全滅かも知れない。上の写真たちは、まさにこの日に見た光景です。南西側にぐにゃりと湾曲したエキノマスタスの群像。一生忘れることができないでしょう。植物体の南西面を焼かれ、そこがケロイド上に引き攣れるために、ねじ曲がってしまったのです。丈の低い植物たちは、焼き潰れて形がなくなっているものもありました。ほぼすべての植物が大なり小なり焼けどを負っていました。冒頭のペディオは、そんななかで、小ささゆえに他の鉢の影に入る時間が長かったのか、奇跡的に難を逃れて、のどかに開花していたのでした。でも、よく見ると下の方がすこし焼けています。でも、涙が出ましたね。




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   Echinomastus dasyacanthus  完全に焼けてしまった株
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   Sclerocactus glaucus  このサイズでも、10年経っている
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   Sclerocactus mesae-verdae  実生20年。かけがえのない植物の死
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   棚はそこらじゅう隙間だらけに



 結局その日は、電源を復旧させる以外何もする気持ちになれなくて、その後2週間くらいは温室に近づかず、植物のことを考えないで過ごしました。一番大きな被害を受けた温室は、ペディオ、スクレロ、エキノマスタスといったいわゆる北米難物サボテンを育てている場所でした。最も大事にしているので、家から離れたハウスではなく手元で管理していたのです。ようやく、意を決して再び温室に入ったのが、先週の土曜27日。ダメになった鉢の片付けをしました。200鉢くらい捨てました。4坪の温室のうち、完全にダメになったものが半分くらいでしょうか。いずれも種子から十年、二十年かけて標本にしたものなので、もう一回ゼロからやり直すことはたぶん無理でしょう。そもそも種子の入手も難しくなりましたから。残る半分も生き残るか微妙なものがかなりあり、そうでなくても火傷が酷くて、作り直すのに5年10年はかかるものばかりです。完全に無傷だったのは小さなペディオなど30鉢くらいでしょうか。




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   Euphorbia stellispina
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   Aloe descoingsii ssp. augustina
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   Pachypodium namaquanum



 実は、自宅に他に2つある小さな温室も、ほぼ同じ状況でした。加温室になっているコーデックスハウスもあるのですが、ここも同じ電気系統なので、四分の一くらいが焼けました。パキポの若苗やユーフォルビアのタコモノ系の半分くらい、ガガイモ類。アロエのピランシーやカスティロニアエ。このあたりは溶けて萎んでしまうので死んだことがすぐわかります。いまでは凄い値段になっているコーデックスたちも、もし煮えてしまっていたら、このあと葉が出てこないでしょう。刺サボテンが入っている温室では、大龍冠や紫禁城なんかが焼けました。同じ温室のテフロもかなりやられました。驚いたのは棚下や重遮光のコノフィツムも結構やられたことです。これらは焼けたというより高温で煮えた、という感じで、プビカリなどの小さいものが壊滅でした。これら難物以外の温室は、まだ片付けもやっていないので被害の全容が見えませんが、全体で300~400鉢がダメになったのではないでしょうか。いつもヤフオクを手伝ってくれる息子はもったいない、と言ってくれますが、長い年月、丹精した植物たちは、お金を出しても買い戻せないところがいちばん辛いのです。




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   この状態なのに、蕾が膨らんできた
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   残念ながら、花を咲かせる余力は残っていなかった
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   生き延びた株は、だいたいこんな状態
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   Sclerocactus busekii  奇跡的に無傷だったごく若い苗



 植物を育てていると、こうしたことはたまに起きます。これまでも日焼けや、地震での棚崩れや、台風で水浸しになったり、暖房機が故障したり、何かしらの事故で、大切な植物を何度も失ってきました。しかし、これほどの規模、数で、しかもコレクションのコアな部分をやられたことはありませんでした。普通ならこれで断捨離の方へ舵を切って、この道楽はやめにする、というところかも知れません。いっときはそう考えました。ただ、先週末温室に入って、球体の半分以上を焼かれながら、なお新刺を伸ばし、開花しようとする植物たちを見て、気を取り直しました。焼け焦げてひしゃげた姿になっても、なお生きようとする植物の息づかいは、それだけで尊くて、美しいのです。
 そんなわけで、さっそくこの春の種まきの準備を始めています。きょうは名札を200枚ばかり作りました。ガラガラになった棚を、これから10年、20年かけてもとに戻そうと思います。










テーマ : サボテン・多肉植物・観葉植物
ジャンル : 趣味・実用

早春のスケッチ。

  
 
 今年は暖冬でした。とりわけ2月になってからは暖かい晴れの日が多かったから、サボテンたちの動き出しも早かった。先週末、北米難物カクタスの大半に水をやりましたが、多くは順調に目覚めてくれています。これらのカクタスと向き合っていると、たった一回の水やりが持つ決定的な意味を実感します。




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   Echinomastus johnsonii Shabo0102
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   Sclerocactus brevispinus RP25
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   Pediocactus knowltonii SB304



 真っ赤な刺の英冠(Echinomastus johnsonii)。これで播種から6-7年経っています。まだ新刺は覗いていませんが、吸水してふっくらしてきました。元気な株は、刺が下まで色褪せません。スクレロのなかでは、やはりコロラドやユタの北方系はスタートに必要な温度が低いからか、動き出しが早い。ブレビスピナス(Sclerocactus brevispinus)やグラウカスは、新刺や蕾がのぞいています。自生地では、雪解け水で膨らむペディオ・ノウルトニー(Pediocactus knowltonii)もあと2週間もすれば花が咲くでしょう。




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   Pediocactus peeblesianus ssp.fickeisenii Shabo9823
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   Pediocactus peeblesianus f.menzelii  RP116
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    Escobaria missouriensis ssp.marstonii RP 150



 小型種は伸縮が激しいので、一度の水やりで様子が大きく変化します。飛鳥や斑鳩(Pediocactus peeblesianus)は、ぱんぱんに膨らんで、成長開花のスタンバイ。春先のひと雨だけで、一年を過ごすこともあります。同じアリゾナ原産のエスコバリア・マルストニー(Escobaria missouriensis ssp.marstonii)は、潅水前は地中にもぐっていましたが、潅水一回で、むっくり起き上がってきました。砂を払ってやりたくなります。




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   Echinomastus mariposensis SB412
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   Echinomastus intertextus 'dasyacanthus' Shabo0222
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   Ancistrocactus brevihamatus SB376



 エキノマスタスの先陣を切って咲くのは、藤栄丸(Echinomastus mariposensis)です。一拍遅れて桜丸・英丸(Echinomastus intertextus)も開花します。どちらも自生地では春を告げる花として知られています。薄桃色の花弁と真っ赤な柱頭、桜丸の花は本当に春らしくて、冬を乗り越えたことを実感させてくれます。旧アンシストロカクタスも、早咲きです。玄武玉(Sclerocactus(=ancistrocactus)brevihamatus)系統はもう満開。これらは夏場の水やりで塊根を傷めることが多いので、この時期に一気に成長させます。




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   Sclerocactus polyancistrus SB1773



 こちらは、まだ水やりまえのスクレロ・白紅山(Sclerocactus polyancistrus)。刺がみっしりと詰まって、これはこれで美しい。もう少し温度があがってからの水やりの方がいいかなと思って、先週潅水を見送りました。でも、明日からは3月。本格的な春の到来です。来週、いや再来週には水やりが出来るかな。















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冬の難物カクタスと気の早い種まき。


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   Sclerocactus polyancistrus, seed grown plant
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   Pediocactus paradinei, 15years from seed



 まもなく立春。二月の声を聞くと春はすぐそこです。晴れた日のガラス温室は汗ばむくらい暖かくて、サボテンたちもそわそわと、動き出す準備をしているように感じます。澄んだ空気、陽差しに刺色が映えて、どの植物もとても美しい。




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    Pediocactus peeblesianus ssp.fickeisenii grown on its own root
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   Escobaria missouriensis ssp.marstonii RP150 



 休眠中のペディオ・斑鳩(Pediocactus peeblesianus ssp.fickeisenii)も、なんとなく刺に生気がみなぎっているように感じます。ぺしゃんこに縮んで地面に潜っているのはエスコバリアのマルストニー(Escobaria missouriensis ssp.marstonii)。でも、土の中でうずうずしているに違いない。このふたつはアリゾナの丘陵地に分布しますが、どちらも自生地で見つけるのは難しい。マルストニーが地上に顔を出している期間は年に2か月あるかないかで、私はまだ出会えたことがありません(もしくは気づかなかっただけかも知れないけれど)。




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   Sclerocactus glaucus
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   Pediocactus knowltonii both in bud



 小さな蕾をセットして、春のスタートダッシュに備えているサボテンもあります。スクレロのグラウカス(Sclerocactus glaucus)とペディオのノウルトニー(Pediocactus knowltonii)、どちらもアメリカ・コロラド州の標高の高いエリアがふるさとで、冬期は積雪もあります。雪に埋まって何か月も過ごすこともあり、春先は雪解け水で地面がかなりウェットになるようです。

 私は2月の半ばにプテロカクタス(Pterocactus)に水やりをし、2月下旬にはノウルトニーや月華玉などのペディオカクタス(Pediocactus)、エキノマスタス(Echinomastus)の桜丸などに水やりを始めます。ほかのスクレロ類も3月頭にはスタート。冬の潅水は乾きにくいものですが、この系統のカクタスは早春の低温多湿には案外強いのです。一方で多くのカクタスが好む高温期の水やりは苦手。なので、水やりは5月の上旬でおしまいです。植え替えも私の経験からは真冬のうちに済ませるのが良いようです。




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    Winter sowing of cold hardy cacti.



 そしてもうひとつ、実は今日、ペディオカクタスや南米産のプテロカクタス、アウストロカクタス(Austrocactus)など高緯度の寒冷地に自生地するカクタスの種子を蒔きました。これらの自生地は冬期は土が氷結したり、雪に埋もれたりしますが、早春に気温があがり、氷や雪が溶けてぬかるんだ土壌で発芽すると言われています。実際、厳冬期に播種して好成績を得たことがあります(不発のときも、もちろんありますが)。




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   leave sowing tray outdoor, to exposure to the coldness.



 蒔き鉢を並べたバットは、むろん屋外に置きます。大粒の雨で土が荒れないようにネットだけ被せて、雨風にさらします。霜がおりたり凍ったり、できればいっかいくらい雪も積もってほしい、なんて思いつつ、かじかむ手をこすり合わせながらの種まきでした。※今回の写真は、すべてiphoneで撮影しました。

















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プロフィール

shabomaniac!

Author:shabomaniac!
沙漠植物を中心に、世界中の面白い植物を栽培中。主に種子からの育成に力を入れています。植物とのつきあいは、幼少時代から40年。著書:
「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」
(日本文芸社)
「多肉植物サボテン語辞典」
(主婦の友社)

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